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第10章 一冊の闘病記

急遽退院となった秀二

だが、彼は良くなって退院したわけではない。

毎日、痛みとの戦い

結局彼は半年後に痛みに耐え切れず、3度目のオペをした。


退院後、クローン病自体は良くなったが、相変わらず精神的に不安定だった。

精神科にも通うが、薬物依存性にまでなってしまった。


手は震え、ろれつも回らない状態だった。

また、ラリッて訳の分からない事を言い始めた。

さすがに親は心配になり、内科の担当医と相談し、精神科に通うのは中止となった。

だが、今まで大量に強い安定剤などを飲んでいたのにいきなり中止してしまったため、彼はさらに不安定になっていった。

仕事もせず、道場にも行かず、完全に引きこもりとなってしまった。


母親も心配して、様子を見に来るが、相変わらず無気力であった。


そんなある日、兄弟子の北斗が秀二の家に訪問してきた。


ピンポーン

とブザーを鳴らすが秀二は出てこなかった。


「秀二、いるんだろう」

だが、返事はなかった。

10分くらい北斗は待ったが出てきそうもないので帰ろうとした時、ようやく秀二は玄関を開けて姿を見せた。


「なんですか?」

「なんですかじゃない!中に入るぞ」

そう言って北斗は中に入っていった。

「館長や他の皆が心配しているぞ。弟の秀三もうちのカミさんも皆がお前のことを心配しているんだ」

「はあ」

「こんな姿を真奈ちゃんが見たらどう思う」

「もう真奈はいないじゃないですか」

その言葉に北斗は腹を立てた。

「俺よう。お前のことを凄いと思っていたんだぞ。病気と戦い、さらに命の大切さを伝えようとCDまで作って、頑張っているんだな~て思っていた」

「……」

「だが、今のお前はなんだ」

「自分自身でもどう生きていいか分からんのです」

「誰だって世の中が嫌になることはある。俺だって仕事で嫌な事があると、どうでもいいなんて思ってしまう。でもそれを支えてくれる家族や仲間がいる。お前もそうだろう」

「はあ」

「秀三はな、今の兄を見ているのが辛いといっていた。お前、弟に心配掛けてどうするんだ」

「はあ」

「まあ、他人の家庭のことをあまり言いたくないが、お前のお袋さん、離婚後もお前の面倒を見てくれたんだろう」

「はい」

「秀三だって、兄を励ましに行っていますと言っていたぞ」


秀二が中学の時に親は離婚し、父親が兄と秀二を、母親が秀三を引き取ったため、秀三とは離れて暮らしていた。

その後、兄秀一は保育士になり、瑠奈という女性と職場結婚し、現在は一男一女の父親だ。

秀二にとっては甥と姪で、甥の名は龍一、姪は麗羅という。

また、そんな秀一に憧れて弟の秀三も保育士になろうと勉強中であった。


「とにかく皆、お前のことを心配しているんだよ。んで、うちのカミさんからお前にプレゼントだ」

そう言って渡されたのは一冊の闘病記であった。


「俺もこれを読んだが、感動した。お前もこれを読んで、また命の大切さを思い出してほしい」

「はあ~」

「まあ、いいたい事はそれだけだ。今度は道場で会おう」

そう言って北斗は帰っていった。


だが秀二は渡された闘病記を読もうとはしなかった。

その本の内容は、17歳の少年が癌と診断され「生きる目標」のために東大、早稲田といった入学するのが困難な大学にあえて挑戦し、見事合格した。

だが、入学して間もなく彼はこの世を去ったという内容だ。

秀二も内容くらいは知っていた。

だが、この本を書いたのはその少年の母親だ。

彼は心の中で自分の子供を金儲けの道具にしたんだ。

そう思ったため、読む気にはなれなかったのだ。


そして秀二は何日も生きているのか死んでいるのかわからん状態でいた。


だがある日、今まで読もうとしなかった闘病記に彼は興味を持ち始め、いつの間にかその本を読み始めた。

そして読み終えて、この本を書いた母親がどんな気持ちで書いたのかが分かった。


「俺はなんて情けないんだ。そういえばガキのころから最強の武道家になるのが夢だとか言っていたが、精神的にまず弱いんだよ」


だが、このときに出会った一冊の本が、彼に新たな「生きる目標」を見つけることとなる。




「少しは恩返しができたかな」という闘病記。

この本をぜひ読んでみてください。

僕は今でも落ち込むと読んでいます。

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