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悪役令嬢は追放された先で、伯爵令嬢のように庇護欲をそそる令嬢になれば良いと思いつき。領地経営を無茶苦茶にして、元婚約者の王子の気を引こうとしたが、転生者メイドの策略により何だかんだで幸せになった話

作者: 山田 勝

「民を統治するのに、愛などいらない!愛などいらないのよ!」


「はい、お嬢様の仰せの通りでございます」

「視察に行くわ!民が汗にまみれて働いている姿を確認するわ」

「馬車と護衛騎士の用意をさせます!」


 お嬢様とメイドの会話である。ここはビクトリーヌ公爵家の飛び地の領地、ルド領である。

 公爵令嬢は追放されこの領地に閉じ込められた。


「民に愛などいらない。この噂を聞けば、アルヘルト殿下は来てくれるかしら」

「はい、飛んで来るでしょう」


「護衛軍準備完了!」

「さあ、お嬢様!」

「オホホホホホホ、私の姿を見て、民は怯えるのね!行くわよ。ソフィ!」

「はい、お嬢様、地獄までお伴します!」


このお嬢様は民からはザーム様と呼ばれていた。



 ・・・・・


 視察が始まった。領都大通りである。



【ウラー!ザーム様のお通りだ!道をあけろや!平民ども!】


 人相の悪い騎士が先触れを出すと、その後に巨大な馬車と護衛軍が見えてきた。



 まるで山車のような四頭並列のオープン馬車の豪華な椅子にザームは座っていた。

 黒髪にエメラルドの瞳の釣り目。一目で厳しそうな印象を与える。


 フカフカの椅子に浅く腰掛け。肘掛けに右腕の肘をあて、顎に右手の掌を当てている。

 怠そうである。


 その脇に茶髪、碧眼のいかにも地味なメイドがひかえる。先ほどのメイド、ソフィだ。いつでもお茶を飲めるようにするためだ。



 平民達は大騒ぎだ。


「・・見ろ。ザーム様だ!」

「何て、りりしいお顔」

「みんなー、整列してお出迎えだ!」


 ワー!ワー!ワー!ワー!



 ヨロヨロ~


 一人の老人が群衆の中から道に出てきた。ザーム様の車列を塞ぐ。


「ドウドウー!」

「「「「ヒヒヒーーーン?」」」」(どうしたの?)


 馬車は止った。


 先触れの騎士が老人の前に出て進路を塞ぎ馬車に近づくのを防いだ。


「おう、爺さん!何をしているかぁ!」

「あ~、何だって、ワシは80歳じゃ」

【だから、ザーム様の視察じゃ!】

「はあ、シッコはトイレでするのう。何を言っておるのかのう」

【だ・か・ら・シ・しか・合ってないじゃん!】



 シーン!


 静まった。緊張が走る。



 馬車の主、ザーム、正式な名をザームヘレナ・ビクトリーヌと言う。メイドに尋ねる。



「ソフィ、あれは何かしら・・・」

「はい、お嬢様の車列を塞ぐ不届き者。年を取り。歯が抜けて、お粥しか食べられないのでしょう。罰として、肉を渡して食せと命じれば震えるに違いありません」

「そ、委細任せるわ」

「畏まりました」



 ・・・・・・





 後日、老人の家に肉が届けられた。

 孫娘と二人の寂しい家だ。


 ドン!


「爺さん!ほら、肉だ。これでも食べていろ!ザーム様からの命令だぁ!」


「お爺ちゃん!何をしたの?」

「はあ、生きている間のう。ザーム様のお顔を拝見したくてのう。近づいたのじゃ」


「え、お爺ちゃんの80歳の誕生日に・・・グスン、お肉煮るね」

「いや、ワシはステーキが食いたいのう」

「分かったわ。焼くわ」


 ジュルジュル~~~



「美味しいのう。スーザンも食べるのじゃ」

「はい、お爺ちゃん。私も頂いているわ」

「皆を集めるのじゃ!振る舞おう」

「はい、お爺ちゃん!」


 この世界、肉は貴重品だった。

 老人でもガツガツ食べるほどである。





 ・・・私は、ザームヘレナ・ビクトリーヌ。

 ビクトリーヌ公爵家の令嬢だったのよ。

 アルヘルト王子殿下の婚約者だったわ。


 しかし、王子は伯爵令嬢を側に置くようになったわ。

 私は嫉妬して・・・意見をしたら、断罪をされたわ。

 そして、この僻地に追放されましたの。



「グスン、グスン、ソフィ、暴虐の噂、王都に届いているかしら」

「はい、王都ではお嬢様の噂で持ちきりです。王子殿下も気が気でないでしょう」

「そうね。きっと、来て下さるわ」



 伯爵令嬢は庇護欲をそそる令嬢だった。

 手が掛かる。

 きっと、そんな令嬢が好みだったのね。


 だから、私も手が掛かる令嬢になれば良いと思い付いたの。


 領地経営を滅茶苦茶にすれば・・・王子は来て下さる。

 そうよね。きっと、そうだわ。



 あれは・・・三年前。この領地に来た時の記憶を遡るわ。




 ☆三年前


「グスン、グスン・・・領地経営が手がつかないわ。私もイレーネみたいに庇護欲をそそる令嬢になれば・・・殿下は来るかしら」


「お嬢様の仰せの通りです。しかも、この領地の住人たちは怠け者です。冬は働かずに家にこもっています」

「そうね。私がこんなに苦しんでいるのに・・・」

「ええ、家で夫婦、恋人たちは愛を育んでいるに違いありません。外に出しましょう。滅茶苦茶にしてやりましょう」


「分かったわ。ソフィに任すわ」



 ・・・・・・



 ☆☆☆冒険者ギルド



「な、何だって、道の補修工事を行うだと!」

「日給が支払われて・・・」

「女たちも炊き出しで雇う!」


「はい、お嬢様のクエストです」


「「「「やる!やる!やる!」」」」



 ・・・・・・




「まあ、皆、汗水垂らして働くようになったわね」

「はい、しかし、まだ、足りません。平民の子供達は、何もする事もなく・・・ほら、あそこで鼻水を垂らして、ボォーとしている子供がいます」


「まあ、私がこんなに苦しんでいるのに・・・」

「はい、お嬢様は幼少の頃より、厳しく令嬢教育を受けてきました。その苦しみを味合わせましょう!」



 領民たちに文字の読み書きできる者は少ないわ。

 だから、吟遊詩人に歌わせて、周知しましたの。


 なるべく、怖い顔のフランク劇団にやらせましたのよ。

 これもソフィの提言よ。


 領民は震え上がったかしら。



【オラー!6歳以上の子供は!】

【学校に行け!】

【読み書き計算を無料で教えたるとのザーム様の命令だ!】



「何だって、無料で子供達に読み書き計算を教えてくれるだと!」

「・・・そしたら、商会に勤められるようになるかしら・・・」

「だな!」


「「「「行かせる!行かせる!行かせる!」」」


 私が自ら教壇に立って、ビシビシ教えたわ。



「うわ。綺麗なお姉さん」


「お黙り!トム!宿題を忘れたわね!廊下に立っていなさい!」

「は~い」


 これは、ソフィから教わった。

 令嬢教育、失敗したら食事を抜かれる。


 平民にとって、廊下に立たされる事は最悪の屈辱!


 しかし、あれだわね。

 何か足りない。



「ククク、お嬢様、もっと良い方法がございます」

「何かしら・・まあ。それが平民に取って屈辱なのね」



 ・・・・・・


 テストを行った。目的は平民同士の分断よ。民の間に差を設ける。



「リリー、貴女はテスト1番よ。よって、表彰よ。お菓子をあげるわ」

「え、そんな。良いのですか」

「ええ、貴女一人で食べなさい。分けてはいけないわ」


「「「いいなーー」」」

「俺も食べたい!」


「お黙り!トム!お前は怠けてばかり!」

「ウエ~~~~ン」


 差をつけて、良い者は厚遇する。

 これは競争を知らない平民にとっては恐怖以外の何物でもないわ。



 更に。


「お嬢様、学校に行かない子供がおります」

「まあ、苦痛を味わいたくないのね」


「親が学校に行かせないと公言をしております」

「不届き者ね!騎士を派遣しなさい!」


「いえ、それよりも、良い方法がございます」



 ・・・・・



「うわー!学校でご飯が出るの!」

「すごい。スープとパン・・・グスン」


 ・・・この世界の庶民は二食が主流だった。

 やがて、その噂を聞き。

 学校に行かない子供が給食目当てでやってきた。

 その中に給食だけを食べに来る子供がいた。



「まあ、貴方は?何故、昼にだけ来るのかしら」

「ご飯を食べに行ってこいと親が・・・」


「まあ、不届き者ね。食事だけに来るなんて・・・帰りなさい!」



 これは、ソフィが騎士を派遣して、親を恫喝してもらった。

 この子は親の仕事を手伝っていたようだ。


「そんな。こんなデニスでも、市場で下働きをさせれば人を雇う給金を節約できるんだ!」

「うつけ者!そんな事は知らんわ!食事だけのために学校に行けと命じるその性根!お前の商売が上手くいかないのはそういった根性だからだ!」


 ガミガミと数時間、叱ってもらった。

 平民出身の騎士ね。やるわね。

 私の側近に取り立ててもいいわ。


「はい、このギリース、お嬢様に忠誠を誓います」

「そう、親に問題があるのね。ビシビシやりなさい」

「御意!」


 ・・・平民出身のギリースは、教育の重要性に気がついていた。

 後に、ソフィと共に忠臣の一人に数えられる。



 しかし、学校に行かない子がいるわね。親子そろって、反対のようだわ。

 学校は魔道で人をゴーレムに変えるとかデマを流しているわね。


「どうしようかしら、ソフィ」


「はい、お嬢様、学校は馬鹿らしいと言っております。馬鹿になれない馬鹿はほっとくのが上策かと」


「そうね。それでいいわ」



 しかし、私とソフィだけでは手が余るようになってきたわ。

 そんな時に、ソフィが王都から人を連れてきてくれた。

 評判が最高に悪い教師よ。

 いいわね。ソフィ。


 老人の変人数学者、ガリーよ。



「ワシはガリーと申します。男爵家出身でございます」

「まあ、よろしく。貴方はどのように平民の子供を躾けるのかしら」


「詰め込み教育です!計算は数をこなさなければ身につきません!」


 ソフィが平民の知能に合わせて、カリキュラムを組んだわ。

 これは悲鳴が聞こえてきたわ。



「そ、そんな。ザーム様は来られないのですか!」

「やだわ。ザーム様を見に学校に行っているようなものなのに」


「時々、視察にくるそうだ!お前らの成績はお嬢様が目を通すぞ!」

「「「はい!」」」


 フフフフ、良いわね。


 しばらくして、ソフィがまた王都で変人教師を連れてきた。

 校長にするとの事よ。良いわね。


「クレベと申します。平民、商会員出身でございます」


「貴方はどうやって、平民の子供を躾けるの?」


「躾け?いえ、人の能力の可能性は無限大です。多種多様な科目を入れるべきかと・・・これは王都では受け入れられませんでした」



 ソフィが騎士団の体育担当や。細工ギルドや、お針子ギルドの教師を見つけてきたわ。

 それぞれの得意分野で平民の子供を躾けるの。


 これで、悲鳴をあげるわね。いろんな科目をやらされて目を回すわね。



 ・・・・・


☆体育


「これからかけっこを始める。ヨーイ!スタート!」



「トムが一位か?騎士の見習いはどうだ?」

「うわ。僕が騎士様!」

「頑張らないとクビだ。それか兵士になる。学問も必要だぞ」

「はい!頑張ります!」



 ・・・・





 ☆お針子科目


「まあ、貴女、腕が良いわね。卒業後、お針子ギルドに来る?」

「え、いいのですか?私の親はお針子とは無縁の農家ですけど・・」

「一度、親とお話したいわね」

「はい!」



 ・・・それぞれ、教師は有望な子供をスカウトする結果になった事をザームは悪逆と考えた。



「クレベ、どうかしら」

「はい、順調です。やはり、基本的な読み書き計算があってこその能力です。因果関係がありますね」


「そういった事ではないわ!結果よ。子供たちはどうなっているのかしら」


「はい、教師が有望な子供をスカウトしております」


「良いわね。もう、将来が決まるのね。私のように・・・」



 私は幼少期より。王子の婚約者として、王子妃になる事を宿命づけられていたわ。





 ☆回想


「ザームヘレナ様、食事抜きです」

「はい・・・」



 アルノルト殿下は・・・



「アハハハハ、その演劇を見に行こう」

「殿下が気に入るのは間違いなしですよ」



 社交を深めていた。

 成績は優秀だけど、何か物足りないと評価されていたわ。


 王宮にあがる度に陛下と王妃殿下に呼び出されたわ。


「ザーム嬢、アルノルトを支えてくれ」

「ええ、そうよ。貴女がしっかりしなければならないわ」


「御意にございます」


 陛下と王妃からもそう言われればと。

 私が頑張らなければと決意を固めたわ。


 貴族学園に入学してからも、殿下は少しも変わらないわ。



「殿下、もう少し危機感をお持ち下さいませ。平民の台頭。ご兄弟も実績を上げていますわ」


「また、ザームの小言か。実績は卒業してからでも良いだろう」

「待って下さいませ!」



 それから、殿下は、伯爵令嬢を側に置くようになったわ。


「アル様ぁ~、キャア」


「これ、イレーネ。令嬢なのに走るな。転んだではないか。手を貸そう」

「だって、殿下のお姿を見たら・・」

「愛しいな」



 私は注意をしたわ。

 そしたら、ますます殿下は伯爵令嬢にのめり込むようになったわ。


 王宮に呼び出されたわ。


「ザーム嬢よ。アルノルトの気持が離れているぞ」

「貴女がしっかり気持をつなぎ止めていないからよ」


「申し訳ありません」


「でも、伯爵令嬢なら、高位貴族ではある」

「まあ、しかも、イレーネ嬢の家門のアルケン伯爵家の領地は商業が盛んな地域よ。麻織物ね」

「それも、良いかもな・・・王子の一人くらい好いた相手に娶せても・・」



 陛下から婚約者交代を匂わされ。

 家でも。


「フウ、ザーム!どうして殿下の心をつなぎ止められない」

「お父様、申し訳ございません」



 そして、殿下が学園を卒業する日に、断罪をされたわ。


「そちは傲慢だな!貴族、貴族と貴族ばかり見ている。イレーネは民を慈愛の情で接している!我は真実の愛に目覚めた。よって、お前とは婚約破棄だ!」

「殿下ぁ、ザーム様がお可哀想ですわ」


 何、何で貴女に可哀想と言われなきゃいけないの。


「まあ、アルケン伯爵令嬢様、愛称で呼ぶ許可は与えていませんわっ!それに私は可哀想ではありません!」


「ヒィ」

「イレーネの慈愛が通じない者がいるのだな。我の背中に隠れよ」


 賠償金をもらい。公爵家の領地の僻地に謹慎を言い渡されたわ。

 飛び地ね。

 もう、王都に出てくるなと言うことだわ。


 なら、アルノルト殿下が気になって来て頂ければ。




 ・・・・・・・・・



「グスン、グスン、何が悪かったのかしらソフィ」

「お嬢様は何も悪くはありませんよ。さあ、お眠り下さい」

「・・・トムをいっぱい叱ったけど、やり過ぎたかしら」

「大丈夫です。トムはギリースに鍛えられています。お嬢様が叱ったから耐えられるみたいですね」

「そうかしら・・・」

「さあ、就寝のお時間です」






 ☆ソフィ視点


 私は平民ソフィ。

 公爵家からついて来た唯一のメイド。


 私は転生者だ。

 気がついたのは12歳の時。熱病に冒された。



「ハア、ハア、ハア、ゴホゴホ!」

「全く、ランドリーメイドが・・・うつるから納屋に隔離だよ」


 目眩がする。景色がクラクラする。


「「チュー!チュー!」」


 ネズミが私のご飯を食べている。

 死ぬのね。

 良いこと無かったな。いつも叱られていた。


 ガラン!


 そんなとき。扉をあけて入ってくる人がいた。

 あれは、お嬢様・・・


「ちょっと、使用人名簿と合わないから探したけど、こんな所に押し込めていたの?」


「お嬢様、謎の熱病です」


「はあ?なら言いなさい。マネジメントも私の仕事なのだから!」

「申し訳ございません」


 え、お嬢様は令嬢教育だけじゃなかった。夫人が亡くなり・・・

 夫人の仕事もやっていたの?

 お嬢様の令嬢教育は完璧だと評判だわ。


 更に仕事をしていたの・・・


 回復術士を呼んでくれたけど、効かない。

「もうね。薬も出したし。先生も呼んだわ。女主人としてやる事はやったわ。後は貴女次第ね」


「・・・有難う・・ございます」

「話さなくてもいいわよ!食事だけは出してあげるわ!」



 夢を見た。

 あれは・・・アカデミー。


 ケインズ経済学・・・小さな政府。夜警国家・・・


 膨大な記憶に体が耐えられなくて熱を出しているのね・・・


 前世で言うとアップデートをされた私はいつかお嬢様のお役に立てるように機をうかがった。


 お嬢様の追放で、使用人達は手の平を返したが、私は違う。


「ザームについて行きたい者はおるか?ルド領だ」

「ヒィ、辺境ではないですか?私はお父様に相談しないと・・」

「私もですわ」


 寄家出身のレディースメイドたちは、散々お嬢様からドレスをねだってもらったのに。


「私、行きたいです。旦那様、行かせて下さい!」


「まあ、いいだろう。君は?」

「はい、ランドリーメイドのソフィと申します」

「まあ、良いだろう」



 お嬢様に支払われた領地経営資金を元に、事業を行った。


 そろそろ機は熟したか。

 皆を集める。

 この領地に有力者たちだ。

 私は尋ねる。ここ数年で針が落ちる音も聞き逃さないような体制を作った。


「民の様子は?」


「はい、酒場では、大人はカードゲームをやっている者がチラホラ」

「賭け拳闘が流行っています」

「子供達は遊んでいます。最近は、勇者ごっこが流行ですかね」

「夕方になると、各家庭から、食事のための煙が立っています」


「そう・・・頃合いね」


 民の元気が余っている。


「攻勢を掛けます。アルケン伯爵領の特産は服飾関係ですね。こちらも麻で勝負をします」

「しかし、値段的に・・・」

「大丈夫です。この領地は物価を下げるようにしています。この領地は僻地だけあって、経済がこの領地で完結しています。一度、安いと思わせれば取引は続くでしょう。後は品質です」


「「「はい!」」」


 しかし、まだ足りない。



 森林沢藪は宝の山だ。

「それから、開拓団も作ります。ただ、これは支援金を出せない代わりに、税金は三年取りません」


「「「オオオー」」」

「俺らで出すぜ」

「沼で魚を捕れば、一石二鳥だ!」



 やがて、この領地は噂になり。他国からも視察団が来るようになった。




 ☆王都王宮



「アルヘルト、どうした。民への施策を全く出さないではないか?」

「イレーネの案はダメでしょうか?」

「ダメに決まっておるわ!王都市民に金を配る案など、財源はどうする!しかも、お前の人気取りのためだな!」

「申し訳ございません」



 ザームがいなくなってから、父上は厳しくなった。

 そう言えば、今まではザームが父上から叱責を受けていたようだ。

 まあ、それだけは役に立っていたか。



「アル殿下ぁ、良い案だと思ったのに・・・」

「イレーネ大丈夫だ」


 何故なら、アルケン伯爵がついているからだ。


「殿下、実は王都に支店を出そうと思います。どうか、お名前をお貸し下さい」

「もちろんだ。義父ぎふ殿」




 ☆一方、ルド領



「ソフィ殿!王都に支店を出しましょう」


「いいえ。少し成功したから王都に行く。それは田舎者の発想だわ。私達は地域で1番になれば、やがて、王都の商会から支店が来るようになるわ」


「しかし、王都で高く売られたら」

「収益が増すことは、費用も掛かる事よ。

 得べかりし利益は取らぬ火トカゲの皮算用よ。その代わり。王都への輸送はこの領地の者を雇わせるように交渉します」


「はい」



 ・・・・・


「ソフィ殿、沼地でフナやクチボソが多量にいます。いくら、開拓団でも食せないと・・・」


「良いわね。魚はカリウム、窒素があるわ。肥料として畑に埋めなさい」

「カリウム?チッソ?」

「何でもないわ」


 後に、林檎の木に使ったら、大きな実をつけるようになったわ。

 ショウガの畑にも相性がよかった。

 これで特産品が二つ出来た。

 多角経営、麻織物だけに依存していたら危険だわ。





 やがて、この領地の噂を聞き。

 アルヘルト王子とイレーネがやってきた。

 かなり窮乏をしているようだわ。


 お嬢さんと私、ギリース、顔が怖い吟遊詩人を集めて、会見に臨む。



「助けてくれ!ザーム。伯爵殿の借金が我の名になっていた。名義を貸したからとか・・・・同罪だと・・・父上からも見放された」


「グスン、グスン、ザーム様ぁ、同級生ですわ。助けて下さい・・・ここで慈愛の心を見せれば、私は第二夫人で良いですわ。お屋敷を用意して下さい」



 トンデモない提案だわ。

 さあ、お嬢様は何て答えるのだろうか?

 皆は、緊張する。



「グスン、グスン、アルヘルト殿下」


「水くさいな。アルと呼べ」



 こいつ、婚約中にも愛称呼びを許さなかったのに。


「申し訳ございません。私は汚れた女です。断罪された腹いせに、民をイジメ。酷使しましたわ。殿下に侍る資格はございませんの・・・援助でしたらソフィに相談して下さいませ」



「待て、ザーム!」


 何だか、知らないけど、お嬢様は勘違いされた。

 この機に乗じる。


 私はギリースに目で合図をした。

 ギリースはハンドサインで合図を送る。相手は、この日のために用意しておいた。

 顔だけ怖いフランク商会の吟遊詩人達だ。



「ヒヒヒヒヒ、ザーム様は暴虐令嬢よ」

「そうさ。民は『ヒィ、ヒィ』言って恨んでいますぜ!」

「ザーム様に相応しいのは、豪傑だぜ!」


「「ヒィ」」


 ブルブル震えている所に助け船を出す。


「殿下、イレーネ様、提案がございます。この紙に経済の秘策を書いておきました。殿下から進言をすれば陛下は喜ぶでしょう」



「・・・そうか、分かった。ザームの案だな」

「殿下ぁ、早く行きましょう」


 一目散に逃げて行った。

 この案は受け入れられないだろう。

 陛下に怒られるが良い。




 その後、実家の公爵家から金策の話が来た。


 何でも、親孝行をしろとの事だ。

 つまり、金を寄越せ。何か良い話を回せだ。



「どうするソフィ」

「公爵閣下からですね。良いです。お金を貸しましょう。委細、私にお任せ下さい」


「助かるわ」




 ☆公爵邸公爵視点


「な、何だと。質に爵位を入れろと!何て娘に育ったのだ!」


 しかし、何やら領地経営はたまたま上手くいっているらしい。

 化粧料として渡した領地を返してもらおうか。



 しかし・・・・待ったが掛かった。ライバルのエンダール公爵家が絡んでいた。



 ☆☆☆貴族院



「何ですと!娘のものを返してもらって何が悪い!」


「ですから、まず。この領地の領主は、ザームヘレナ様で、亡くなるまでザームヘレナ様の化粧料です。ご自身で登記をされましたよね」


「まさか、あんなに、栄えるとは思わなかったぞ。それに、貴族院ならば融通が利いたはずだ!」


「ですから、今から厳しくなりました。こう、コロコロ大貴族の思惑で変わったら登記の意味はなしえません」


「役人ぶぜいが!今に見ておれ!」

「私はエンダール公爵家に縁のある者でございます」

「何だと!」

「ご忠告します。しばらくは王都を離れた方が宜しかろうと、何やら良からぬ政策が採用されるようです」

「何だと!命令か?」

「いえ、ご忠告です」



 ・・・一方、ザーム様のいるルド領にエンダール公爵家の三男、ウルリッヒが訪れていた。

 21歳、ザーム様とは同年齢である。



「ザームヘレナ嬢・・・政略もあるが、実は前から好きだった。王家からの横やりで婚約が解消されるまで・・・ビクトリーヌ公爵家とエンダール公爵家は和約をするはずだったが、ご夫人が亡くなられて流れてしまった。王家の分断統治のためだ」


「グスン、グスン、でも、私、暴虐令嬢ですのよ」

「なら、私も暴虐令息になるまでだ!」




 ☆ソフィ視点。


 あれから、ウルリッヒ様は宿を取り。屋敷に通っていらっしゃる。

 お嬢様の傷が癒える日は近い。


 今日は、お二人で一緒に、領内を視察だ。

 あの四頭、オープン馬車に二人で乗られる。


 民の悲鳴『ヒー、ヒー』と聞こえてきた。



「ヒー!ザーム様が!婚約されるのか?」

「ヒー!俺・・・どうしたら良いのか?明日から、いや、今から何を希望にして暮らせばいいのか?」

「「「「ヒー!ヒー!ヒー!」」」」


 主に男達だ。

 女衆が諫める。


「うるさいね。男衆は」

「馬鹿だね。ザーム様とお前ら釣り合いが取れないよね」

「分かっているけどさ!夢見るくらい良いだろう!」

「はん?夢は寝て見るものだよ!寝言は寝ていいな!」



 私は馬車で二人の後ろにひかえている。


「お嬢様、ウルリッヒ様、お茶をどうぞ」

「ありがとう・・・ソフィ」

「ソフィ殿、有難う。・・・民から『ヒーヒー』と聞こえてくるな・・」

「はい、お嬢様は民に人気がございますから」



 その時、一組の男女が出てきた。


 あれは、ウルリッヒ様は気がつき。お嬢様を庇う。



「王子とイリーナ嬢か?!さあ、ザーム嬢、私の後ろに!」

「何ですの?ウルリッヒ様、キャア、近いわ」(ポッ)



 王子は言う。元王子か?


「おい、ザーム、何だこれは!紙のお金を発行したら、最初は良かったけど、すぐに、何だ。あれになったぞ!」


「そうよ。誰も使いたがらなくて、王家の威信が落ちて、追放されたのよ!」



 まさか、お札を刷る案をそのまま採用したの?



 ・・・ソフィの誤算。お札を発行する。この案は採用されないだろうと思っていた。


 しかし、日本で言えば、平安時代、インフレが始まった。時の為政者は神社仏閣にインフレ撃退の祈願をさせたと云う。

 原因は、新しく作った銭は、今まで作った銭の10倍の価値があると布告を出したからだ。

 経済という概念がない時代であった。



「まあ、何ですの?ソフィ?アルヘルト殿下にしては・・・みすぼらしい格好ですわね」

「王家を騙る狂人でございます。護衛に捕まえさせます」

「任せたわ」



 二人は、すぐに、ギリースたちに捕まり。牢に連れて行かれた。

 職ぐらいは世話をしてやろうか?


 そうか、王都は混乱しているか。

 なら、次は王家だ。

 この隙に乗じられないだろうか?


 ・・・ソフィは策略を巡らす。

 後に、しばらく王都、特に王家は混乱したが、今上の陛下は退位、王妃と共に幽閉される事になる。

 それでも混乱は収らなかったが。


 突如、王宮にエンダール公爵家の後ろ盾を得た茶髪、碧眼の女官が現れ。

 アルケン伯爵の領地を経済的損失に充てる策が発表された。

 いくつかの策を発表し。王太子殿下から王宮に慰留を求められたが、固辞し。ルド領での就職を希望したと云う。


 後に、ルド領の女領主は、ウルリッヒと婚約した。

実家のビクトリーヌ公爵家は経済的に貧窮し。王命により公爵は引退をさせられ。寄子から優秀な養子を迎え建て直しが図られる事になる。


 この引退劇には女官と新国王になる王太子の間で密約があったとされる。


 彼女は領地の騎士と結婚し、女領主を支えたが。

 その名はソフィとだけ記されている。

 ソフィの出自は不明である。

 相当な高度な教育を受けた他国の門閥家門出身であろうと歴史官は記している。



最後までお読み頂き有難うございました。

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― 新着の感想 ―
ヒー!ザーム様ー!ちょっと抜けてる天然かわいいー! これだけ知識があるソフィさんならもっとエグい仕返しが出来そうですが…(国盗りか建国だって出来そう) ザーム様のために丁寧にぐるーりと穴を掘り進めま…
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