『速記者と泣き女』
速記者の家に、娘が二人いました。
あるとき、上の娘が亡くなってしまいましたので、速記者の家では泣き女を雇いました。泣き女というのは、葬式のときに大げさに泣いて、葬式を葬式らしく演出してくれる女です。自分の知識の中になくても、外国には、そういう風習があったりするものです。
下の娘は、姉の死を受け入れられず、泣くことができませんでしたので、母親に尋ねました。お母様、私はお姉様のために泣くことができないのに、泣き女たちは、どうしてお姉様のことを知りもしないのに、ああやって泣くことができるのでしょう、と。
母親は答えました。泣き女たちは、感情で泣いているのではないの。仕事で泣いているのよ、と。
下の娘は、それじゃ、速記の朗読者と同じね、と返して、速記者である父親に張り倒されました。
教訓:仕事は仕事、役割は役割。