第5話 異世界
ミイの住む住居、一応王や王妃が住んでいるので王宮と言いたいところだがハッキリ言ってそれとは程遠い至って普通の家だ。
リビングのテーブルをミイの両親である王と王妃を中心にヤマトも同じく座っている。
「この度は何やら娘を助けていただいたようで感謝します」
王であるポンセがヤマトに話しかけると。
「いやついでみたいなもんだ、いきなり襲ってきたから反撃したまでだ」
「しかし、よく見たところ貴方様は人間のようですが?宜しかったので?」
「あいつの国とは関係ないし、それに人間同士争うのは別に珍しいことじゃないだろ」
「ほほう、そういうものですか。いや私どもも人間を見たのは初めてでしてそこら辺の事情はよくわからんのです」
「オレもわからん、そこのアルバインだったか?お前ならよく知っているだろ」
ヤマトは隣の椅子に座るアルバインに話を振った、その話を聞けばこの異世界のことを少しは理解出来るだろう。
「私達の国、アルテミスのある大陸は人族を中心としておりそこでの亜人の扱いは酷いものです。先程ヤマトさんに討たれた提督の態度でそれとなく理解出来るかと」
「そんなに酷かったのか、じゃあ殺して正解だったな」
そこへ鼻息荒く話し出すミイ。
「そうだよ!サラちゃん達なんて……………」
ヤマトは、サラというのは先程のガタイのいい女性のことだろうと理解した。薄着の体の線がハッキリとわかるような格好をし辱めを受けたのだろうと。
「本当に申し訳ない、止めるよう嘆願したのですが私も煙たがる存在だったもので全く聞いてもらえず……………」
アルバインは謝罪するが、軍隊という組織で上官の命令に背くことは出来ないのはヤマトはよく知っている、それが例え間違っていようと。
「それで?お前達は何しにここに来たんだ?」
ヤマトの問いにアルバインが応える。
「勢力拡大のため新天地の発見が目的です、まさか亜人達が住んでいるとは思ってもいませんでしたが」
「私達を大陸に連れていくつもりだったんでしょ、奴隷にするって」
ミイが少し怒り気味に話す、ヤマトという強力な味方をつけ先程までの怯えた表情とはうってかわり強気だ。
「その通りです、本国で亜人達は例外なく全て奴隷という身分で一切の自由は認められず非道な扱いを受けています」
「やはりそうなのだな、ご先祖様はそこから逃げ出しこの地に根づいたと」
ポンセの話によればそれはもう100年前のことだと、きっとそれよりもずっと昔から大陸では同じ扱い同じ境遇だったのは想像にかたくない。
「それで、沖に停泊している船にはまだ人間がいるんだろ?それをどうするかだな」
ヤマトが考えているのは残りの人間をどうするかだ、アルバインもこれからどうするのか気になるところではあるが、もし和平をするのであれば亜人を差別しないアルバインの存在は貴重だ。
「それはヤマトさんにお任せします、私のことももし処罰するのであればこの身を任せます」
「いや、お前は話のわかるやつだからオレは手を出さない。さっきのサラとかいう女がどうしたいかわからんしここの連中に任せる」
そこへタイミングよくサラが扉を開き家に入ってきた。
「とりあえず部下達が話し合いに行ってくれってんで任せて私だけ来ちまった」
「サラちゃんごめんね…………」
ミイは本当に申し訳無さそうにサラに謝る、最初はガタイのいい女だなと思っていたが、よくよく見ると中々の美形だなとヤマトが眺めていると。
「えっと、ヤマトさんだっけ?ありがとな、めちゃくちゃ強くてビックリしたよ」
「ん?まあ、あんなのは序の口だ、本当の力はまだ見せてないからな」
「マジか!あれよりすごいってどんだけよ。というか人間だよね?どこから来て何でこの島にいるんだい?」
サラの問いに周りもそう言えばそうだ、そんな疑問が湧いてくる。
「まあ、それは後にしよう。それよりサラ、このアルバインは知ってるか?」
「ああ、その人だけ私達のことを気にかけてくれてたのを見てたよ、結局上官には逆らえなかったけどね」
「そうか、じゃあ処罰とかは求めないか?」
「私はそんな気は毛頭ないよ、部下達も見てたから同じじゃないかな」
「そうか、良かったなアルバイン命拾いしたな」
それでもアルバインは申し訳無さそうに立ち上がり深々と頭を下げた。
「それでも私はあの提督達と同じ人族に変わりはない、1人でも異論があれば私は甘んじて処罰を受ける覚悟だ」
ヤマトはその男気に好感を持ち、尚更この男はいてもらわないと困ると感じていた。
「とりあえずアルバインはどうするつもりだ?」
「私はホトホト愛想が尽きました。出来ればこの地に留まり協力させていただきたい」
「帰らないのか?」
「帰ってもまた遠征に送り込まれるでしょう、私は本国では煙たがられていますから」
アルバインの話によると、アルテミスでは武力に重きを置き国中から才能のある者を募っているという。そこで選ばれた者に神剣を与え勇者として召し抱え、国中から羨望の眼差しで見られ目標とされる風潮があるという。
大会なども開かれ、そこで優勝した際には一生食うに困らない財産と高い地位が約束されアルバインはその優勝者でもあった。
なのでアルバインが体制を批判しようとも、処罰しては国民に不信感を与えてしまうという理由で公に処罰出来ない。
それならばと命の危険がある遠征へと何度も参加させられていたらしい。
「まあ、その辺は王様と相談してくれ。そうなると残りの人間達をどうするか」
王であるポンセもどうしていいかわからずにいた。そもそも遠征部隊が帰って来ないとなりそのままにしておくだろうか?かと言って帰してしまえばこの地のことが知られてしまう。
「遠征部隊が帰って来ない場合本国ではどのような行動を取るだろうか?」
ポンセの問いにアルバインが応える。
「沖に停泊する船は最近造られた魔導船で、外洋へ出るために造られたものでもあるので諦めずに再度送り込むでしょう、しかも次は数を増やして」
「うーむ、かと言って帰してはこの地が知られてしまうし…………困ったな」
しばし沈黙の時間が流れる。
いずれにしてもこの地の存在が知れるのはもはや時間の問題、かと言ってこの地を捨てても行き先がない。
沈黙を破ったのはミイだった。
「ヤマトさんは軍人さんなんでしょ?何かいい案はない?」
「ん?んー、ないこともない」
「え!あるの?」
ヤマトの発言に一同目を向ける。
「いつかはここも見つかるならあいつらを帰してさっさと見つけてもらえばいい」
「それじゃいっぱい来ちゃうんじゃ?」
「そうだな、大軍で来てもらったほうがいいな」
「えー!負けちゃうよ!」
一同何をこの男は言っているのだと訳がわからない表情だ、しかしヤマトは本気だ。
「オレが全部沈めてやるから心配するな、あんな帆船相手に間違っても負けることはない」
そこでアルバインもたまらず口をはさむ。
「本気ですか?アルテミスが本気を出してくればすぐに100や200の艦隊でやって来ますよ!」
「問題ない」
あまりにも自信ありげな発言だが、100や200の艦隊相手に戦闘にすらならないのではないかと全員が思っていた。
「そうだな、口より実際見せたほうが早いな」
ヤマトは立ち上がると。
「とりあえず沖にいる5隻のうち3隻沈めてくるから、残りはそれ見て逃げ出してそのまま国に戻れば次は大軍で来るだろ。見下してる亜人相手に負けたまま大人しく引き下がるはずもない」
とにかく全員ヤマトが何を言ってるのか全く理解出来ないでいた、しかしそれはすぐに理解することになる。
海岸にヤマトが現れ、それ以外の者は距離を取ってそれを見つめていた。近寄りすぎると巻き込まれると言われてのことだった。
「さて、お帰りいただくかね」
ヤマトが森から町に出る際1日の空白があった、それはこの異世界に来て自分がどのような力を持っているのか試行錯誤していたからだ。
「」