第3話
話はまた町の中心へと戻り。
「いや………」
アルテミスの指揮官、名をゴリアスと言うらしい。そのアルゴスはミイに目をつけ夜の伴をさせようとし、ミイはそれを拒絶していたのだが。
「お前に拒否権などない、言われた通りついてくればよいのだ。そうすれば優しく扱ってやる」
ニヤニヤ
アルゴスの周りにいる人間達はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらミイの全身を下からナメるように眺め。
「ふひひ、そうだぞ。大人しくついてくれば痛い目にあうこともないし気持ちよくさせてもらえるぞ」
なんとも気色の悪い連中だ、ミイを始め周りにいる住民全員がそう思っていた。だが断ればどうなるか想像にかたくない、庇い立てすれば先程のように簡単に命を奪われてしまう、そう考えると足がすくみ姫であるミイを助けようと前に出られない。
「待て!それなら私がする………だからミイには手を出さないでくれ」
そう声を上げたのはサラだ、そしてその配下の女獣人もそれに合わせて前に出てきた。
「あ?お前達が…………うーん、お前達か………」
正直、サラ達近衛兵はガタイがよく女性らしさはまりない。
「顔はまあ美形ではあるが………」
「姫にそんなことをさせるわけにはいかない!私達がその役目をするから」
余計なことを口走ってしまったサラ、その国を治めるにはそこの権力者を押さえてしまえば簡単だ。
「ほほう、お前がここの姫なのか。それは良いことを教えてもらった」
「あ!しまった……………」
「そうだな、時間はたっぷりある。お楽しみは後に取っておくとするか」
奴隷というのは色々と役割がある、兵力、労働力、そして美形の女性であれば夜の相手。その夜の相手となれば売る時に処女かどうかで金額の桁が変わる。
「よし、それではお前達は家の中へ入れ。姫とやらも逃げようなどと思わないことだ、そうなればこいつらがどうなるかわかるだろ?まあ、こんな海のド真ん中で逃げる場所などないだろうがな」
心配そうにサラ達を見つめるミイの目には涙がたまっている。
「ミイ、私達は大丈夫だ。そのために近衛兵なんて役柄を引き受けてるんだ、こいつらに何をさせられようと私達は負けない」
「サラちゃん…………ごめんね」
そして、サラを含めた10人ほどが家の中へと入っていく。
「うは!またデカい女ばっかだな!」
ウヒャヒャヒャヒャヒャ!
部屋にいた人間達の下品な笑い声が部屋中に響き渡る。
「まずは私が選んでからだぞ!残りはお前達の好きにすればいい。さて………どれにするかな」
アルゴスは他の兵を制止させるとサラ達を嫌な目つきで選別し始めた。
そこへ1人の人間が声を上げアルゴスの前に立つ。
「提督!このような真似は止めて下さい!」
「またお前かアルバイン」
アルバインという男、金髪で立派な剣を携え他の人間とは異質な存在だとサラは直感していた。
「このようなことは敵を増やし恨みを買うだけです!ここは会話による和平案を提示するべきです!」
「はあ…お前はまだそんな青臭いことを言っているのか。そんなだから国1番の剣の使い手なのに神剣を下賜されんのだぞ」
「こんなことを続けていてはいつかは国を滅ぼします!アルテミスとていつまでも強国であるとは限りません、敵を増やし続けていればその時も近くなってしまうでしょう」
アルゴスは呆れ顔でため息混じりに応える。
「我がアルテミスは安泰だ、それに力で制圧したほうが手間と時間をかけずに済むだろう。お前のやり方では時間がかかりすぎるし反乱の危険も増す、力を与える暇なく力で制圧したほうが何かと効率がよいのだ」
「しかし、このやり方ではいつかは…………」
「もうよいもうよい、全くお前は剣の腕はピカ一なのにもったいないことよ」
いつもの光景のようだ、アルバインという男は本来であれば神剣を与えられ勇者を束ねる筆頭となってもおかしくない人物のようだ。しかし、アルテミスのやり方に異を唱えることから本国からも嫌煙され、こうやって遠征部隊に参加させられることが多い。
そして、結局は多勢に無勢で唯一人異を唱えても周りが賛同することはなく、ほとんど無視するような形で進行していく。
「そうだな、お前がここのリーダーか?確かサラとか呼ばれていたな」
「あ、ああ」
「その目よ、まだ私は屈しないといった目つき。その強気が明日まで保てばよいがな」
そしてサラはアルゴスに連れられ奥の部屋へと入っていき、アルバインは歯を食いしばりながらそれを見送ることしかできなかった。
「すまん…………」
そして翌朝。
人間達が寝泊まりする建物の前にミイの姿があった。自分の身代わりとなったサラ達がどうしても心配であった。
「サラちゃん達無事かな………」
そしてしばらくすると、ミイと数人の住民の前に宿屋から1人の人間が出てきた。
「ふう!もうこんな時間か、ちとハリキリすぎたな。って、ん?」
ミイ達に気づいた男が。
「何だ?心配で様子を見に来たのか?」
「サラちゃん達は無事なのよね?」
「ああ、安心しろまあ無事と言えば無事だ」
小さなミイもサラ達が何をされていたかは理解していた、その前にサラの性格からしてもしかしたら抵抗し命を取られているのではないかと心配していた。
「うう、サラちゃん達ごめんね…………」
「まあ無事かどうかは見ればわかるか」
男がそう言うと、宿屋の中へ向かってサラを呼び少し時間をおいてサラが外に出てきた。
「サラちゃん!」
「あ、ああ、ミイか。大丈夫だ、私は大丈夫だから…………」
しかし、その姿は殴られたのだろうか、顔中にアザが見受けられ薄着の肌着1枚羽織るその隙間からもアザが見え隠れしていた。
「酷い………」
怒りの表情のミイの前に、サラの後方からアルゴスが姿を現す。
「よほど心配だったと見えるな、わざわざ朝から様子を見に来るとは」
「サラちゃんに酷いことしないで!」
「最初から素直にしていれば痛い目に合うこともなかったのだがな、まあ今はこの通りだ」
サラの様子を見ると、いつもはピンっと立った耳は垂れ下がり、顔も言うなれば負け犬のような顔つきだった。夜の間に何があったのかその様子を見れば一目瞭然であった。
「お前達劣等民族にシツケをしてやったんだ、主従関係をハッキリさせんとお前達は調子にのるからな」
「そんな、だからって………」
そんな様子のミイを見てアルゴスはイラっとしたのだろう。
「この地の権力者であるお前からシツケをする必要があるな」
その言葉を聞きミイは恐怖におののきサラが激昂し大声で叫ぶ。
「そんな!話が違う!ミイには手を出さない代わりに私達が!」
それを聞きアルゴスがツカツカとサラに近寄って行くと、サラの耳が垂れ下がり。
「あ?お前まだ対等な立場と思っているのか?お前達は我らが人族の命令に従っていればいいのだ!」
アルゴスは手を振り上げながらサラに叫ぶと。
「ごめんなさい!ごめんなさい!もうぶたないで!お願いだからもう…………痛いのは嫌………」
あのいつも強気なサラがそんなセリフを吐くとはミイを始め他の者も聞いたことはなく、昨晩相当酷い目に合ったことが予測される。
「ふん!いちいた逆らうな面倒臭い!」
アルゴスは振り向きミイの近くまで寄り。
「そうだな、お前が素直に来るというならこいつら全員を帰しても良いぞ?」
「え……………」
アルゴスはサラに聞こえないように小声でミイにそう提言してきた、ミイはすぐには返答せず色々考えてはいたが。
「私が行けば他の誰にも手を出さないと誓ってくれますか?」
「そうだな、それはこれからのお前態度次第だな」
アルゴスは亜人との約束事など守る気はない。とりあえず姫を従属させてしまえば他の者を従わせるのも容易になるのでそれらしく提案した。
そこへ、アルゴスの後ろからあの男が声をあげる。
「提督!それはお止め下さい!」
アルゴスはその声を聞いて、またかとため息混じりに。
「またお前かアルバイン」
「この地の姫を凌辱するなど恨みを買うだけです!それにサラという者が我が身を捨てた行為を無碍にするなど非道というもの!」
「また青臭い事を、本来であればお前は私よりもずっと高い地位になっていてもおかしくはない、だから遠慮していたが今は私が上官である!軍隊において上下関係はハッキリとさせておく!」
「ぐ!……………」
それを聞いたアルバインは何も言えなくなってしまった。
「わかれば宜しい、さて姫様はどうする?」
ミイは了承すればこれから自分の身に何が起きるのか理解している、恐怖におののきながらも。
「はい、わかりました………」
ニヤ
アルゴスは勝ち誇った顔でミイの肩に手をかけた。
その時だった。
「何だ?人間いるじゃねえか。って何か揉め事か?」
ミイの後ろにいた住民の間から、背は高く黒髪で黒目の真っ白な軍服を身にまとった男が現れた。