第2話 一宿一飯の恩義に
コンコンコン
「おーい!誰かいないかー!」
森の中を彷徨い、そこで発見した家の扉をノックするヤマト、すると。
ギギィ
建付けが悪いのか、きしむような音をたてながら扉が開くと。
「はい、あらどなたかしら?」
出てきたのはため息をつくような、線の細い金髪の人形のうに顔の整った白人と思われる女性が現れた。
「すまない、実は迷子になってなここはどこだか知りたい」
不思議そうな顔をする女性、そして安易に扉を開けてしまったが目の前にいるのは人族。女性は警戒感をあらわにしながらも質問に答える。
「どこと言われましても、ここはコンペイ島の外れにある森としか」
「コンペイトウ?いやそんなに警戒しないでくれ、ってまあ怪しいと言われればその通りなんだが危害を与えるつもりはない」
ヤマトもまさかこんな森の中に可憐な女性が住んでいるとは思ってもいなかったので少し慌ててしまった。
「はあ……あなた人間ですよね?」
「ん?まあ、人間だが君は違うのか?」
パッと見は人間だが、よくよく見るとやたら耳が長い。俗に言うエルフという亜人種だが耳を除けば人間そのものだ。
「何故人間がこんな所にいるのか知りませんが、もしや大陸から来たのですか?」
ヤマトは返答に困った。元々は戦艦で〜の辺りから話しても意味がわからないだろうし警戒感を増すだけだ。
「実は記憶がないんだ、気づいたら森の中にいてどこからどうやって来たのか、自分が何者なのかも全く思い出せないんだ」
「記憶が…………」
女性はヤマトの姿を再確認する、真っ白な軍服を身にまとっており手には剣を握りしめている。人族がこの地を発見し攻め込もうとしているのではないかと勘ぐってもおかしくはない。
「長居する気はない、コンペイトウとはどの国に属する所なんだ?」
「国?」
お互い何を言っているのか理解できず会話が成り立たない。ヤマトはまだここが元いた世界と思い込んでおり、そのつもりで質問をするため女性には何のことだか全く理解出来ない。
「そうね、とりあえず悪いことを企んでいる様子はなさそうね。お茶を淹れるから家の中に入って」
女性は埒が明かないと悟り、まずは落ち着かせるため家の中に招き入れた。男を家の中に招き入れるなど無用心すぎるのだが、ヤマトの顔や目つきは精悍そのもので悪事を働くようには見えずそのような行動を取った。
エルフは長命だ、若くは見えるがこの女性は200歳を越えておりそれなりに人を見る目に自信があったようだ。
「すまん、実は飲まず食わずで森の中を彷徨ってたんで喉がカラカラだったんだ」
自然と言葉にするヤマトであったが、転生前は人ではなく飲むことも食べることもない無機物の存在。だが今はそんな疑問が湧く前に水分補給をしたい一心だ。
中に入るともう1人の女性がソファーの上にうつ伏せで寝っ転がって本を読んでいた。
「自己紹介がまだだったわね、私はサーシャ、そこで横になってるのはナターシャよ」
「オレはヤマトという名だ、すまんがそれ以外の記憶が定かでないのでな許してくれ」
ソファーで横になっているナターシャは特に興味は無さそうで、軽く会釈をするとまた本に目線を戻していた。
コポコポコポ
サーシャがお茶を淹れカップに注ぐと、ヤマトはそれを一気に飲み干した。
「ふう、助かった。染み渡るようだ」
「よほど喉が乾いていたのね、もう1杯どうぞ」
今度は一気に飲み干すようなことはせずにゆっくりとお茶を飲むヤマト、そして先程の質問の続きを始めた。
「それでさっきの続きなんだが、ここはなんて国なんだ?」
ヤマトは最初沖縄にいると思っていたが、この
白人の女性がいることでどこか違う国に流れ着いたと思い質問をする。
「国と言えるものではないですけど、ここは亜人達が暮らす土地。そこに何故人間であるあなたがいるのかこちらが質問をしたいのですけれど記憶がないのよね?」
「亜人……?亜人とはなんだ?」
元の世界では聞き慣れない言葉、外国人ではなく亜人という呼びかたにヤマトも首を傾げ不思議そうな顔をしていると。
「私達エルフや町にいる獣人達を総称した言葉です。それも忘れてしまったのであれば重症ね」
「獣人?けものの人って書いて獣人?」
「ええ、猫族や犬族、狐族など様々です」
「猫?犬?狐?…………」
もうヤマトの頭の中は混乱の極みだ。国がどうこうの前にエルフだ獣人だ猫だ犬だと益々訳がわからなくなっていく。
「人族であれば大陸から来たはずよね、大陸の亜人達は絶滅してしまったのかしら?」
この地に住む者も大陸が今どのようになっているかの情報を知るすべもなくサーシャがそのように考えるのも無理はなかった。
そこからサーシャはこの地には何故亜人達しかいないのか経緯を話し始めた。昔から亜人達は人間に迫害され奴隷として扱われ、それは東の大陸にある国アルテミスに限らず西の大陸でも同じこと。
その環境から逃れるために危険を冒しながらもこの地にたどり着き、人間の手が届かないこの地でひっそりと暮らし始めたことなど。
ヤマトも話を聞いているうちに理解してきた、ここは元いた世界とは異なる世界だと。
「なるほどな、それじゃオレは君たちの敵ということか」
「そうなんですけどね、でもあなたからは人間とは違うもっと……何か強いものを感じます」
「そうは言っても人間であるオレを快くは思っていないだろ、ありがとう色々話を聞けて助かったよ」
そう言ってヤマトは立ち上がり家を出ていこうとすると。
「困っているのでしょ?あなたからは人間特有のなんというか、邪気みたいなものを感じないし今夜はここで休んでいって」
「いいのか?」
「ええ、困っている人を追い出したら夢見が悪いわ」
ヤマトはその申し出に甘えることにした。この世界の事情もわからず町に出ても怪しまれるだけ、それならば出来るだけの情報を教えてもらいそこから行動したほうが最善と考えたからだ。
「すまん、では一晩だけ世話になる。礼になるような物があればいいのだが………」
「気にしないでいいわよ、ただこんな場所だから本当に簡単な食事しか用意出来ないし寝る場所もそこのソファーよ?」
「いや十分だ」
そして夕食時に色々話を聞けた。
「サーシャ達は何でこんな町から離れて暮らしているんだ?」
「エルフは森の民、それに町の住民のほとんどが獣人だから少し窮屈なの」
「仲が悪いわけじゃないのか」
「悪くもないし良くもないわ、こんな狭い土地で争い事なんてしたら大変だしある程度の距離を取ったほうがお互いいいのよ」
「そういうもんか」
ここで再度念を押された、ヤマトは人間であるということ、町に姿を現せば当然警戒されるしもしかしたら攻撃されるかもしれないということ。
そして簡単な地図を渡され、印のついた場所にこの地を治める王の住居があるという。
「王様は温厚なかただからいきなり攻撃されることはないと思うけど、その周りの衛兵は当然警戒するでしょうから気をつけて」
「王様か、まずは会ってみないとな」
その日はそこまでにして眠ることにしたヤマト、翌日は町に向かう予定だ。
そして翌朝。
「おはようヤマトさん、ソファーじゃよく眠れなかったかしら」
「いやよく眠れたよ、外じゃ地べたに寝るしかなかったしな」
サーシャは朝食の準備をしながらヤマトに問いかける。
「今日は早速町へ向かうの?」
「ああ、特に急ぐ必要はないんだが妙な胸騒ぎがしてな」
「昨日も言ったけど気をつけてね、軍人さんがどれだけ強いかわからないけど」
「強さ………か」
考えてみれば元の世界ては世界最強の戦艦として君臨していたヤマトではあったが、この世界に来て人間の姿となりその力はどうなっているのか自分自身わからなかった。
朝食を取り終えると、ヤマトは唯一の持ち物である軍刀を腰にぶら下げ。
「ありがとう、この恩はいつか必ず返す」
「大袈裟ね、大したもてなしはしてないわ」
「それでもだ、敵である人間のオレを色々と世話してくれたんだ」
「律儀な人ね、そうね軍人さんならもしこの島に敵が来たら味方になってくれるかしら?」
「わかった、この身にかえても守ってみせる」
ヤマトはサーシャの家を後にし町へと向かい、そこで胸騒ぎの正体が判明することとなる。