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ミミック大東亜戦争  作者: ボンジャー
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第八話 蛇の巣その二

 皇道派将校たちが、メイドさんのペテンに嵌っている頃。


 赤坂表町三丁目の私邸で大蔵大臣高橋是清は珍客を迎えていた。

 

 客と言うより曲者と言った方が正しい。


 音もなく、眠る自分の枕元に現れた相手に対して、高橋は一服付けながら気楽に応じた。


 伊達に激動の明治を生き抜いて来たわけではないのだ、肝が据わっている。

 

 刺客であるならばとうの昔に殺されている。それに助けを求めた所で、この相手には叶わないだろうと言う直感もあった。


 「で、君は私にどんなご用かね?まさかこんな爺に夜這いではあるまい?可愛いお嬢さん」


 高橋の話しかけた相手、黒髪のメイドさんは微笑みながら首肯した。


 「はい、私、高橋様にどうしてもお伝えしなければいけない事がありまして此処に参りました。どうかお聞き届けください。これは日本の未来に関わる事なのでございます」

  

 「未来の為とは大きく出たね、言ってごらんなさい。この爺に何か出来る事があるかもしれない」


  愉快そうな様子で高橋は答えた。


 誇大妄想を抱えている様には見えないこの女性が、何を言い出すのか少し興味が出たのもある。

 それに何歳になっても美しい女性に頼み事をされると男は弱いものだ。


 「はい、では此方をご覧ください」

 

 メイドさんは高橋の言葉に答え彼の額に手をかざした。一瞬の出来事に、のけ反ろうとした高橋であったが、彼の脳内にどっと流れ込む情報の渦に目を見開き動きが止まる。


 数分後、呆然としていた高橋が口を開いた。


 「つまり何かね?君たちは私に帝国を救う手伝いをして欲しいというのだね?」


 「そうでございます、私たちの造物主はその為に私たちを過去へと送り込んだのです。どうかお力をお貸しください」

 

 再び頭を深々と下げるメイドさん、そんなメイドさんを見て高橋は覚悟を決めた。


 「よろしい!この老骨で良かったら幾らでも手を貸そう。差し当たって君たちの身分を私が保証しよう。しかし、80を過ぎた私にこんな事が起こるとは人生分からんな、、、奴隷にされて以来だよ、こんな理不尽な事態は」


 少年の様に目を輝かせ、メイドさんのお願いを快諾する高橋大臣。

 こうしてメイドさんは帝国中枢を支配する為の足掛かりを得たのだ。

 

 しかし、疑問が残る。高橋是清は何を見たのであろうか?彼は帝国を救う手伝いと言っていた。

 

 我々はリリスとメイドさんが、そんな殊勝な考えを持った存在でないと知っている。


 メイドさんたちが、高橋大蔵大臣に吹き込んだ嘘を見てみよう。高橋大臣に見せた欺瞞情報とはこうだ。

 

 226事件は最悪な形で失敗し、近衛連隊を率いて鎮圧を図った天皇が流れ弾で戦死。


 巻き起こる内乱同然の暴動、ソ連の手引きにより赤化する日本。


 第二次世界大戦に、ソ連の忠実な犬として参加、そして日本は、東側の最前線としてアメリカと敵対する。


 、南洋諸島をめぐり米ソは対立、世界の緊張はうなぎ上りに上がっていく、そして第三次世界大戦、世界は核の炎に包まれ、日本民族は絶滅する。


 出鱈目もいいとこだが、未来技術で脳に直接送り込まれる一大スペクタクル映画は、百戦錬磨の政治家、高橋是清の精神に大きな隙を作ったのだ。


 蛇はそこに潜り込んだ。

 

 リリスの暗示と洗脳は魔法と区別がつかない程だ。しかし人間をすんなりと堕落させるのは彼女をしても難しいのだ。


 「強情を張らず、素直に快楽を堪能して欲しい。奉仕を受け入れて欲しい」


 そう彼女は思っている。

 

 ともかくも哀れなる被害者、高橋是清はメイドさんを秘書として雇い入れる事になり、彼の手引きでペーパーカンパニーの準備も整った。

 

 こうして、大日本帝国を快楽と堕落のメイドさんランドに変える第一歩は始まったのである。


 


 

元奴隷に迫る過去の影!悔しい、こんなに金を見せられたら金本位制に戻っちゃう。止めて!軍事ケインズはもう嫌なの!嫌!石油が溢れちゃうの!資源を出すのはもうやめてー!国産製品出来ちゃうー。

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― 新着の感想 ―
[一言] 欺瞞とは言えボタンの掛け違いが起きていればその最悪の歴史も現実のものになっていたのかも知れない…歴史とは本当怖いやら面白いやら リアルだけど昭和の日本に思いっきり戦後なメイドさんはやっぱり…
2024/01/22 16:27 (´・ω・`)
[良い点] まーた高橋是清殿が酷使されておる 悠々自適な隠居生活を送れる世界線は存在するのだろうか?
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