第四十七話 アラスカ良いとこドンチャカホイ!
遥々来たぜアラスカに!豪華客船の旅もこれで終わり。
さあこれからアメリカに止めを刺す時間だ。
連合軍は気合十分、やる気MAX。
あれだけ飲み倒し遊び倒せばこの世に未練はないのが道理。
さあ行くぞ!。
と、勢い込んで船を降りたが、どうすんだこれ?北の果てに放り出されたはいいが、どうやってアメリカまで行くのだ?
おーい、メイドさんどうすんの俺ら?
「ご安心ください。用意万端整っております。さあどうぞ」
バスに詰め込まれ案内されるは極北の地アラスカに屹立するドーム都市、都市だ都市としか言えない。
外には飛行基地、ミサイル他対空火器が空を睨み、中に広がるは相も変らぬ歓楽街。
わーお、枢軸各国もこれにはビックリ。
一部モスクワ攻撃参加組はまたあのパラダイスが帰って来たと目を輝かす。
いざ行かんヴァルハラ!と走り出したがメイドさん止められた。
おねげぇだ!ヴァルハラさ行かしてくだせぇ!オラたちもヴァルハラさ行かせてくだせぇ!
君達散々遊び倒したでしょ!
「駄目です!」
何時もに似合わぬ強い調子で引きずられる。
皆さまお仕事の為に来たんでですから。それが終わってからね!良い子だから。
渋々宿舎であるホテルに連れて行かれる園児たち。
後続の皆さまがそろそろ到着いたします。其れまでごゆっくりお休みください。
「遊びに行っては駄目ですよ」
はーい先生。
おい後で抜け出すぞ。
「ダメですよ」
はい。
メイドさんも今は厳しい。
どうにも緩んでいると北米攻略作戦司令部より、強ーい調子で頼まれてるのだ。
何時もどんな我儘も聞いてくれる彼女たちがここまで言うとは。
そうだ俺たちは史上最大の作戦に参加しに来たのであった。
つい忘れてた。いかん、いかん。
軍人の本分を思い出し、緩んだ頭を叩いて直した一同は真面目に仕事に取り掛かる。
今作戦には大日本帝国から十四個師団、ドイツから九個師団、イタリアから六個師団、ハンガリー、ルーマニア計八個個師団、フィンランドより三個師団、大東亜連合軍七個師団の計四十七個師団と言う大部隊が集結している。
アメリカぶっ殺し隊連合軍討ち入りでござる!
大混乱中のアメリカもこれだけの大軍団が鼻先に揃いつつある事は分かっているが、手の出しようがない。
経済インフラの崩壊で新規の核兵器生産も覚束なくなってきた。
一発でも多くの通常兵器生産にラインを割り振り本土決戦に備える他はない。
上陸して来たら見てやがれ、でも来ないんだったら永遠に来ないで
と待ち構える他はない。
日本でも大まかな作戦概要は詰めたが、細かな所を詰める作業は一週間に及び。
遂に作戦開始まで三日を残した日、威儀を正した、北米攻略作戦総司令官、梅津美治郎元帥他臨席の壮行式は執り行われる。
居並ぶ将帥も豪華メンバーである。
日本からはアメリカ通で知られる栗林忠道中将、支那戦線での治安作戦で名を上げた今村均中将、シベリアの虎山下奉文中将、牟田口他、馬鹿参謀生贄計画を立案し、陸軍の粛清に尽力した宮崎繁三郎中将他、歴戦の猛者が登板。
ドイツから皆大好きマンシュタインにグデーリアンコンビ、ロシアの白熊さんに名を変えたロンメル中将、モーデル元帥は持病の腰痛で今回はお休みだが、ドイツ参謀本部の優秀な奴らを総ざらいし。
イタリアはジョヴァンニ・メッセ大将を送り込んできている。
負けられない戦いがここにある。
ルーマニアもハンガリーもイヴァーン・ヒンディ中将始め鼻息荒く参戦。
フィンランドだって負けてはいない、カール・ワルデン大将は国防相だから来れないが、レニングラード陥落を成功させたアクセル・アイロ中将が継続戦争の英雄達を引き連れてきている。
大東亜連合もポーランド王国軍が主導して参戦、ドイツは憎いが此処で戦果を見せなければ何時主人が気を変えるか分からないから必死だ。
各壮行式会場を繋ぐ大画面にに現れた梅津は厳かに話始めた。
一同固唾をのんで聞き入る。
勿論言葉が分からない人向けのメイドさん同時通訳もちゃんとあります。ご安心ください。
「諸官、この場に揃った将兵諸官。小官が本作戦総司令官の梅津だ。
本作戦は今次大戦の決を決める一戦となるであろう。
アメリカは追い詰められている。だが窮鼠と言う物はそこからが恐ろしい、彼らは軍民一体となり抵抗をするだろう。
アメリカ合衆国は銃社会だ、草葉の陰、家の一つに果敢に抵抗する民兵が隠れている。
だからこそ言おう。容赦するな。
諸官ら一人一人は己が能力に自信を持ち、適格に火力を投射せよ。
降伏する者以外は敵である。ジュネーブ条約は遺憾ながら最早存在しない。
小官の使命は緒官らを生きて祖国に戻す事だと心得ている。
再度厳命する容赦は無用だ、弾薬の事など一切気にするな、火力を持ってかの国を消滅させるのが緒官らの責務である。」
事実上の虐殺許可宣言。
さすがに会場は静かになる。
頷いているのはSSだけだ。
だがこれが現実なのだろう。連合、枢軸両者ともやり過ぎた、人間を火力と機械で引き潰し、核兵器を投げ合い消滅させる。
もう後戻りなど出来ない所まで人類は来てしまった。であるならば、自分たちが生きて家族にまみえる為にはこうするしか道は無いのだ。
それは残酷なる機械の神が支配する世界での真実であった。
「以上である。さて、堅い話はここまでにしよう」
何だ?何だ?段々雲行きが怪しくなってきてないか?梅津さんどうしたの?あなたは史実でも良心枠でしょ?
メイドさん何で壇上の皆さまに酒とクラッカー手渡してるの?パンツァーファウスト型クラッカーとは斬新だね。
「作戦の成功を祈願し、緒官らも、今日は名一杯楽しんでくれたまえ!。ではカンパーイ!」
鳴り響くクラッカーの音、イェーイじゃないそこの韋駄天!
ウォッカの一気飲みは駄目でしょ、マチェク大将!嗚呼もう滅茶苦茶だよ。
この映像生放送だよ、皆見てるんだよ!みんなー御免、おバカな指揮官見せれてさぞ気を悪くしたでしょう。
「「さーすがー梅津元帥!話が分かる!メイドさーん、ビールとワイン持って来て!樽事ね!」」
あれー?
そうだ。彼らは一度日本本土に態々集結していたんだ、忘れてた。
日本本土、二酸化炭素より濃厚なメイド粒子もといナノマシンの充満する場所に。
「はーい。皆さま深呼吸!吸ってー吐いてー吸ってー吸ってー段々気持ちよくなってきましたね」
「段々皆さまおバカになーるー。細かい事なぞ気なしなーい。私たちは綺麗で可愛く優しいメイドーほーら気にしない、気にしない」
頓智機に脳をやられていたか。
遅すぎたんだ。パーになってやがる。
1945年 十一月十日 若手の地質学者レベック助教授はとある事象の付いて頭を悩ませていた。
その事象とは、ここ東海岸ノースカスケード国立公園にあるベーカー山で観測した微細な振動についてである。
十月の始め、東海岸が壊滅した合衆国最悪の日に観測した振動は、徐々にではあるが近づいてきている様にしか思えないのだ。
カナダ国境ギリギリまで地震計を設置して調べたのだから間違いないはずだ。
そうだ。地震にしてはおかしいのだ。この振動は規則性がある様にしか感じられない。
おかしい、どう考えておかしい。こんな事自然現象で起こる訳がない。
だが取り合ってくれる者が居ない。
戦艦爆弾でシアトルが半壊してから大学は無期限休校であるし、狂気の沙汰としか思えない本土決戦の為、警察であろうが消防であろうが準備に忙殺され訴える先が無い。
皆「国家の存亡の危機だぞ付き合ってられるか!」
と取りつく島がない。
学研の道を諦めきれず、フィールドワークをしている自分は近頃は白い目で見られている。
「何度観測してもおかしい、これではまるで工事でもしている様な、、、工事?嫌、そんな馬鹿な。だが、そうだ!そうに違いない」
そうだ!そうだよ!工事だ!こいつは工事なんだ!頭がおかしいと言われた所で構うものか!早く知らせなければ!こいつはもう足元近くまで来ているんだ!
「誰ですか?」
管理人まで駆り出され、人気の途絶えたキャンプ場のロッジである。
ノックする奴などいるのか?しかし、今確かにノックする音が。
「熊かもしかして?」
人気がなくなった事で熊公ども人里近くまで降りてきている。
護身用にと持ってきた22口径ライフルを掴むと彼は扉を確認するため腰を上げた。
こいつで熊が倒せるとは思えないが、大口径は品薄で手に入らない、ないよりましか。
「どなたですか?今空けますから、、、」
扉の向こうは真の闇、辺りに人の気配なし。
「気のせいか、、、嫌たしかに、、ギッッッ」
脇腹にやけた火箸を付きこまれた様な激痛、叫びを上げる事も出来ない。
銃!銃だ!早く!
だが間に合わない。
そのまま押し倒され更にナイフ、一式銃剣が脇腹深くにネジ込まれる。
「シーっ」
男だ男が私の脇腹にナイフを突き立て、、、
助教の意識はそこで永遠に途絶えた。
「勘の良い奴もいるな」
助教の死体を森に隠し、メイドさんの持ってきた。観測データをペンライトで確認する男、舩坂弘軍曹は呟いた。
米本土攻略作戦に先立ち、秘密裏にメイドと共に潜入していた舩坂は助教を監視していたのだ。ここでバレたら一大事だ。
ここは無人の山の中、アメちゃん、核を落とすに躊躇は無いだろう。
「小野田、横井、一応周囲を偵察。もし人がいたら始末しろ」
了解と暗闇の中から声がする。
「御免な先生成仏しろよ」
そう呟くと船坂軍曹もまたメイドと共に闇の中に消えていく。
そうして辺りは静かになった。




