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ミミック大東亜戦争  作者: ボンジャー
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第四十話 パラノイア USA

 1945年1月8日 正月七日も過ぎ松もとれた初春のこの日、在米日本大使館はイヤーな客を迎えていた。


 近頃全米中には同じくイヤーな空気が漂っている。


 勇んで挑んだドイツ第三帝国との戦争は、援軍に駆け付けた筈の英国から出て行ってくれと蹴りだされ、アフリカに戦線を構築しようにもフランスからは断られる。


 曰く「核を使うなら他所でやれ」

 

 核兵器の一撃を持って戦争を早期終結させるつもりが、味方のはずの連合国からも家の庭先で核を使う事負かりならんとNOを食らうとは。


 欧州を名実ともに制覇したドイツが振りまく、虚実入り乱れた核被害のプロパガンダは一定の説得力を持って各国に受け取られている。


 何しろ核兵器などドイツ以外食らった事など無い。そこに付けこみ、第一次大戦で猖獗を極めた毒ガス兵器をイメージさせる戦略で非道を訴えてきたのだ。

 

 



 皆さんご覧くださいこの惨状、しかも放射能汚染ですよ、汚染!あいつ等、科学兵器禁止と言っておきながら欧州の地でこんな兵器使いやがりましたよ。


 ドイツ一国の被害ではないのですよ、もしまかり間違ってあなたの国に流れ弾が当たってごらんなさい。その土地は使い物にならないと言うじゃあーりませんか。

 

 皆さん忘れていませんよね?あの毒ガス兵器。我がドイツの総統も塩素ガスを食らった一人なのです。

 

 だからこそ我が国は非道を許せない。一度でも我が国が戦争で毒ガス使いましたか?使ってません!それをあいつらは無抵抗の一般人相手に、使ったのも同じです!新兵器だからと言って許されますか?


 



 ツッコミ処は多いが、五十万に届く死者と百万を優に超える被害者のインパクトは凄い。


 宣伝大臣はここぞとばかり被害者を利用する。哀れな子供、被ばくに苦しむ老人、放射線焼けどを負った女性。


 そしてこう締めるのだ


 「核は欧州で使われたのです」


 文明の中心欧州、近代の祖欧州、白人文明発祥の地、そこで使われる前代未聞の殺戮兵器。


 敵味方問わず外聞が悪くなるのは仕方がない。


 世界は誰が何と言おうと人種差別で回っている。


 人種の頂点、白色人種に何してる?ドイツが憎いのは分かりますよ。でもね、相手は同じ白人なのよ、そこんとこ分かってるアメリカさん。


 




 合衆国にも言い分はある。


 人種人種と五月蠅い!今の今まで殺しあっておきながら、そんな事で仲良くするな。


 焼夷弾で生きたまま火葬するのと何が違う。お前ら同じことしてるじゃないか、今更いい子ぶるな!


 特にドイツ!お前は敵軍には使って無いかもしれんが、現在進行形でロシア人相手に後ろ暗い事してるじゃないか!

 

 後ろに隠したボンベが見えてるんだよ!ホスゲンって書いてないかそのボンベ!知ってんだぞ!白人、白人言うならロシア人も白人だろうが!


 



 怒りたい気持ち良ーく分かる。掌返し甚だしい。


 だが史実とは違うのだ。


 第二次世界大戦でボロボロの欧州、勝つには勝ったが、合衆国におんぶに抱っこのイギリス、自力で祖国を取り戻したとはとても言えないフランス、分割されたドイツ、そんな相手なら無理矢理ルールを押し通す事も出来たろう。


 しかし、今の欧州を見てご覧、フランスは分割され、イギリスはインドを絞り始め、ドイツは王者面、イタリアはローマ帝国のコスプレをしてご満悦、ロシアは、、、熊の剥製が置いてあるね。


 自由と民主主義は欧州では絶滅危惧種。


 統領が作り、総統丸パクリのファシズムが大手を振って歩いているのが今の世界。


 そしてルールメイカーたちは、腹の中はどうであろうと新秩序の到来受け入れている。


 横からショットガン片手に乱入してきた田舎者。それが各国の目に映るアメリカ合衆国の姿なのだ、


 



 何だこれは!こんなはずじゃなかった。


 ドイツを葬り去り、世界の警察になるべき自分がなぜこんな事に。


 ボストンは廃墟にされ、欧州からは叩き出され、つい昨日まで平身低頭で物資を強請っていた元主人は役立たずと罵って来る。これはいくら何でも酷過ぎる。


 核だよ核兵器、人工太陽、国家予算をどれだけつぎ込んだと思ってるんだ。


 少し待ってくればB29を超える超重爆だって完成するんだ。


 これが有ればドイツなんてイチコロだよ、イチコロ。話を聞いて、お願いだから。


 国民も騒ぎ始める。


 「「政府は何やってるんだ!一撃講和だろ、やられ損じゃないか、モンロー主義はどうしたモンロー主義は、アメリカンボーイズは何のためにドーバーで水漬く屍になったんだ。ボストンを焼かれただと!独立戦争以来の大失態だぞこれは!」」


 五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い!ニューディール政策の完遂には、どうあってもドイツとの戦争が必要だったんだ。


 第一あのままドイツを放っておけばボストン処かワシントンに忌々しいロケット兵器が降る事になったんだぞ。


 なぜ分からん。だから女なんて議員にするべきじゃなかったんだ。


 共和党に乗り換えやがって馬鹿女ども。今度は対独融和だと。お前らが戦争賛成とほざいたんだろが。息子を戦争にやるな?どの口で!


 それもこれも、あの国のせいだ!太平楽を決め込みやがって。お前らがドイツに際限なく物をやるからこの様だ!あの死にかけの五枚舌が偉そうな口を聞くのもお前らのせいだ!なにが日米融和だ馬鹿野郎!


 ドイツは復讐に来る間違いない。


 時間が無い時間が無いんだ。このまま、手をこまねいていればワシントンに核兵器が飛んでくる。

 

 講和?


 できるか!今更!まだ我が方が有利だ。核の量産は出来てる、


 今ならまだ勝てる。何とかして日本の対独援助を止めなければ。それが出来ないのであればドイツより先に日本を始末する。


 中国侵略、ロシア征服、いい加減に我慢も限界だ。そうだ何度も殺すと決意してきたのだではないか。


 

 




「対独援助を止めろですか?」

 

 「その通りです。野村大使、貴国の援助がドイツを生き長らえさせているのは明白。直ぐにでも止めて頂きたい。これは合衆国国民の意志であります」


 イヤーな客。エドワード・ステティニアス国務長官を迎えた、野村大使は会って早々に要件を切り出す、国務長官に困惑していた。


 「援助と申されましても、あれは技術とのバーター取引でして。あくまで公正な取引です。それに対ソ戦の際、あなた方のレンドリースを我々は妨害しなかった。抗議さえしておりません。それなのにいきなり押しかけて止めろでは、話になりませんぞ」


 「それとこれとは話が別です。これは我が国の存亡が掛かった話なのです。ご理解頂きたい」


 (何時からアメちゃんここまで強引になったんだ。日米はここまで険悪じゃなかったはずだが)


 一世一代の覚悟で乗り込んできました、そんな剣幕の国務長官に野村大使の困惑は深まるばかり。そんな大使に畳みかけるようにステティニアスは続ける。


 「我が国は、貴国の中国侵略、そしてドイツとのソ連侵略にも目を瞑って参りました。しかし、我慢には限界と言うものがある。ドイツとは同盟を切ったのでしょう。なぜまだ援助をされるか。」


 「今更それを蒸し返されましても、支那は蒋介石総統による正当政府が立っております。我が国はそれを手伝っただけの話。それに先に仕掛けたのはソ連ですぞ、我が国はドイツと同盟しておった以上参戦するのは当たり前でして、占領したロシアの地にしても正当な政府に委任しております。元々ソ連が抑えつけていたのが元に戻っただけの話です。貴国の非難は的外れです。ドイツに関しては先ほども申した通り正当な取引です、援助ではございません」


 「貴国も、ドイツの非道はご存じの筈、今更知らないとしらを切るおつもりか?世界に恥ずべき行いをしているんですぞあの国は。それを助ける事は共犯も同じとお考えになりませんか?」


 「これは、閣下、随分な物の言いようですな。確かにドイツはやらかしてはいるんでしょう。しかし、共犯とは聞き捨てなりません。我が国は友邦であるポーランド王国とシオン共和国を通して亡命者を受け入れております。第一両国にしてもドイツに迫害された民の国ですぞ。この世の何処にユダヤ人に国を作った者がおりますか?我が帝国だけではありませんか」


 「傀儡の国家を自慢しないで貰えますかな。我が国はドイツを打倒しなければいけないのです。そうしなければ自由と民主主義は世界から消えてしまう。貴国も議会制度で平等選挙のお国でしょう。我が国の理念に理解を示して頂きたい」


 「ですから、理解と申されましても、、、、」

 

 止めろ止めないの喧嘩腰の言い合いはまだまだ長続き、タップリ二時間長編映画一本分の時間がたったとあとエドワード・ステティニアス国務長官は最後にこう切り出した。


 「どうしても止めないと言われるのでしたら、我が国にも考えがあります」


 「ほう、お聞きしましょう」


 「我が国には現在30発を超える核戦力が存在します」


 「如何いう意味のお言葉ですかなそれは?」


 「そのままの意味です。では失礼。貴国との友好が長く続く事を祈っております」



 エドワード・ステティニアス国務長官が去った後、一人残された野村大使は震えていた。


 えらい事になった、強気に受けたが、あそこまで米国が強引に出てくるとは思わなかった。昨今の米国事情は混乱の渦中にある。遂に破れかぶれになったか。


 (30発以上の核兵器だと。俺はどうすれば良いんだ)


 「メイドさん、急ぎ本国に連絡してくれ、至急伝える事があると」


 兎も角、本国に伝えなければ。


 核戦争、最悪の未来が頭に過る。


 (ああなんて時に大使に成っちまったんだ)


 頭を抱えて俯く野村大使は、立ち去るメイドが美しい顔に笑いを浮かべている事に気付かなかった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本帝国「え?30発程度しか無いんです⁈」 と言う感じがw
[良い点] 野村大使の胃が荒れる。 [気になる点] アメリカは世界から総スカンを喰らって、鬱憤晴らしに日本を恫喝する。汚い戦争を世界中で起こすつもりかな。 [一言] ドイツは反米プロパガンダを連発して…
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