第三十七話 女の本音 男の背中
1944年2月14日 核時代の始まりを告げる人工の太陽が地上にさく裂した。
アメリカニューメキシコ州ソコロで行われたトリニティ実験の成功である。
史実より一年以上早い、世界初の核爆弾の誕生には、爆縮レンズ設計に際し、ZND理論を用いた燃焼計算を1時間で終え、ジョン・フォン・ノイマンら数学者を気絶させた、才色兼備の女性がいた事は男社会のアメリカでは知られていない。
湯水のごとく予算をつぎ込まれた核兵器開発は成功した。
後は量産するのみ。
核開発予算のあおりを受けて両洋艦隊はお寂しい限りであるし、陸軍の戦車配備状況もお世辞にも潤沢とは言えない現在であるが、それは甘んじて受け入れよう。
量産なった核兵器の前には敵など居ないのだから。
1944年4月14日 合衆国はドイツ第三帝国に宣戦布告。
量産核兵器のロールアウトに合わせた宣戦布告であった。
宣戦理由?
君はドイツに宣戦するのに理由がいると思うのかね?ドイツだぞドイツ!ドイツと言うだけで罪ではないか!
ドイツはやり過ぎた。フランス、ポーランド、オランダ、ベルギー、そしてソ連。細かい国は除いても随分と連続殺人を繰り広げたものだ。
ドイツ君、君は本気で人の目が無いとでも思ったのかね?公然と奴隷を使い潰し。他国はおろか自国民まで、劣等と判断したなら収容所にぶち込んでガス浴させる。
君達、本気でバレないとでも思ってたのか?合衆国には、どれだけソ連シンパがいたのか知っているかい?愛するご主人様を滅ぼされた犬の群れが復讐をしないとでも?
君。特に女性から人気が無いよ。近頃人気のハリウッド女優たちからは総スカン食らっている事知らないのかい?ヒトラー君、君子供が出来たんだってね。
君が芸能界で、なんて言われるか知ってる?若い嫁さんを権力で手籠めにしたスケベ親父だよ。
それにイギリスに浴びせた弾道弾だっけ?あれは何だい?あんなものあったら。
私たちは安心して寝れないんだよ。
君が持っていて良い物じゃないんだよそれは。死になさい。早く死になさい。
君の持ってたものは偉大なる合衆国が有効利用してあげるから。君が死んだら次は日本だ。猿は猿らしく持っている物を人間様に渡しなさい良い子だから
義憤と欲望と人種差別がごちゃ混ぜになったアメリカの本音。
フランクリン・ルーズベル元大統領の死後、合衆国で勢力を伸ばす超党派女性議員連合が主導した、今までの戦争反対運動が嘘のような戦争参加キャンペーンの成果は眠れる巨人を遂に動かしたのだ。
「この世界の人間は、私達の元居た世界より随分と大人しいので、少しテコ入れさせて頂きました。皆さんもっと欲望に素直にならなくては。ねぇ大統領閣下」
「何か言ったかね?」
「いいえ何も。其れよりドイツ打倒後のプランですが、、」
ホワイトハウスは有能な女性スタッフを迎えフル回転している。
特にハリー・S・トルーマンを大統領に押し上げた眼鏡の似合う女性秘書の辣腕ぶりは凄まじいともっぱらの噂だ。
1944年5月11日 ドレスデンが世界より消滅する。
定期爆撃に紛れたB29による世界初高高度核攻撃が行われたのだ。
5月13日 ハンブルク消滅。
余りの事に混乱するドイツ政府であったが、近頃子供が出来て落ち着いて来たと噂の総統閣下の決断は早かった。
大嫌いな飛行機を乗り継ぎ直談判してまで日本に泣きついたのだ。
手土産を持って。
手土産の中身は試作大陸間ロケット、イギリス重爆対策の切り札として開発されたC2地対空ミサイル、そして決戦機Ta183フッケバインの設計図と無償ライセンス許可。
渡したくはない絶対に無い。だが可愛い息子ジークフリード(三か月)の未来を、横入してきたアメリカに渡す訳にはいかない。
彼には是非とも第三帝国第二代総統になってもらいたいのだ。
エーファも珍しくそれを望んでいる。
自分は死ぬわけにはいかない。
もしも死んだらあのハゲタカ軍団が息子に何をするか分かったものでない。
ヒトラーの脳裏に過るのは、モルヒネ中毒の馬鹿笑い、陰気なメガネのほくそ笑み、金髪の野獣の高笑い。
アメリカの核も怖いが、あいつ等の権力欲はもっと怖い。
あいつらを何とかして粛清するまで自分は死ねないし、ドイツ第三帝国は存続しなければ。
「その為ならヤーパン式謝罪法の土下座がなんだ!新聞社呼んで来い、ラジオ局!全日本に放送しろ男アドルフ渾身の土下座だ!」
蛮族国家とは言え、つい最近まで同盟していた国の指導者による土下座行脚に国会演説。
慣れないテレビ出演では
「ニホンノミナサンタスケテクダサイ」
と頭を下げる。
これを見た日本国民は何を思うだろう。
答え
「このお願い気持ちよすぎる」が五割。
「可哀そう」が四割。
悲しい事に「その手は食わんぞ」は一割未満。
連日報道される総統一代記、貧しい三流絵描きから身を立て今や一国の総統になった男。
今では優しいお父さんとして慣れない子守りもこなす男、アドルフヒトラー55歳。
今まで、この優しいお父さんがどれだけ他の優しいお父さんを踏みつぶしてきたか等関係ない。
部数と視聴率第一の低俗紙は書き立てる。
「まあ武器位なら」
喉から手が出る程欲しいロケット兵器に一向に完成しない噴進機も貰えた事だし、核開発の協力も取り付けた。何か損する事でも無し。
「良し、頼むよメイドさん」
5月30日 ブレーメンへの高高度核爆撃を敢行した部隊が対空ミサイルの波状攻撃を受け壊滅する。
6月6日 V2ロケットがボストンに着弾。連日ブレストより放たれる魔弾はアメリカを恐慌に追い込む。
「「何だよあっという間に勝てるんじゃなかったのか。新型爆弾は無敵のはずだろ何してるんだ!」」
日本だ 間違いなく日本だ。あの野郎大人しく滅ぼされるのを待てないのか!
仕方がない。ならば。
古来、失敗重なる国家は無謀になる。史実の大日本帝国がいい見本であろう。この世界ではアメリカ合衆国がその役回りになりそうな気配である。




