第二十一話 ちっ違うこれはT34や無い!T32じゃ!嘘つけソ連!
一人も参謀の考えだした策謀が一大戦争になろうとは。世の中分からない事だらけである。
カーン、高く鋭い、鋼鉄の鎧に弾かれる戦車砲弾の音が木霊する。
「やれる!やれるぞ!こいつならやれるマカクども目に物みせてえやる!」
赤軍戦車兵ウラジミル軍曹は吠える
お返しとばかりに放たれた76.2ミリ砲弾は、日本軍が必勝を期して投入した一式中戦車の装甲を容易く貫く。
「ざまあみろ!サルが粋がって戦車なんぞ作るからそうなるんだ!」
僅か数分の戦闘の後、日本軍戦車部隊は一蹴され、累々と残る残骸の後を赤軍戦車が疾走していく。
此方の損害は僅か二両。対して向こうは中隊規模の戦車が壊滅している。
ワンサイドゲームと言っていい結果だ
。後は後続が付いてくれば驕り高ぶる日本軍の後方線を遮断できる。
ウラジミル軍曹は砲塔ハッチより身を乗り出し作戦成功の第一段階を知らせる照明弾を打ち上げた。
ノモンハンより始まった日ソの衝突は全面戦争に近いほどの熱戦へと発展していた。
遂に日本軍が侵攻してきたと勘違いしたソ連極東軍は全力をあげて攻撃をかけてきたのだ。
これに対応する日本軍の初動は鈍かった。
勝手に戦争を始めた挙句、現人神の神殿にて、直々に心臓を掴み上げられ生贄に捧げられた、牟田口廉也の事が、関東軍司令部要員の脳裏に過ったからだ。
誰だって神の怒りは買いたくない。
「どうにかして内々にできないか?」
関東軍司令部の右往左往が時間を空費させる。
反撃の決断を下せたのは、戦争開始の張本人、辻正信少佐が司令部に怒鳴り込んできたおかげである。
マッチポンプでしかないが横暴参謀の一喝は司令部要員を正気に戻した。
「落ち着け、こちらには無尽蔵の火力が有るのだ」
「少佐風情が何だその態度!」
と辻参謀を前線に叩き返し急遽反撃に打って出る関東軍。
歩兵も砲兵も編制は間に合わない、即応できるは戦車と飛行機のみ兎も角敵の突進を止めなければ。
エンジンの音囂々と、二千を超える鉄牛の群れと鉄の猛禽は出撃する。満州の大地は世界初の大戦車戦の舞台となっていく。
初戦はモンゴルから始まった。
ウランバートル方面に集結していたソ連軍が進軍、ハルハ河に架橋を終えると満州へとなだれ込んできた。そうはさせじと関東軍第一戦車師団300両は航空機の援護の元、突進する。
97式戦闘機とI-16 が入り乱れる航空戦を皮切りに、雲の合間より九八式直接協同偵察機が地上攻撃を開始する。
本来であれば、雲霞の如く現れる航空機がソ連軍の突進を粉砕していたであろうが、今回は違う。
司令部が後手に回っている上に、日本軍の航空能力恐るべしと考えたソ連軍は、モンゴル方面、ウラジオストク方面の主力の他、全方位から中隊規模の少数部隊を満州に侵攻させているため、対応に追われる航空部隊は戦力を広大な満州に分散させていた。
落ち着いていれば完全機械化している日本軍、機動防御に徹して空から叩き続ければ、敵は溶けていなくなる。
大混乱の今はそれが出来ない。日本軍とてソ連を何時か歴史の彼方に消し去る積りでいたのだ。侵攻計画とて参謀本部は起草している。
「だが早すぎる!今じゃないんだ!今じゃ!」
「我が方は無限に近い火力と生産能力を持っているのだ。どっしり構えて平押ししてくれる」
そう考えていた日本軍は心理的奇襲を受けている。史実と違い劣勢に追い込まつつあるソ連との危機感の違いが如実に出てしまっていた。
遮二無二突進する日本軍は突貫で作られた防御陣地に頭から突っ込んでいく。
ソ連軍火砲のお出迎えに損害が続出するが構っては居られない。
「「此方はいくらでもいるのだ無限軌道の錆にしてくれる!」」
突撃成功ソ連軍移動司令部まであと少しと言う所で凶報が無線から飛んでくる。
後方にモンゴル軍騎兵部隊を引き連れた新鋭戦車が殴り込んできたと言うのだ。
「後一歩、後一歩で蹂躙してくれると言う所まで来たというのに」
歯噛みする日本軍であったががら空きの後方から挟み撃ちはたまらない。取って返して後方を救わなければ。
おっとり刀で駆けつけてきた満州国軍航空隊の援護を受けつつ後退する日本軍。
「新鋭戦車何する物ぞ。こっちだって新鋭戦車だ!ぶっ殺してやる」
だが、その闘志がズタズタに引き裂かれ、ソ連戦車部隊に敵中突破を許してしまうまで時間は掛からなかった。
何だこの様は。日本はメイド軍団のご加護ある一大機械化帝国に生まれ変わったはずだろう。
そうは言うが相手が悪い。
ソ連は史実と違い極東に秘密兵器を投入してきたのだ。
秘密兵器の名はT32中戦車。
こいつを50両近く持ち込んでいたのだ。T32中戦車、史実では傑作戦車T34の試作型に当たる戦車だ。
張鼓峰事件での、日本軍の無尽蔵の戦車戦力に対抗すべく、急ピッチで開発が進められた彼女は二年以上早く戦場に投入されたのだ。
彼女は完成系のT34とは違いお肌は弱い。しかし、そこは合理主義の国ソ連邦である。追加装甲を無理やりボルトで止めて投入してきた。
悔しいが一式中戦車では歯が立たない。彼女のハートを射止めるには100メート以上接近する必要がある。
損害覚悟で大量投入された彼女の前に、日本軍戦車部隊は大損害を受けハルハ河に集結している本隊への合流を許してしまう。
何とか生き残りが後続の騎兵部隊を蹂躙出来たのは不幸中の幸いだ。
歩兵の協力の無い戦車は無力である。そんな戦訓を残し日ソの戦いは第一ラウンドを終えようとしていた。




