第十六話 月まで吹き飛べ
長い砲撃音が戦場に幾度も響き渡る。1938年三月十六日、日本軍は中国共産党の一大拠点延安の攻略作戦にとりかかろうとしていた。
石家荘、太原と堅固な防護陣地に立てこもり、迎え撃とうとしていた、山西軍閥と共産党連合軍であったが。
容赦なく降り注ぐ砲弾と航空攻撃に。身動きを取れないまま陣地事生き埋めにされていた。
特に今、延安周辺の防護陣地に降り注ぐ巨砲の雨は、共産党の戦略そのものを無力化させるだけの威力を持っていた。
空中を我が物顔で飛ぶ九七式司令部偵察機の誘導の元降り注ぐ死。
九〇式二十四センチ列車加農20両からなる死の雨は区画事人間を肥料に変えていく。
「なるほど共産党君は穴に籠るのが得意なコミンテルンの同志なんだね!」
「なら、月まで吹き飛べ!」
洞窟陣地?坑道作戦?皆、月世界旅行へご招待。
九七式六番陸用爆弾を落としまくる九七式重爆撃機と合わさって組織的抵抗は破砕されていく。
では、ゲリラ攻撃でとなると今度は別の物量に歯が立たない。
メイドさん軍団のばら撒く物資目当てに日本軍の後ろからは、義勇軍と言う名の落ち武者狩りが付いてくる。
一人捕まえれば一財産、欲望に燃える目をした人々は積極的に敗残兵に襲い掛かる。
日本軍は之を抑える処か奨励すらした。民衆が互いに憎みあうのはそれだけ自分に飛んでくる弾が減る事に繋がるからである。
此処は弱肉強食の中華サファリパーク、弱い同志は饅頭にされる運命なのだ。仕方ないね。
延安に突入した日本軍への迎撃は何故か、か細い。何となれば列車砲弾の一発が、督戦を行ってた共産党指導者毛沢東を吹き飛ばしたというのだ。
彼の体は跡形もなく消えてしまっていた。
捉えられた共産党幹部周恩来の証言では。
「江青とか言う女に唆されて前線に来たのが間違いだった。幾ら美人だろうと、あの人形の様な女に入れあげて、ノコノコと前線視察などに出た毛沢東が悪い」
との事であった。
思いがけず中華一番デスマッチのライバルが消えた日本は、四月一日の武漢攻略作戦の成功に合わせ、南京に中華民国維新政府を樹立。もう如何にでもなれと本腰を上げて中華征服に邁進していく。
「数の不利?メイドさんに任せた!経済的疲弊?何を言う、メイドさん居る限り好景気は続くメイドさんがそう言ってた!我が国の評判が落ちる?馬鹿!もう地の底だ!」
ああ大日本帝国その幼児性止まることなし。
この無法者を列強はどう見ているのだろうか?元理事国でありながら侵略戦争を全力で推進する大日本帝国を列強は苦々しく思っている。
だがその進撃スピードが余りに早すぎる。
「このまま日本は中国全土を支配してしまうのではないか?」
上海で日本海軍が見せつけた大艦隊の偉容と合わせるとそれは真実に思えてくる。英米は蒋介石支援の為ビルマルートでの支援回廊を構築してはいるが其れも間に合うかどうか。
こうなって来ると両天秤を掛ける者も現れはじめる。そして其処に暗躍するメイドの影があった。
1938年四月一日 日中戦争は終盤へと向かっている。




