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プライド・オン・スペース  作者: エイリアン宇島
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第二話 「一瞬の出来事」

握手を交わし終え、シェアが満面の笑みでルフの方を見上げ照れくさく思い自身の角をかいた。

どこか不思議に思い再度自身の頭の上を触ると、そこには半分も満たない程欠損していたはずの角が再び生えている。

まさか、と思い今度は両手で触ってみるも確かに側頭部からくるりと一回転した両角が存在していた。


「シェル、俺は何日眠っていたんだ?」


「あれから二日ぐらい。でも、どうしてあんな大木で寝てたの?あそこは野獣がうじゃうじゃいるから危険だよ」


ルフは古着を脱ぎ、自身の身体をくまなく探し始める。あの夜に受けた外傷がたった二日だけで、傷跡もなく完璧に治るはずがないと.......

ものの数分で、結果は判明した。傷跡などない綺麗な肌が呆然としたルフの瞳に映し出されるのみ。

この謎の現象を受け入れる事なく先ほど消え去ったはずの恐怖が戻り、強張った表情でシェルに更に問い詰める。


「俺を見つけた時、俺の身体はどうなっていた?」


「あ、あの時、傷なんてなくって高熱をだしてたよ」


その言葉を聞いた途端、ルフは過去を忘れようとした事があまりにも軽率だったと思う。

あの時何に逃げていたのか、それよりもどこで暮らしていたのかを無限に浮かぶ謎がルフの心情を恐怖一色に染める。

続けてその当時の現場を聞こうと近づこうとした瞬間、無音の矢がシェルの横をかすめ一直線にルフの心臓へと向かう。

それを躱す事はできず、矢の存在に気付いた頃には自分の胸に矢が食い込んでいた。更に矢は小さいながらもその威力は凄まじく、ルフが警戒を解いていた事も相まって肉体からはみ出る血をばらまきながら吹き飛ばされる。


「ルフーーーーーーー!」


2,3メートルぐらい宙を舞うも運が良いのか悪いのか、岩に直撃し矢の進行は止まった。

ぶつけた衝撃により頭からも流れ落ちる。

あまりにも悲惨な結果に、シェルは膝をつき涙を流す。

懸命な介護により意識を取り戻し、友達になれたはずなのに.....と。

ルフが動かなくなった事を見極めると、茂みの中からにこやかと撃った犯人が姿を現わす。

金色の背面の毛衣に緑色のマントに身を包み、つばの付いた緑色の帽子を被った二足歩行する子供の獣であった。


「ふっ、思い知ったか『怪物』。鼻から襲う事はわかってたんだよ」


高らかに弓を掲げ、獣の少年は勝利の瞬間を噛みしめる。

見知った声を聞き、泣きじゃくりながらも涙を拭き怒りをあらわにする。

「バルバ、なんて事してくれるの?ルフは」


「えっ、だって襲われてたから.....」


「ルフは襲ってない!ただ、自分を.....」


声がつもる。

バルバが言った通り、『怪物』かもしれない生物が襲うような行動を取れば迎撃するのは当然だ。

これは、仕方のない事だと......


「いっててて、生きてたぜ」


頭をかかえながら、意識を取り戻す。

この場にいた二人はぞっとした。


「えっ、あれを食らっても死んでないなんて.....」


「俺の身体どんだけ弱いんだよ。こう見えて俺は」



心臓に矢が綺麗に刺さっておりそこから血は止まる事を知らず、地上へと流れ落ちる。あの夜の時のように


「ぐぁぁぁぁぁぁ」


今まで気付かなかった激痛がルフの身体を駆け巡る。


「待って、ルフ。今治すから.....」


即座にルフの方へおもむき、手を合わせ短い詠唱を唱えるとルフを中心に地面に魔方陣が出現する。


「どうか、お願い」


強く合掌をする彼女に応えたのか、魔方陣から無数の木の枝が伸び現れルフの身体を包み込んでいく。


「これは、一体。」


「静かにして、止血させる程度だから。傷口がまた空くよ」


そう言われると、小さなため息をつき全てシェルに任すことにした。



「ぼ、ぼくは、いったい」


遠方から彼らの行動を一部始終見ていたバルバはルフを撃った事に酷く罪悪感にとらわれていた。

頭に謝罪という単語で埋め尽くされているのに途方に暮れている。


「何を迷っているんだ我が息子よ。あれは襲っていたんだろ」


急に現われた圧に全身の毛が逆立つ。

後ろを振り向くとそこにはバルバの父 ウリエルがいた。

体長2メートルを超す体格、バルバと同じ色の毛衣をし赤い目を持つ。

そして、行動を起こさないのかと苛立ちを思わす眼光でバルバを見つめた

何か話さないと、口をもごもごと動かし会話を始める。


「い、いや、もしか.......」


「あの小娘も実質我々の仲間だ」


ウリエルとルフとの距離が10メートル程あったにもかかわらず、瞬時に剣の射程が届く位置につく。

一瞬の出来事で何が起こったのかわからなかったが治療を辞め、バッとルフを守ろうと小さいながら身体を張る。

だが、そんな努力も空しく振り上げられた拳によって吹っ飛ばされる。


「おい、おっさん容赦ねぇな」


「村に仇なす存在は、なんであろうと排除する。それがここの掟だからな」


ルフの言葉を無視しすぐさま腰に携えていた白き両手剣を取り出す。

その剣はこの時代に似つかわしくない規則的に亀裂が入っており、あまりにも不可思議だった。

その獣は何も言わず、最後の慈悲を与える事なくただ正面から刃を振り落とす。

その一撃は周囲に土埃を撒き散らし今、その場がどのような結果になっているかわからない。

ようやく、晴れていき現場が見え始める。

もう、ルフは生きてないと半ば諦めかけていたその時......


「ぜーぜーぜー、あっぶねぇな〜〜」


そこには心臓が半壊し息を整える暇もないにも拘わらず生という物に執着し続けた結果、今ある全ての力を振り絞りルフは彼の死の一太刀から逃げ延びる事に成功していた。

この結果に行き着いた事にバルバの父は少し驚きを示す。


「ほう、我の攻撃を見切ったか。子供だからと思って油断していたが」


そう告げた後、間髪入れずにルフへのとどめを再度執行する。

更に、今度は亀裂から焔を吹き出し白き剣から周囲を業火に染め上げる赤き剣へと変貌させる。

ーーーーーあっ、終わった.....

今度は、体力はもう底を尽き動く事は不可能だと判断する。

そして、再度手に入れた命は空しく儚く散っていく.......


「まぁまぁ、そう慌てんなや。『神の焔』ウリエルさん」


ルフの眼前にレトロ調のサングラスを掛けぼろぼろの古着を纏い赤い瞳に白い毛衣を持つ獣人がウリエルの一撃を受け止めていた。


「カマエル!貴様もこの怪物を助けようとするのか」


「こいつが仮に『怪物』とするんなら、今頃この村はおしゃかよ。それに、村長さんが彼奴らを呼んでるんだよ」


そう聞かされると少し驚いたように目を大きく開く。

そして、業火を一瞬にして消し元の白い剣を腰へと戻した。


「命びろいしたな、次がある時は確実に排除してやる。帰るぞバルバ」


おどおどするバルバを連れてその場からゆっくりと立ち去っていく。


「大丈夫だったか、シェル」


「うん、私は大丈夫。それより、今は治さないと」


「とりあえず、俺を助けてくれてありがとう、おじさん」


お礼を言ったが、カマエルの表情は少し曇っていた。


「おいおい、こう見えてまだ25だぜ。この若々しい顔をよぉ」


顔を見るもあちこちから長く伸びる髭のせいでどうも若いとは見えず難色を示され、トホホと諦めてしまう。


「まぁ、いっか。じゃ、行こうか。この村の最奥地へ」

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