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プライド・オン・スペース  作者: エイリアン宇島
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第1話「目覚めの朝」

あれからどのくらい経ったのか少年は理解していない。

あれは夢でも幻でもないと。

奥に塔がそびえ立ちそれ以外は何もない光に満ちた世界。無意識のままなのか塔へと歩きだした直後、どこからともなく湧いて出た黒い霧に飲み込まれてしまった。

どこか懐かしさを思わせるその霧の中、再び意識を失ってしまう。


次に意識を取り戻した時には目をつむってもわかる程の太陽の光を浴び、誰かが被せてくれたであろう藁の布団の感触が存在する。

恐る恐る目を開けると、そこはヨシで天井と壁を覆い床は藁で作ったカーペットで敷き詰められた一部屋だけの家だった。

家具もあるが、一人しか住んでいないと考察した。

家から出ようと考えるもまだ外の世界がどのようなものか把握出来ていないため、少年は部屋の中を散策し始める。

棚から発見した書物から情報を得ようとするが自身の知らない文字が書かれている。

解読は困難だと判断し仕方なく他の方も探そうと腰を上げた瞬間、足下に自分ではない影が映っていた。

探索に夢中になりすぎてドアに飾っていた暖簾の音に気付けず接近を許してしまう。

再び得た命ここで死ぬわけにはいけないと、近くにあった包丁を手に取り後ろを振り向く。

そこには涙目を浮かばせる獣人の少女が茶碗を持って立ちすくんでいた。

その獣人は身体は毛に覆われておらず、すっきりとした白い肌。茶色の髪にピーンと犬耳を立たせ、ふりふりと振るしっぽ。


「う、う、う、うわーーー生きてた――!」


少年は不思議に思ったが、敵意はないと判断し包丁を元にあった場所へ置いた。

待ちきれぬ思いで少女は泣きながら目をそらした少年の方へ抱きつき勢いのままに倒れてしまう。


「&%*+$#DK」


少年に押し掛かる少女のハグは今、安心から恐怖一色にへと塗りつぶしていく。


「%!&'"'"!」


少年は軽く少女を突き飛ばし、再び臨時体制を取った。


「ごめんね、ついうれしくって」


「%'(%')%W'!」


「.........やっぱり、会話はできないよね」


その言葉を聞き少年は不思議に思った。

先ほどの流れで会話が成立していた思い込んでいたが、少女からは全く成立していない。

それに気づき、酷くうなだれ小さな声で感情を吐いた。


「ハ.....ド....ド....ス..ス.レレ....バ」


「えっ?」


「エッ....?」


「マ....マ...サ...カ....ワ...ワ...カル..カ」


「うん、とてつもなくわかる」


「コ...コ..レナ...ラ...ドウダ」


「す.....すごい!人間ってこんな事できるの」


「二...ニンゲンッテナニ?」


少年がそう答えた瞬間、両耳を立て表情も穏やかな表情とは一変して何か焦っているような表情だった。

すぐさま立ち上がると、少年の手を握り、


「それよりも外に行こ。ここが何処なのかわかってないし」


何か隠している事は明白だったが、それ以上話を振ると何が起こるかわからない。

先の話は脳の片隅に置き、警戒を続けた。

少女に手を引っ張られ、坂の途中に建てられた家から思いっきり飛び出し坂の頂上へと目指していく。

先の表情の変わり映えに違和感を感じたが、そうこうすると頂上に辿り着いた。


「ここは....」


そこから見る景色は美しいという1単語では収まらない程だった。

辺りは手付かずのままに残る大自然で満ち溢れ、奥の方には天まで届く程の大樹が存在する。

この絶景を見て、少女から生えている尻尾がふりふりと可愛らしく振り少年は目をまん丸にして口を半開きする。


「ここ綺麗でしょ。私の一番のお気に入りの場所なんだ」


「ウン、キレイだ」


先の少女の行動はただ単純に少年が生きていた事に対しての喜びというありのままであった。

そう思えると少女への敵意は薄れていき少年はゆっくりと腰を下ろす。


「そして、この下にあるのが私たちの村『ペナル』だよ」


「デカイ、シュウ落だね。ここに何人も」


「うん、80人ぐらい。他にも村があるよ」


「そうだ、私の名前言ってなかったね。シェルって言うんだ、貴方の名前は?」


「俺の名前は......」


自身の名前を伝えようとしたが名前が出ることはなかった。

記憶からたぐり寄せるも脳からの返答は来ない。

少年が思い出そうとする中シェルもまた何やら考え事をしていた。

先に思いついたのか、獣耳をピーンと尖らせ少年に言う。


「よし、決めた!今日から貴方の名前はルフ。よろしくねルフ」


急に決められた名前にラグが発生するも我ながらと得意げに鼻を伸ばしているシェルを見て、思わず失笑してしまう。

今の状況下では過去を知ることは不可能であり、少年にとってそこまで過去への未練はなかった。

そして、笑顔で与えられた名前を使い再度挨拶を送る。


「俺の名前はルフ。よろしくなシェル」


「うん、よろしくね。ルフ」


太陽が輝く大地に、その輝きに負けんばかりに両者は握手を交わす。

少年は夜明けを超え、終わるはずだった運命の歯車が再度動き出した。

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