幕間 ――副会長のつぶやき―――
今回は幕間です。
投稿始めて4日目ですがブックマーク100人超えました。
累計PVももうすぐ1万に届きそうです。初めて書いた小説をこんな多くの人に
読んでもらえてびっくりしてます。まだまだ続きますのでお付き合いくださいませ。
同学年であり同じ学び舎で肩を寄せ競い合える、そんなことですら誇らしさを覚える筆頭公爵家のヴィクトリア嬢が婚約者と侍らせていた男爵令嬢とトラブルを起こしたのは数日前のこと。
その騒動の詳細は近くにいた生徒たちを呼び集め教師とともにできる限り詳細にその件をまとめ上げ、目撃した生徒たちに口外しない旨を約束させて事態は落ち着いたかのように見えた。
もちろん生徒たちの口を縫い付けるわけにも行かない。ほとんどの生徒が寮で暮らす閉じられた学園内で高位貴族の噂話ほど美味しいものはない、極度の締め付けは反感を呼び逆効果になりかねない。
ある程度のガス抜きはどんな立場であろうと必要だ。
執行部の生徒たちや親しい先輩後輩たちを使い、流れる噂がヴィクトリア嬢を咎めるような曲解を含んでないことを観察しながらある程度は黙認という形をとることにした。
入学初年度からいろいろやらかしてくれている第二王子殿下殿や女子生徒から多大な反感を買っている男爵令嬢の言葉を信じ、流す愚かな者もほぼ居ない。
ここまで勝手なつぶやきをしていたな、すまない。
俺の名はアッシュ・リンデン。
親父は世界を股にかける大商会の会長、俺はその家の長男で跡取り候補でもある。
王侯貴族が顧客の大半を占めるため平民とは違うマナーや慣習を学び、縁を広げるためにこの王立学園に通い、そう多くはないが平民の代表として生徒会役員の責を受け持った。
ヴィクトリア嬢のカロッティーニ公爵家、レオナード会長のレインフォルト侯爵家も会計のジョアンナ嬢のアランカス伯爵家も商会の顧客なので幼少のころからある程度の顔見知りでもあった。
学園に入学してからは『爵位、身分による差別はしない。学びが最大の本分。何者も気高くあれ』という三柱の教えに従い貴族、平民の垣根を超えた付き合いのできる尊敬するべき友人達となっている。
特にカロッティーニ公爵家のヴィクトリア嬢とは有能な事業家でもある公爵夫人と仕事上でも商会と深い付き合いがあるため公私にわたって手助けをしていただいた恩もあり、俺自身も年が近いからか次男のトーマ様に目をかけてもらい遊び相手として本邸に招かれることが多かったのでヴィクトリア嬢とも幼馴染と言える仲でもある。
そんな彼女が取り乱すほどの激情を見せ、そのまま崩れるように倒れた。
当の婚約者である王子は懸想している男爵令嬢を抱きかかえていたため、あの高貴な方が地べたに倒れ伏すというあり得ない事態に、どうしてその場にいなかったのかと本当に悔やんでも悔やみきれない。
状況が状況だったため学園内の医務室や寮ではと、彼女は公爵家の本邸へと引き取られ落ち着くまで休むことを教師から生徒会へも伝えられた。
そして、自由過ぎるほど自由にふるまっているようでも婚約者がいる場ではあれでも多少なりと遠慮があったのか、今では見苦しいと感じるほどべたべたと寄り添い絡みついて団子みたいになっている王子と男爵令嬢の目撃証言があちこちから寄せられてくる。
歩いているだけで風紀を乱すと苦情が入るってどんだけだよ……。
そんなイラつきを抱えたままひと月ぶりに親父が帰国したと一報をもらったので久しぶりに外泊の許可を取り自宅へ戻った。
家に戻る前に挨拶にカロッティーニ公爵家へ立ち寄ったという親父はすでに赤ら顔で、旧友だという公爵とすでに一杯やっていたらしい。……まあ、ヴィクトリア嬢が明日から学園に戻れると聞けたことは朗報だったが。
ヴィクトリア嬢が一大事だというのに妙に親父は機嫌がよく、酒の席に付き合えと俺を引き留めとっておきの酒を母には内緒だと一緒に飲ませてくれた。
「カロッティーニのご令嬢を守れよ、アッシュ。過去の遺恨がすべて払われる日が来るかもしれん…」
すっかり深酒になった親父がぼんやりとした口調で呟く。
過去……遺恨……親父たちがまだ若かった時代に起きた事件は王家や高位貴族をかなり巻き込む物で、あったという事実を知るものも限られているが内容を知るものは当事者だけ。
親父もその一人であるが母もよくは知らないという…知っていても語れないだけなのかもしれないが。
ヘドロのように埋もれた悪意が払われる日が来る。
今はそれだけで充分だ。
そのまま眠り込んでしまった親父を寝室へと運び、俺も自室で眠りについた。
夜が明けてダイニングで最初に目にしたのは学生の俺に酒を飲ませたことがばれた親父が母に説教されているいつもの光景で。
犬も食わない夫婦喧嘩は無論息子も食べないので助けを求める親父の目を無視してまだ早いが学園へ戻ることにした。
そんな気まぐれを起こした結果、ようやく復帰したヴィクトリア嬢に難癖をつける王子という、なんともまた変わらぬ光景を目撃することになったのだった……。
読んでくださってありがとうございます。
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