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幕間―本邸執務室より

 ◇◇◇幕間◇◇◇

 ――― カロッティーニ本邸・執務室 ―――



「父上、ギルベルトです」


 マホガニーの扉をたたく硬質な音とともに上の息子の声が届く。


 第二王子あのバカの非道な行いに心を痛め昏倒して3日。


 ようやく目覚めた愛しい娘ヴィクトリアのそばにずっと寄り添っていたかったが、寝起きで大した支度もできぬまま、男親に傍に居られたのでは年頃の娘が恥ずかしいだろうと気を使い、後ろ髪引かれる思いで娘の部屋を後にしたというのに……。

 たっぷり持ち込んだ稟議書数枚完読できる時間居座っていたのかと思うと苛ついたので返事を引き延ばしてやろうかと考えていれば「トリアからの伝言を持ってきました」と言われてしまいそんな妨害もできず入室を許可した。


「トリアからの伝言?婚約破棄なら今すぐにでも王宮に向かっても構わんぞ」


 そう告げて椅子から軽く腰を浮かせれば苦笑を浮かべて制された。


「先走らないでください、父上。王家との婚約自体はそのままで構わないだそうですが、トリアの横に並び立つのは王太子以外許さない、だそうです……我が妹は至高の存在になるべく生まれ、育っているのですから当たり前ですけどね」


「……首は挿げ替えてもいいということか。なら王に婚姻契約の条件の訂正を掛け合ってこよう。いつまでも王妃の機嫌取りで情勢を見極められぬ愚王になり果てているならこちらから見切りをつけたってかまわぬのだからな」


 上の息子ギルベルトから受け取った言葉に鷹揚に頷きながら、親指の腹で顎を撫でる。

 私自身は王と自身に後継が生まれた際王位継承権は返上しているが公爵家筆頭、上と下の息子、そして愛娘まで第三位から五位までの継承権を持っている。一番簒奪できうる位置に我らがいることを忘れているのかもしれんな……。


 身分の低い生まれの王妃を母に生まれた王子がろくな後ろ盾もできぬままでこのままではどんな行く末がと涙ながらに王に訴えられ、反対する妻を宥めながら結ばれたトリアと第二王子の婚約。


 正妃の産んだ王子が王位を継ぐのが通例。出来が多少悪くともそれ以上に王妃と周囲が優秀であれば国は維持できると踏んで結んだ契約であったが、どうやら予想を上回る馬鹿のようだ……。


 自分の母である王妃が元子爵令嬢だったから自分も同じように押し付けられた縁組でなく自分の好ましい女を隣に立たせられると思ったか。


 今の王は姉妹はいても兄弟がいなかった。あとがないからこそ出来た我儘だったかもしれない。

 当時王弟であった我が父が臣籍へと移り公爵となり自分の甥である王の後ろ盾になっていたことも、今は亡き皇太后妃の生家である隣国の王室も王の後見であったのも強かった。


 代わりがないからこそ婚約者だった侯爵令嬢を押しのけて子爵令嬢を正妃へ迎えることも可能だったのだ。第二王子は忘れているのか、側妃から生まれたとしても自分より四つ上の第一王子の存在を。


 代わりはいるのだ。


 舵の取り先が決まれば後は早い、息子に手伝わせながら手早く書類をまとめていく。

 王妃の悪辣さに身の危険を感じ手の届かぬ側妃の母の生まれ故郷でもある隣国へ留学している第一王子も第二王子が立太子するまで婚約者を決めずにいるスタンスなのもあり、そう難しい問題でもないだろう。



「……しかし、後ろ盾を失っても大丈夫だと思うほど馬鹿だとは思わなかったな」


 書類をまとめ終え再確認をしている時、本来であれば喉から手が出るほど欲しい貴族筆頭の公爵家の後ろ盾を無碍にできる神経がわからぬと呟き洩らせば


「馬鹿だからこそ、娘との縁が切れても私たちの支援は途切れぬままと思っているのでしょう。王妃がただ名を借りただけの養子縁組で侯爵令嬢になった元子爵令嬢ですから、家との繋がりもまた同等に薄く、私たちが何があっても王家に首を垂れるとでも思っているのでしょうね……父上、いや公爵閣下。



 我らが至宝ヴィクトリアを侮った男に平穏などお与えなさらぬよう、最良の采配を」





読んでくださってありがとうございます。

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