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お茶会奇想曲--capriccio--

今回、視点移動多発回です。ご注意を

<--公爵家長男ギルベルト視点-->




「あちゃ~……盛大にやらかしたな」


「……どうやら怪我まではしてないようだ。あの程度ならトリアや友人の令嬢方が収めるだろう」


 被害を受けた令嬢の家にはこちらからも謝罪はしないとだが、と呟きながら妹の茶会の様子を物陰から見つめているのは公爵家の次男トーマと長男の私だ。

 トリアからは中庭の見える二階の部屋から見ていて欲しいと言われてはいたが、そんなところでは何か事が起きてすぐに駆け付けられないからと中庭を囲むように配置されている騎士と同じ服に身を包み、帽子を目深にかぶって雑な変装をして其処にいた。


 第二王子の挙動を見てトーマが腑に落ちないという顔つきで首を傾げながら呟く。


「……第二王子(ユーリス)はあんなだったか?学園で見ていた時はもっとこう……」


「話が通じていたはず、か?」


 ああ、と頷くトーマを見て、私も第二王子へ視線を戻した。


「確かに下の民に対して傲慢不遜な態度を取りがちではあったが、父や大叔父上……高位貴族の声は届いていたし、自分の落ち度も窘められれば理解してはいた」


 金や権力を手にするとおかしな選民意識を持つ貴族は恥ずかしいことに一定数は存在はしている。

 王子も多少その性質を持っていた程度だった。

 王族としての教育や側近たちとの交流で民の上に立つことを自覚するだろうと次代を憂うことなど思うこともなかった。


「頭の上がらない上級生だったお前の目がなくなり羽目を外し、どこぞのバカな令嬢と不貞をするほど考えなしになったかと、正直学園の中ではそれも何処にでもあるよくある話だと思っていた。……恋は人を狂わすともいうが………あれはなんだ、狂人そのものだ」



 と、目の前にある事実と食い違う過去との記憶が与えるちぐはぐな印象に不気味さを感じてしまう。

 学園内に点在する公爵家の目達からの報告より遥かに酷い。


 不愉快さを忙しさと言い訳し、報告を受けるだけでトリアと学園の内情を知った気になっていた。

 自分の目で確認しようとしなかったことが悔やまれる。


「あんまり自分を責めるなよ、あれは……予想外過ぎる」


 弟に慰められながら茶会の動向を見守り続けことにする。




 ―――――― 先ほどの騒ぎなど可愛いものだったと思い知るまであと少し。




 ◇◇◇




<--公爵令嬢ヴィクトリア視点-->




 生前でもある程度いい年をした女性が大勢の前で地団駄踏む光景を見たことがあっただろうか。


 ―――あまり記憶にないな、うん。



 取り囲んでいた令嬢たちを押しのけて体を揺らしながら私たちの前に立ちはだかる男爵令嬢に一瞬、場に緊張が走るが「なによなによ」と癇癪を起しながら地団駄を踏みだした。


 マウントの取り合いやマナーを身に付けてない子供の対応に慣れている方々もこのパターンは想定外だったか社交に関してもベテラン揃いだろう高位貴族の令嬢たちもドン引きしてる。


 もう十分にお二人は場を壊してくれているし、この会を開くことを決めたとき淑女のマナーの初歩を身に付けたかどうか、貴族として家同士の交流をこなせるかの判定も結果が出せる程度にはデータも集まっただろう。



 ――――もう、頃合いかしら。



 王子と令嬢の様子をどこかで見ているだろう試験官に向かい心の中で呟き、あとは招いたゲストの方が楽しまれていかれることを重視しようと気持ちを切り替え小さく息を吸った。


 学園長の言葉に応じて機会を与えられないと言った男爵令嬢が希望する場を整えた。

 状況を理解する時間も学ぶ時間もたくさんあったはずだもの。


 学園の令嬢たちの中で孤立している男爵令嬢が交流の輪に戻れる最後のきっかけのために参加してくださった令嬢たちには感謝の言葉しかない。



 地団駄を踏み身体を揺らす男爵令嬢に困り顔でなだめる王子が早くどうにかしろという目でこちらを見るが、私はその視線を受け止めることなく令嬢たちへ体を向けた。


「皆様、おしゃべりも楽しいですが少しお散歩しませんこと?自慢の温室をぜひ見ていただきたいの」


 中庭からも見える美しいガラス張りの温室は去年のヴィクトリアの誕生日にお父様に贈られたものだ。

 国内外から公爵家に訪れる賓客から贈られたものを中心に様々な希少な草花が芽吹き花を咲かせている。

 国外の貴族に嫁ぐでもなければ、よほどのことが起こらない限りこの国で生涯を過ごす令嬢の皆さんにとっては他国の花を愛でる機会などそうはないだろう。


 私の我儘に付き合わせてしまった令嬢方への感謝とお詫びに、温室へ案内するために歩き始めた。



 もちろん、温室に興味のない方のためにガーデンテーブルでのお茶とお菓子のサービスは続けましてよ。


 温室に向かうまでの道のりも、庭園に咲く花を眺めながら令嬢たちのはしゃぐ声が響く。


 令嬢たちの間でもお父様から贈られた温室の話は話題に上るという。


 学園に入る前はそれなりの頻度でお茶会を開いていたが、学園に入学してからは寮生活と学園と王宮との往復で公爵邸でお茶会が開かれることがなく、温室の中へ招待する令嬢は皆様方が初めてになる。


 光栄な機会に恵まれたと喜色を纏う令嬢たちを引き連れて大きな温室の扉へ近づくと、控えていた侍従が扉を開けてくれたので立ち止まることなく私たちは中へと入っていく。


 結局あの場にいた令嬢全員が温室へ移動となった。


 庭に誰も居なくなったせいなのか驚くことに王子達もついてきていたので、温室の中に控えていた騎士に視線を向け注意して、と合図を送ると王子と令嬢に不穏な動きがあればさりげなく速やかに対応できる距離まで移動するのを見てから、令嬢たちを温室の奥にある開けたホール部分へ案内していく。


 一定の温度に保たれた温室の中央は周りを彩る花をゆっくり楽しめるようにテーブルと椅子が並べられているので、腰を落ち着かせて花を楽しむも散策してたのしむも好きにしていただいた。


 季節を問わず花を楽しめるので冬になったらここで茶会を開いてもいいなと思う。



 “ ……露をゆらす可憐な青は 


 空の恵みの落とし物 


 ツグミがついばみ高く舞う 


 落とした色を還すため……  ”


 一人の令嬢が空色の花弁を見つめながら浮かんだ詩を紡ぎはじめれば、皆がその花を囲んで拝聴する。


 詩を紡ぎ終えた令嬢を拍手で称えると、見つめていた花と詩の世界に没頭していた令嬢がはっとした顔で周りに視線を向け降り注ぐ拍手の雨に顔を赤らめた。


「つまらないものをお聞かせしてしまいました……恥ずかしいですわ、つい夢中になってしまって」


「そんなことありませんわ、素晴らしかったです」


 他の詩も聞きたいわと令嬢たちが声を上げる中、男爵令嬢は先程まで自分から話しかければ誰もが応じてくれ、私が場を離れていた時も高位貴族の令嬢たちが王子と自分を立てて話しかけてくれた空気が一切なくなったこと。

 騒ぎ立てても注目もされない状況の中、つまらないと唇を尖らせながら唯一思い通りに動いてくれる王子に人目を気にすることなくべったりと身を寄せていた。



 ◇◇◇


<--ユーリス第二王子視点-->



「ユーリ様ぁ~つまらないですわ。招いておいて退屈させられるなんてあんまりですぅ」


「そうだな、こんなところで立たされたままで居させるとは不敬極まりない。このことは父上から公爵に厳重に抗議していただき、不遜なあの女に厳罰を与えさせるとしよう」


「頼もしいですわ」


 この王国の至宝に不遜な行動をとった結果を見て、後悔したところでもう遅い!!と笑ってやろうと言いながら退屈な温室にいるよりも中庭に用意された席で茶を楽しもうかとアリアを連れて温室を出ることにした。


 温室を出れば後ろには温室の中にいた護衛の騎士もそのままついてきた。


 私ほどの立場なら温室の中ではしゃいでいる令嬢どもより高貴な存在だから最優先の警護対象なのだと大して気にもとめずに外へと出る。


 ガーデンテーブルがある庭はどこだったかと無駄に広い公爵家の中庭に苛立ちつつ、ぐるりと視線をあたりに巡らせると、今までいた温室よりもっと奥まったところにもう一つ温室があることを知った。


 中庭は面した公爵邸の部屋から丸見えだろうし警備の騎士や侍女たちがうろついているため二人きりというわけにも行かない。


 今はあの女もほかの令嬢たちも同じ場所に集まっているので、奥の温室なら完全に二人きりで居られるかもしれないと思いついた。


「あそこにも温室があるぞ」


 と、アリアに告げながら指を指し示す。


「まぁっ……出し惜しみばかりする公女様ですもの、もっと貴重なものを置いてるのかもしれないですね。……大事にしてるお花が全部落ちてたら慌てるんじゃないですか?」


「それはいいな、父上から罰を与えられる前に私の手でまずは罰を与えてやるとするか」


 アリアの手を取り奥にある温室を目指す。


 その温室の手前で近くを警備していた騎士に止められたが


「ヴィクトリアの婚約者の私が入れぬ場所など此処にあるわけがないだろう」


 と言い放つ。


 それでも止めようとするのでヴィクトリアの許可は取ってある、と言って強引に中へと入った。



 たかが温室ではないか!大げさな!!



「中を見るだけだ、お前たちは此処で控えていろ」


 と私を呼び止めた無礼な騎士と令嬢たちの居る温室からついてきた騎士に告げて扉を閉めさせる。


「なんだこの温室は、雑草しかないではないか」


 様々な花が咲き乱れていた前の温室と違い、花をつけないただの地味な草や道端に生えていそうな貧相な花をつけた雑草で埋め尽くされている温室を眺め、あきれた声を上げた。


「ヤダぁ、あちらは見栄を張って花をかき集めて飾っていたんですかね。こっちが本来の公爵家の温室なんですよ、きっと」


「そうか、そうだな!!見栄を張ろうとこうやってばれるのだ!!愚かなことを」


 アリアが適当にあたりに生えてる草をちぎって床にぽいぽい捨てながら奥へと歩いていく。


 草の汁が手についたのか、それを嗅いでくさ~いと言いながらドレスにそれを擦り付ける。

 白の生地にべっとりと草の汁が染みとなって広がっていた。


「ヤダぁ、汚れてしまいましたわ。全くこんな草ばかりあるのがいけないのよ!!そうよ!これは公爵家の落ち度だわ!!これは着替えを用意してもらわないと!」


「そうだな!たかだか子爵令嬢に着替えを用意したのだからアリアには新しいドレスを仕立てさせるよう命じるか」


 王妃である母上すら容易にオーダーが出来ぬクチュリエールの手掛けるドレスが手に入ると瞳がキラキラと潤むアリアの顔を満足げに見つめた。


 私のすばらしさをよく理解している、可愛らしさだ。


 公爵家の伝手は私の伝手のようなものだ、使ってやるだけありがたいと思うがいい。


 奥へ進んでいくとアリアは通路を無視して直植えされている茂みの中に踏み込み、咲いている花を摘んで遊んでいる。



 暫くは此処で暇つぶしをしているかとアリアのそばに向かうために通路を仕切る柵を乗り越えようと足を上げた瞬間 ――――― 。



「きゃあああああああああああああああああああああああああああああっっハ、ハチぃ!!!!!!!」


 と叫び声が上がる。


 私の視界がアリアの尻、いやドレスで埋まった。



 ドスン!!



「なっ!………うわぁあああああああああ!!!!」



 ゴロゴロゴロゴロ!!!!



 柵を越えようと片足を上げた不安定な姿勢だったためアリアを受け止めきれない。


 私とアリアは団子のようにまとまりながら通路を挟んだ反対側の茂みに勢いよく転がっていった。



読んでくださってありがとうございます。次回やっとざまあ回です(*'ω'*)


もうじき累計アクセス30万になります。たくさんの方が訪問してくださっているようでうれしいです。

まだまだ物語は続きますのでブクマ、評価(下にある☆)を入れてくださると執筆の励みになります

気になるキャラクターとか居たら一言で構いませんのでお気軽にコメントくださいませ

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