お茶会ポルカ
よろしくお願いします
お茶会当日、本日は晴天なり。
いつもより早く起きて朝の支度を済ませると邸内の使用人総出でお茶会のセッティングを始めます。
皆様を招く場所は大きな噴水を構える中庭。
周りには公爵家の庭園を長年守ってくれている庭師達の手により咲頃を迎えた季節の花々と緑が彩り、朝日を浴びて夜露をきらめかせている。
急に天候が悪くなった場合や体調を崩された方が出たときの対処に中庭に面したゲスト用のホールにもテーブルやソファを用意しておきました。
吟味に吟味を重ね選び抜いた茶葉はリンゴ風味のフルーツフレーバーティーを中心に数種類。
ほのかに香る爽やかな香りと渋みの少ないスッキリした味のシリーズ、気に入ってくれると良いな。
軽食にスコーン、クリームたっぷりケーキにタルトやパイなどの様々なティーフーズも公爵家の料理人たちが腕を振るって昨夜から準備に奔走してくれている。
おかげで邸内中がいい匂いに包まれていてお菓子に囲まれた夢まで見てしまった。
お茶やフーズを出すタイミングも侍女や侍従たちと繰り返し打ち合わせてばっちりなのです。
「お嬢様、お支度の準備に入りましょうか」
準備に奔走してしまいそうなのでタイムキーパーを侍女のアリーに頼んでおいた。
支度にかかる時間を逆算して声をかけてもらう。
「大変、もうこんな時間なのね。わかったわ」
残りの準備を手伝ってくれる周りの侍女たちに頼んでから急いで自室に戻って用意していたドレスに着替えます。
学友同士の気軽なお茶会、というテーマなので選んだドレスはコルセットを使わずに少しだけウエストを絞ったシルクのティーガウン。
動きやすさを重視して袖は7分丈の総レースでクラシカルな雰囲気を崩さずに。
首元と耳には粒のそろったピンクパールのネックレスと耳飾り。
化粧は夜会より薄めに上品に、髪はアリーの渾身の作の複雑な編みこみで高くに結いあげ、お気に入りの髪飾りを付けました。
おかしなところがないか鏡の前で何度も角度を変えて確認していると、侍女から「お客様の馬車が付きました」との声が。
中庭から近い馬車止めへ向かえばアンジュ様とジョアンナ様の姿が見えます。
「本日はお招きありがとうございます」
「こんな良い天気に恵まれて、ヴィクトリア様が神様の愛を独り占めしてるのが伺えますわ」
「二人とも大袈裟です……でもありがとう。晴れてよかったわ、木陰がとても気持ちいいの」
茶目っ気交じりの挨拶に私も笑いながら互いにカーテシー。
「お二人が一番乗りでしてよ、心強いわ。まだ揃いきるのにもうしばらく時間がかかると思いますから、さあ、こちらへどうぞ我が家自慢の庭園ですの」
と、お二人を連れて中庭へ案内する。
椅子をすすめてみれば見事な庭園なので見学していたいとのこと、また別のゲストの馬車が付いたと報告をうけたので、侍女に庭の案内を託してゲストの出迎えに場を外させてもらった。
夜会も開くことの多い公爵邸は馬車止めも広い、それと馬車を持たないお家の方にはこちらから馬車を出して乗り合わせてもらったので予想より馬車が混み合うことなく招待したゲストが揃ってくれた。
一人一人から丁寧なあいさつを受け、こちらもカーテシーで返す。
いつもの制服姿とは違い華やかな衣装に身を包む令嬢達が集まる中庭は満開の花が咲いたよう。
艶やかで素敵な景色です。
◇◇◇
さあ、これで全員……ではないのです。
肝心のお二人が来ないと思っていれば王子の馬車が正門をくぐったと報告が入る。
堂々のオオトリでの登場ですか。
ジョアンナ様とアンジュ様が付き添ってくださる中、出迎えに馬車止めへ急ぎます。
わぁ………すごいのが来てる。
遠目にも煌びやかなクリスタルガラス… ( なのかしら? )で包まれたすっけすけの馬車。
ガラスの馬車ってこんな感じなんだ……うわー。
絶妙にカッティングを施して、光を座席に集約したら消し炭になってくれそう……
スケスケなので中身も良く見えるのです。
あれは馬車が曲面だから膨張して見えているのかしら…??
妙に丸いガラス越しのお二人を眺めていると扉が開いたので王族へ向ける深めのカーテシーで出迎えます。
「公爵邸ってこんななのねえ」
「会場の前につくわけじゃないのか、歩くのか!??」
挨拶のあの字もない言葉が降ってきたのでゆっくり顔を上げるとガラス越しよりボリュームに満ちたお二人の姿に私達三人とも言葉なく立ち竦んでしまいました。
男爵令嬢はまるで夜会着のような露出過多なドレス。
ちょっと押したらこぼれ出てしまいそうではらはらする胸元、お尻が出そうな大きなカッティングの背中。
腰もとに大きなリボン、あちこちにリボンをちりばめレースをこれでもかと使いバニエを重ねた超ボリュームな白のスカートで膨張感をさらにアップ。
胸元には昼のパーティには不釣り合いなギラギラする肩こり確実な大きな石のアクセサリー
王子は王子でパツンパツンなサイズのあっていないジャケットとパンツ。
無理やり詰め込んだのか二の腕あたりがはちきれそう。
怖い。
男爵令嬢のドレスに使われたレースを使ったドレスシャツは上半身の丸みをやたらと強調している。
スケルトン馬車の印象が一瞬で吹っ飛んだ。
いや、これはびっくりしてもしょうがないよね。うん
王子は周りを確認するようにあたりを見回した後、私へ視線を移し『ふんっ』と荒い鼻息を一つ上げ、のしのしと体を揺らしながら会場へ向かいます。
男爵令嬢もそんな王子の腕に絡みつき大きなお尻を振り振りしながら挨拶無しで歩いていきました。
違う意味でお団子状態……アッシュ様が見たら爆笑しそう。
それにしても……また、男爵令嬢のお名前をお聞きする機会を逃してしまいました……
名簿や書類を見ているからお名前も家名も知っているのだけれど、高位貴族の私から彼女へ名を問い答えを聞いて初めて名前を知る、風なこの世界
……もうこのまま一生知らない人でも構わないんだけどね。
しかし王子たちのあの態度は……このお茶会を開いた経緯覚えてらっしゃるのか本当に不安になってきました。
お父様からは選定役がどこかに混ざっていると話は受けておりますが、私もそれが誰でどこにいるのかは知らされていません。
私達だけと思っても周りには使用人や警護の騎士たちがぞろぞろいるんですけどね……。
ゲストが全員集まったところでちょうど開催時間になりました。
皆さんが中庭の中央に置かれたいくつかの小さな丸いガーデンテーブルを囲むように置いた椅子に腰を落ち着けたところで皆さんの前に立って主催の私の挨拶からお茶会の開始です。
侍女たちが打ち合わせ通り一口サイズのサンドウィッチやカナッペなどの軽食を盛りつけた皿を各テーブルへ配り、茶器のセッティング。
「今日のお茶はフルーツのフレーバーのお茶をいくつか選んでみましたの、まずはお勧めの青リンゴのフレーバーティーを召し上がってください」
まずは軽食から始め、おしゃべりに花が咲くに併せて焼き菓子やクリームたっぷりのシューやケーキと段階を追ってティーフーズを……と段取りを思い描いていたら男爵令嬢が大きな声をあげはじめた。
「うわ、なにこれ、全然甘くなぁい。お砂糖とミルクもっと持ってきてよ!」
「お菓子も出さないなんて公爵家って貧乏なの?見て、この小さいお皿!!」
うわー、と叫んでサンドウィッチの乗った皿を掲げバカにするように笑う。
周りの令嬢も困惑顔だ、気持ちはわかる……。
静かにお茶を楽しむことも出来ないとか……一体あの方たちは三週間サロンで何を教わってましたの?
静まり返るお茶会現場。
男爵令嬢のからかいの声に賛同する王子、はしゃぐ男爵令嬢の身振り手振りは徐々に大きくなっていく。
「その点、ユーリ様はぁ毎日いろんなケーキをたくさん用意してくださってぇ」
「ハハハ、テーブルを埋め尽くすくらいでないと、歓迎を表せぬからな。王族の私だから出来るのだ。公爵家ごときがマネできるわけがない、勘弁してやれアリア」
「王子の寛大なお心に涙が出そうです」と王子のほうに体を寄せた男爵令嬢のふとましい腕が隣のテーブルの席に座っていた令嬢の背にあたった。
ふいに背を強く押された令嬢の指からカップが離れ――――カシャンと令嬢の膝を経由して芝生の地面にカップが落ちる
そして
「………熱いっ」
と小さな悲鳴が漏れ聞こえた。
「な、なによ、わざとじゃないのよ、ちょっと掛かっただけじゃない大袈裟ね!!」
薄紫色のスカートにみるみる広がる染み。
どこがちょっとですの!
王子は一人で動揺してるし、男爵令嬢は私のせいじゃないと繰り返すだけで動こうともしない。
周りの令嬢達が大変、と慌ててハンカチを差し出すがその程度で済むようなことでもなく、私は駆け寄ってきてくれたアリーを連れて急いでその令嬢の元へと移動した。
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