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幕間・3--公爵家兄弟の優雅なお茶会

ようやく公爵家次男登場です

「お疲れさん、トーマ。ようやく人類に戻ったか」


「酷い言い草だな……次期公爵のご令息のお言葉じゃないだろ、お兄様?」




王都へ戻り、遠征の事後処理を終えた後久しぶりの実家で落ち着いた時間を過ごしている。


公爵邸に着いた早々俺を見て悲鳴を上げた侍女長に風呂場に叩き込まれたがせっかくなので、心行くまで湯船に浸り全身を洗い上げた。

久しぶりによく映る鏡に顔を映し、頬や顎を覆う伸び切った無精ひげと目にかかるまで伸びた髪の毛を整えた。

野営経験を重ねていくうちに自炊から散髪まで一通りのことが一人でこなせるようになったのは僥倖だ。


父親の色に似た蜂蜜色の髪を持つ兄と妹とは違う、赤みの強い母譲りのローズブロンドが目の前にちらつかなくなり、耳のわきも短く刈りそろえ、質のいいシャツとズボンを身に着けようやく公爵邸を歩いてもいい姿になったと侍女長から許可が下りた。


風呂に入る前の俺は騎士団の隊服を纏っていなければ山賊と思われかねない容貌だったのは確かなので兄のからかいには一言応酬するだけにして兄の隣のソファに腰を下ろした。


俺に向けてだけは気取った貴族の口調でも官僚然とした硬い口調でなく兄弟同士というか悪友のような気安いしゃべり口調。

厳しかった遠征任務を終え、日常に戻ったことを教えてくれるようだ。

ここでは四六時中気を張らずに済む。


俺の名はトーマ・シュバル・カロッティーニ

公爵家の次男、今は王国第一騎士団第二部隊に所属し隊を取り仕切る隊長に任命された。


騎士を目指し子供のころから領内の騎士団の中で鍛えられたせいか兄や父よりも背も高く体つきもいい。

基本短髪なせいもあるのか兄よりも年がいっているように見られがちだがこれでもピチピチの十八歳である。


一昨日まで国境沿いの小競り合いを収めに団を率いて遠征に出ていたため王都を留守にしていた。


そして実に半年ぶりに我が家へ無事にたどり着いたというわけだ。



「あれ、我が家のお姫さんは?」


「学園。お前が最高学年のときに入学しただろう?忘れてるわけじゃないよな」


汗と一緒に記憶が流れたかと皮肉を忘れない兄。



「男兄弟の顔見ても癒されねえ……」



学園では基本寮生活。このまま夜まで待っても妹と会うことは叶わないということだ。

この時点でトリアは寮ではなく学園に近い位置にある別邸で暮らしながら通っていたらしいがなぜ教えてくれないんだ、兄よ。



「抜かせ、母上の顔でも眺めてろ」



夜には戻るぞと告げる兄の言葉に父上に恨まれると肩を揺らして笑ったところで侍女が大きなトレーを手にして俺たちの机に大量のティーカップを並べていく。


それぞれ微妙に色合いが違う。


なんだこれ?と疑問に思い首を傾げれば


「ちょうどいい、お前も付き合え」


と、やや渋い顔で兄が告げた。


「そろそろ俺の胃も限界だ、来週行われるトリアの茶会に出す茶の選定に母の店の新作を出すことになってな……」


ようやく絞られた候補が目の前の茶だという。

本邸で暮らす家族と使用人を巻き込んで茶葉の選定をしているということらしい、使用人たちは休憩時の茶を日替わりで出し感想をまとめているとのことだ。


「わかった、茶菓子もくれ。あと水も」


カップに描かれた花の名に併せて味や香りの感想を書くように兄から花の名が書き込まれている紙を手渡される。


騎士団の隊舎で大量の報告書類と格闘した後でさらに難しい事案に巻き込まれた。

母が目を通すならいい加減なことは書けないし、トリアの茶会にかかわるなら余計にだ。


そうして見慣れすぎた兄と額を突き合わせながら、色気のない男兄弟だけの茶会を延々と続けることになった。





「……ん?なんだこれは」


休暇中で基本のんびりしているだけの俺と違い、兄の手にはいくつかの書類。


「どうした?兄さん」


飲んでいる茶の味や香りの感想や意見を書き込んでいればふいに疑問の声を上げる兄へ顔を向けると、これだと差し出されたのは複数枚にまとめられた請求書。


「ん?……これは貴族街のブティック……これは宝石店。靴屋に化粧品……女の使うものばかりだな。母上かトリアの買い物の請求か?」


「まあ、普通はそう見るものだろうけど、母上の購入品はご自分で清算される。トリアは寮生活でこんな買い物をする理由がない」


ドレスだけなら次の茶会に使うのかと思うだろうが、普段使いのものまで十数枚。今の妹がそこまでの量を買い足す意味は確かにないな。

誰かが公爵家に買い物の代金を押し付けたってことか?


涼しい顔をした兄が、多分王子だろうなと肩をすくめる。


あの(・・)、頼りのない第二王子(ナルシスト)のことか。

婚約者に敬意も見せず横柄な態度をとっていた学園での姿を思い出して眉間にしわが寄る。


そして兄から今現在の王子の様子を聞いた。


あのクソ王家……クーデター起こしたろうか



「気持ちはわかるが額に青筋立てるな、若い侍女に泣かれるぞ。茶でも飲んで落ち着け」



コラ、飲み切れないカップを押し付けるな。


ちゃっかりと茶を押し付ける兄にどうしてそんな涼しい顔をしていられるのかと返せば


「証拠が向こうからやってくるんだぞ、これほど楽なことがあるか?」


返す声に書類から目を外し兄の顔を見る。

口元に笑みを浮かべても全く目は一切笑ってない。



お前のほうが怖いわ。



「まあ、この家を維持するだけでも様々な請求書が我が家には舞い込むからまぎれるとでも思っていたのだろうな。どこぞの人任せの横領、詐欺し放題のドンブリ勘定、ザル経営な馬鹿貴族と一緒にされるのは不本意だが……、とりあえず詳細を調べさせるとするか」


俺の手から請求書を戻すとそれを傍に控えていた家令に預ける。

子細を説明せずとも理解の早い優秀な我が家の家令はすぐに行動に移った。






「トリアの茶会、何があるかわからないから……お前も休み取っておいてくれ」


「言われなくともそのつもりだ。ついでに俺の部下も何人か休みを取らせるわ、公爵領(うち)の騎士団の訓練に混ぜたい連中がいるからな」





ようやくすべてのカップの中身を飲み切ったと思ったらおかわりが無慈悲にやってきた。

俺の顔はきっと絶望に塗りつぶされていたかもしれない。


兄ちゃん頑張る。

読んでくださってありがとうございます。


累計PV22万超えました。たくさんの方が訪問してくださっているようでうれしいです。

まだまだ物語は続きますのでブクマや評価(下にある☆)を入れてくださると執筆の励みになります

気になるキャラクターとか居たら一言で構いませんのでお気軽にコメントくださいませ

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