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宣言

 暫くすると数人増えた忙しない足音が聞こえてきて、お父様であるカロッティーニ公爵、お母様,そして上のギルベルトお兄様がアリーを先頭に私の寝室へ飛び込んできたのだった。

 閉じたカーテンから漏れる陽光からすればまだ昼間だろうに、海外の賓客のために開かれる王宮主催の夜会位でないとこの豪華な顔触れは揃わない。


 お父様は政治を司る宰相、お母様は社交とご自分の起こした事業関連、上のギルベルトお兄様は次期公爵として広大な領地の経営に宰相府の官僚としてお父様の補佐をしている、下のトーマお兄様は学院を卒業後騎士団に入り異例の速さで分団長に就任、現在は国境線の紛争を平定するために遠征中で此処にはいらっしゃらない、皆それぞれ忙しい身だ。


「貴族とは常に冷静に心に波を立たせず落ち着きをもって民を導く者のことだ」

 いつもそう告げながら兄や私を導いてくださっていた父母の初めて見る慌てた顔を見て


 愛されてるじゃない……


 とさやかが眠っていた場所で膝を抱えて眠っている傷ついた小さな魂ヴィクトリアに囁いてから、心配顔で見つめる皆に笑みを浮かべて答えた


「心配かけてごめんなさい」


「いいんだよ、きっと疲れがたまっていたのだろう。学校には知らせてあるからしばらくは家でゆっくり過ごしなさい」


「ありがとうございます、お父様……もしかしてお仕事お休みにさせてしまいましたか?」


 カロッティーニ公爵は現宰相でもある。本来はなかなか帰ってこれない忙しい身の上だ。

 体調を崩した程度のことで休ませてしまったのかと不安げに眉を下げれば


「子供の心配をできないような職なら辞してもいいくらいだ。それにこういう時のために忙しくしているようなものだから気にしないでいい」


「そうよトリアはお父様に似て気を回して頑張りすぎるところがあるから。今だって生徒会、淑女会に王妃教育とこの人以上に忙しくしてるのだもの。体調が悪い時くらいきちんとお休みなさい」


 と父母に休むように厳命され起き上がらせてた身体を再びベッドへと横たえれば軽い食事の後お医者様に見てもらいましょうと母が満足げに告げ娘の看病のための食事を用意するために料理長たちへ託をしに厨房へ、父も何か容体が変わったらすぐに知らせるようアリーに命じて持ち込んだ仕事を片付けるために執務室へ戻っていった。


 父の教えを胸に”周りのために行動する”そんな絵にかいたような淑女のヴィクトリア

 そんな彼女が喉から血を吐きそうなほど辛い思いとともに吐き出した


「泥棒猫!!!」


 という言葉が脳裏によみがえる。

 どれほどの葛藤の末だったのだろうか、高位貴族とはいえまだ16歳の少女だ

 吹き出しそうになってごめんね。辛かったんだよね

 政略であっても幼いころから共に育ち様々な時間を共有してきた婚約者から自分に向けられたい気持ちのすべてを突然現れた泥棒猫ピンクあたまにかっさらわれたんだもんね、きついよね…こんなに美人なのに見た目も頭もゆるふわな女に傾くとか、見る目がないというか……


「トリア、まだ起きてる?」


 目を閉じて考え事をしていればまだ部屋に残っていたギルベルトに声をかけられた。薄く瞳を開けて緩く頷けばベッドサイドに腰を落として言葉をかけた。


「お前が倒れた元凶は……ユーリス第二王子かい?」


「………お兄様」


「全く…トーマが卒業した途端にこれか」


 苦々し気にお兄様がつぶやく。


 ギルベルトお兄様の二つ下、私より二つ上のトーマお兄様が今年の春卒業した。ユーリス王子は私のお兄様たちが苦手なようで兄がそばにいれば横柄な態度や無茶な要求もしては来なかった。


 学年が違うから見えない場所では課題や提出物を押し付けられてはいたがそれも王太子妃の務めだと王妃様にまで言われ断れずにこなしていた。


 トーマお兄様が卒業して学園内に兄達の監視の目がなくなった途端、気が大きくなったのか私への対応がさらにキツイものとなり……

 気が付けば、校内でほかの女子生徒にいじめられていたというアリアという男爵令嬢を常にそばに置くようになっていた


 少しでも言葉を交わして、関係を良くしようとどれだけ努力しても王子の意識はアリアへと向かう

 今では話しかけただけでアリアへ捧げる時間をとられたと詰られ、アリアもまたそんな公爵令嬢のみじめな姿をあざ笑うかのようにわざと王子への親し気な態度を隠すこともしなくなり


 ……って、よくこんな男と親しくいようと思ってたなあ。ヴィクトリアちゃん

 家族のため、民衆のために頑張ったんだね


「学園内のことですのによくお分かりになっていましたのですね」


 まあもともと仲がいい婚約者とは言いづらいから予測は出来るものかと顔だけベッドサイドに座る兄へ顔を向けながら問いかけると


「本人がいなくても目や耳はどこにでもあるものだよ」


 ……言われてみれば私の家は高位貴族なので寄子である下位貴族の子女もそれなりに居るだろうし、お兄様たちの後輩もまだ在学中かと納得しながら、かなりヴィクトリアとの記憶が馴染んではいるがまだまだ庶民の感覚が抜けないなあと苦笑した。


「これまで様々な報告を受けていたよ。私や父も今すぐにでも第二王子との婚約を破棄させようかと気を揉んでいたが、トリアが頑張っているのなら見守っていようと耐えていた」


「……お兄様、私決めましたわ」


 ヴィクトリア、これから先幸せになれるように私が頑張るよ。

 ずっと心の片隅で羽を休ませてもらったお礼に、あなたが目覚めるまで幸せの道へ舵を切れるように。


「何を決めたのか、聞いてもいい?」


「ええ、まずは……ユーリス第二王子殿下のお世話係を辞しますわ。文句を言われながらすることではありませんし」


「おや、婚約は破棄しないのかい?」


「しませんわ。王妃教育を受けた手間と時間は何事にも代えられませんもの。かかった費用は国庫つまり税金で賄われてるのですからくだらない理由で放棄などできません。

 また別の令嬢を一から教育するのは私以上に負担を強いることになりますものね、私が6年かけて受けたものを2,3年で詰め込まれるなんて迷惑以外何物でもありませんもの


 ……ただし、私は”王子妃”ではなく王妃となるべく教育を受けた”王太子妃”なのです」


 立太子できない男を婚約者として据え置く気はないとはっきり告げれば、お兄様はよく言ったというように満足げな笑みを浮かべた後「父と相談して陛下に奏上しよう。やれやれ、忙しくなるな」と呟きながらお父様のいる執務室へ歩き出した。






読んでくださってありがとうございます。

まだまだ物語は続きますのでブクマや評価を入れてくださると

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