幕間・2--王立学園男子寮貴賓室にて--
おまけエピソードのはずだったのですが
幕間になりました。
不本意だ。
まことに不本意だが(大事なことなので二度言うぞ)
我が最愛の恋人である男爵令嬢アリア・レステアのお茶会のデビューが決まった。
もちろんエスコート役はこの私、シュバルツ王国の至宝ユーリス・フェル・シュバルツ第二王子である。
第一王子である腹違いの兄は側妃を母に持つ。
私が生まれるより1年ほど前に生まれたが、幼少のころから病弱で今は側妃の母の故郷の国で療養しているという。
何の役にも立たずただ公費を無駄に費やすだけの存在。
王族の面汚し、恥だと王妃である母はいう。
私もその通りだと思う。
なので私は第二王子であっても実質王太子なのだ、次期国王だぞ。
そんな私が十歳になったころ、婚約者というものが決まった。
母上が言うには生意気な人形女の公爵令嬢ヴィクトリアを婚約者にして欲しいと頭を下げて頼まれたから、仕方なく引き取ってやったらしい。
それがなくともこの私の優秀さに感銘を受け私の後ろ盾に名乗り出たであろうが、察した母上がそれとなくこの婚姻を引き受けたということだ。
始めのうちは良かった。
この類稀なる麗しい容姿を持つ私の隣に並ぶに相応しい私より多少劣りはするがそれなりの美貌を持つ女だったし、周りからの羨望の目もなかなか気持ちがいい。
そんな女を雑に取り扱える私のすばらしさも周りに存分に見せつけられるからな。
生意気な女はニコリともせず口を開けば小言しか言わぬ。
可愛げのないつまらぬ女だと粗雑な扱いをしてしまうのも仕方ないことだ。
王妃教育が進むと多少はマシになり、私をたてることを覚えたようだが……前にも増して人形めいた雰囲気が強まっていた。
こんなつまらぬ女と一生添い遂げねばならないのかと内に籠っていた不満が顔を出し始めたのは学園に入学したばかりの頃だった。
王宮では高位貴族や近隣の王族としか触れ合う機会がなかった私にとって、下位の貴族や庶民たちが物珍しく映ったものだ。
そして出会ってしまった。
王族の私の前でも屈託なく笑う、高位貴族の高慢ちきな令嬢どもに苛められるという辛い試練に身を置いてもなお、天真爛漫さを失うことの無い愛の女神に。
そんな運命に巡り合った真実の愛を誓う相手。
アリアの晴れの舞台に相応しい衣装の準備をせねばならぬな。
まずはどの程度使える資金があるか確認しておくか……。
◇◇◇
王宮に使いを出した翌日返事が戻ってきた。
封を開き驚愕する。
「なっなんだこの金額は、これではドレス一着すら買えないではないか!!」
この間の休日にアリアとのデートで入った高級レストランの代金よりも少ない!!
何が起きているんだ……。
不正か、それとも横領か……いや、ただの記載ミスかもしれない。
記載された数値がおかしいので担当の係官を学園の寮へ直ぐによこすよう、重要の判を封に押し王宮へ使いを出した。
使いと共に私の予算の担当係官がやってきた。
「なんだと!!もう一度言ってみろ」
「何度だって言いますが、内容は変わりません。殿下の今年度の予算の残りは記載された額であっております。昨年度はここまで使用されたことがないのですよ?必要なのであれば使用用途をまとめて予算補充の申請をして下さい」
「それはどのくらい待てばいいんだ?」
「各大臣がたを集めた会議で議題にあげます、そのあと宰相閣下と陛下の承認を頂ければ……そうですね、通るとしたら一月後でしょうか」
「それは困る、すぐに必要なのだ。父上が許可を出せば済むのではないか?」
「王族の品位を落とさぬために組まれた個人予算は国庫から支出されますのでそういうわけには…」
買い物に行く休日はもう目の前なのだ、何としても金を手に入れねばならない。
「お急ぎになられているようですが、いったい何を購入なさるおつもりなのでしょうか?」
しまった、あまり深入りされるとまずいことになりそうだ。
「ああ、ええと……そうだ、その、女性へのプレゼント、などだ」
「婚約者様である公爵令嬢への贈り物でしょうか?そちらなら王子妃の予算で通りますが」
「そうだ、その、そっちはまだ予算は残っているだろう?」
婚約者の義務だと言われ仕方なくだが誕生日に花を贈る程度しか使っていないはずだ。
忘れていた、王子妃予算は私の予算と大体同額だ。
それなら2倍使える金があるということか。
「はあ、令嬢には誕生日に花を贈る程度にしか予算を割かれていませんので予算は丸々残っておりますが。夜会にドレスも贈らず、エスコートもされていないとお聞きしております。今年度も公爵令嬢のお揃えになった衣装や装飾品はすべて公爵家が負担されております」
なんだこいつ、よく調べているな……気を付けて発言せねばならないか?
「だ、だから何だ、婚約者にたまたま贈り物を買いたくなることが悪いとでも言いたいのか!?」
「いえ、お二人の距離が縮まるのであれば臣下一同これ以上喜ばしいことはございません…………ただ、もしもの話ですのでご理解いただきたいのですが。もしもですよ……王子妃予算をほかの令嬢の贈り物に使った場合……かなりまずい事になりますので」
「なんだと!?誰に贈ったところでほかの人間が知れるわけがないだろう?」
「わかりますよ、当たり前じゃないですか。令嬢のドレスなどは高価なものです、路地の露店で買い物をされるのと訳が違うのですよ。王子妃の予算で作られたものなら公爵家のほうにも報告が行きます。使われた金額分の物が公爵家に届かない事態が起きたらどんな騒動が起きることか」
「わかった、王子妃の予算は使わぬ、自分でどうにかする!」
くそ、まだアリアのことを母上にも父上にも話してないのだ。
アリアを次の婚約者に据え置くためにもまずはカロッティーニ家と張り合えるほど影響力のある公爵または侯爵家あたりと養子縁組を組まねばならない。
向こうから頭を下げてきたから婚約者にしてやったというのに、最近の宰相は生意気にも僕に意見するからな……父娘、いやあの一族は調子に乗りすぎなんだ。
今のタイミングで後ろ盾も何もない男爵令嬢を婚約者に立てでもしたら嫌がらせに養子先に圧力をかけてくるかもしれない。
慎重に事を運ばなければ。
◇◇◇
係官の男が書類を抱えて帰った後、私は机に向かい頭を抱えていた。
財布の中に金がなくなったと知らせればいつでも補充できていたし、足りないときは私の名で王宮に請求するようにさせていた。
たしかに去年に比べれば休日はアリアと供に外に出かけ遊び歩くことが増えたため、財布の中身の減りも早かった気はするが……いくらでもあるものと思っていたのだ、数えているわけがない。
まさかあんなに使っていたなんて思いもしなかった……。
かと言って買うことが出来なくなったなどとアリアに言えるわけがない……。
まったく、お茶会などなければこんな苦労をすることもなかったのに!!!
公爵家の茶会だからこそ格に合わせるために高価な衣装が必要になったのだ。
学園の模擬のお茶会なら制服でもよかったのに、あの女がしゃしゃり出るから悪いんじゃないか……ッ!
なら、公爵家が肩代わりしてくれてもいいだろう、これは必要経費だ。
公爵も困ったときは頼れと言っていたしな!!!
その言葉は私がヴィクトリアをないがしろにする前、婚約式のさなかに告げられた言葉だったが、私はそれがヴィクトリアとの縁が消えても永久に違わぬ言葉だと思い込んでいた。
私はこの王国で最も尊い存在だからな!
読んでくださってありがとうございます。
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