幕間―本邸応接間より
幕間回です。
ヴィクトリアが本邸に立ち寄り、私達に学園で起きた騒動の顛末を知らせてくれてから直ぐに、学園長でもあるロジクール叔父上から訪問したい日程の打診が届いた。
互いの都合を確認しあいゆっくり話し合える場を決める。
知らせを娘からもらって3日後の夜、それは開かれた。
是が非でも参加すると喚いていた長兄のギルベルトは残念なことに昨夜、領地へ続く街道沿いで起きた土砂崩れの被害状況を視察するため早朝から現地へ視察に向かいこの会合には不参加となった。
叔父上と顔を合わせるのは私と妻のユリアナとの二人。
先ぶれを受けて玄関で家令に案内されてきた叔父上を妻と共に出迎えた。
亡くなって久しい父とよく似た相貌を見て沸き上がる懐かしさに自然に笑みが浮かぶ。
「ロジクール叔父上」
「おお、ドノヴァン。久しいのう、壮健そうでなりよりだ。王宮での活躍は耳にしてるぞ」
目元に笑い皺を深く刻みながら腕を広げた叔父上に軽く抱かれ、親愛な挨拶を交わし、妻も其れにならって叔父上と抱擁を交し合う。
「叔父上こそ、内外を越えてのご活躍、耳に届かない日はありませんよ」
敬愛する叔父上に忌憚のない言葉を向けながら応接間へと招く。
腰を落ち着かせれば侍女長が入れたての紅茶を皆の前に出してくれてから隣の小部屋で控えているのでいつでも呼んで欲しいと口上を述べてから退室した。
それから少しの間、叔父上にとっては又甥にあたる領主代理の傍ら宰相の補佐としても王宮に上がるようになった長男ギルベルト、騎士団に入り若くして部隊長へ昇進した次男のトーマの話や互いの近況などを軽く話してから本題へと入っていく。
◇◇◇
「なるほど……確かにそれは簡単そうに思えて難しいですね」
本来貴族としてのマナーなど周りが見て判断するだけの話だが、あの王子の性質から見れば相手寄りの人間の判断はすべて偏見やえこひいきで終わらせそうだ。
自分に対して利になる言葉しか耳に届かない、そういう性質も学園に入ったころからさらに強まったように感じていた。
王子が自分の不利益を娘に押し付けるだけ押し付け、それを王家が是としたまま学園生活に入り、王妃教育で後宮への出入りが頻繁になり、寮生活もあって公爵邸に戻ることが少なくなった娘と私達とのつながりが細くなるほどに変わりだした娘の様子をただ見守ることしかできなかった。
「……それでのう、考えたのだが判定人は私がやろうと思っている。まだあれは私の言葉は聞き入れてはくれるようだしのう」
叔父上が自分の髭を撫ぜながらそう告げる。
たしかにそれが一番なのだろう、今回は私的な茶会と銘打っているが、学園で習う茶会のマナーの判定だ。学生の評価を下すなら学園長である叔父上が適任だ。相手は王族であるし、一般の講師からマイナスの評価を出されもしたら反発するだろうが、叔父上は前王の弟、王子とも娘とも同じ大叔父として幼い頃から目をかけてくださっている方だ。
「見られているのを知れば取り繕うやも知れんのでな、それでは意味がない……なのでな……」
もともと考えていた計画を私たちに話す。
企みごとを楽し気に明かす顔も父にそっくりで思わず笑ってしまった。
「まったく、叔父上は本当に父に似ている」
と告げてみれば
「あなたもそっくりですよ」
と妻が悪いお顔になっていてよと合いの手を入れるものだから皆で声を上げながら笑いあった。
ひとしきり話し終えれば叔父上に我が公爵領自慢のワインを振舞う。
叔父上も懐かしい味なのだろう、ぽつぽつと父との思い出話を語りながら飲み交わした。
もしかすると酔いが回って口が滑ったのかもしれない。満たされたグラスの中のワインを眺めながらぽつりと叔父上が呟いた。
「……のう、アレはヴィクトリアなのか……?」
公爵家を離れてから次第に作られた人形のようになっていた娘。
倒れた直前、まるで寵を奪い合うようにあの王子へ向けた不可解な執着。
そして目覚めた後の娘の変化。
叔父上に問われて頭をよぎった不安を隣に座っていたユリアナの言葉がそれを拭い去ってくれた。
「心配いりません。…………あのヴィクトリアもわたくしの最愛の娘ですわ。わたくしの体にあの子を宿してから、ずっと守り抜いてきた子を間違えると思いますか?」
あの子をその身に宿していた母親だからこその確信の言葉を聞き、私と叔父上は黙って瞳を伏せた。
読んでくださってありがとうございます。
まだまだ物語は続きますのでブクマや評価(下にある☆)を入れてくださると執筆の励みになります
気になるキャラクターとか居たら一言で構いませんのでお気軽にコメントくださいませ