お茶会準備
体調崩して昨日は更新できませんでした
続きです。
一夜明け、再び馬車に乗って学園へ戻ります。
昨夜別邸から本邸に駆けつけてくれた侍女のアリーのおかげで鏡の中の私の装いも完璧です。
でも鏡の向こうで見えるアリーはまだ少し不機嫌だ。
鏡越しのアリーに向かって微笑みを向けると、少しだけ照れた顔をして「お嬢様はずるいです」とほだされてくれる優しさを見せながら、支度の総仕上げと全体のバランスを確認してくれた。
今日の装いはサイドの髪を結いながら後ろにまとめたハーフアップ。
後ろへと降ろした明るい色合いの髪はそのまま背中を覆い背景のように、濃い色合いの制服に身を包んだほっそりした優雅な体つきを際立たせてくれる効果もあるようだ。
学園へ向かう馬車に別邸へ戻るというアリーも同乗させる。
道路の整備の質がいいのか、馬車にサスペンションと似た技術が使われているのか馬車の揺れはかすかで逆に心地よくもある。
その揺れに身を委ねるように瞳を閉じていれば
「私決めました」
と決意したように告げるアリーの声に顔を上げた。
「当分の間、お嬢様の送り迎えの馬車に同行いたします」
「もう、無断で行き先を変えたりしないから、私が帰るまでゆっくりしてていいのよ?」
「いえ、それでお嬢様のお仕事の邪魔をすることになるのも嫌ですので、どこにでもご一緒致します。奥様にお聞きしたのですがお嬢様主催のお茶会も開かれるとのことですし、準備等で急な変更もまだあるでしょうから」
「そう?……じゃあお願いするわ。私も相談できる相手が増えるの大歓迎なの」
私が初体験なのだ。
たしかにヴィクトリアとして生きた16年間の知識と記憶はあるがそれを使う私は39歳のしがない庶民である。
政治や経済、学園の勉強には今までの積み重ねと、トリアの知識でカバーできるが、憧れは持っていたけれどお茶会とかパーティとかキラキラしている経験は本当に皆無な仕事人間。
後悔はしてないけど今思うと華やかさに欠けた人生でした……
トリアの記憶を自分の物として使いこなせるようになるには経験も必要だと思うけど、そうも言ってはいられない。
―――ありがたかったのは小さなころから訓練され息をするように自然にこなせる貴族令嬢として相応しい優雅な所作は体にしっかりと染みついてくれていたことです。
目覚めたばかりのころ自分の動きに驚いてしまったもの……。
今は信頼できるブレインを出来るだけ多く集めること。
そして学園、王家、公爵家を巻き込み私事で済まなくなったお茶会を成功させなければ。
まずはトリアが意識的に避けていたのか男爵令嬢が今まで社交の場でしたやらかした情報が記憶の中には出てこないので調べること、あとは交友関係に力関係。
それを踏まえたうえで招待する令嬢の選定。
開催までの準備期間を3週間と決めたのはトリアの記憶ではそのくらいの日数が妥当だという判断からだった。
アリーが窓に流れる風景を見てもうじき学園につくと教えてくれる。
さあ、あとは腹をくくるだけ、忙しくなりますわ。
◇◇◇
招待する令嬢の選定は手伝いに立候補してくださったジョアンナ様とアンジュ様や、同じクラスの令嬢達も率先して協力してくだった。
皆さまも王子と男爵令嬢には思うところがおありなのでしょう。
お茶会のマナーを中心に組みなおしたマナー講座はどうやら難航されているご様子。
トラブルに巻き込まれたくないからかサロンの利用率も大幅に下がっているようでどのような様子なのか同じクラスの令嬢の間では噂すら上がって来ないのです。
あらあらと思っていればランチの時間にレオナード会長たちが男子生徒のみ集めてサロンを借りて様子を伺いに行ってくれました。
以下、感想。
「……なんていうか、凄かった」
「多分、例のご令嬢どうして今、茶会のマナーを叩き込まれているか忘れてるように思う」
「お茶くらい好きに飲ませなさいよ!とかまた同じケーキなの!こんなの嫌!私を馬鹿にしてるのね!……とか」
「あれさあ、いくつケーキ食ってんだろうな……一限目からサロンに入り浸ってるって聞いたけど」
「この練習のために貴族街の大通りに店を構える高名なパティシェに新作作らせてるとか王子が自慢してたってのもCクラスの友人から聞いたな」
厳しく指導しようとすれば令嬢は瞬間湯沸かし器のようにヒステリーを起こし、さらに王子が窘めることもせずかばい続けるとのこと。
ひっきりなしに陶器が割れる音も聞こえていたそうです。
年代物の茶器もあるのに大丈夫なのでしょうか……。
今回のお茶会、失敗すれば王子の分が悪くなるというのに……相変わらず楽観的な思考なのですね。
◇◇◇
王子たちは大義名分を得たと言うようにサロンに籠っているらしく学園内で顔を合わすことの無いまま時が流れていきます。
おかげであの二人に時間をとられることもなく生徒会の執務やお茶会の準備に奔走できました。
ベストは私と王子、男爵令嬢の三名だけでの私的なお茶会が被害の規模が一番少ないと思うのですが……
男爵令嬢に交流の場を設けることも取り決めの際に出たテーマの一つでしたので男爵家の家格が浮いてしまわないよう爵位のバランスの調整や交流を持つことで互いの家で益がでる家の令嬢を探すことがあれほど難しいとは……入学してから1年と半分ほどなのに嫌われすぎですよ……。
ほんっとうっにっ!……苦労しました。
苦労を乗り越えて招待状を配り終え、いまはお母様やアリーと相談しながら茶会のテーマや席順、出すお茶の候補を決めたりどんな茶器やお菓子でもてなそうか相談に乗ってもらってます
「……そういうことで、新作のブレンドティーの試飲のために母とお茶の約束をしましたの」
「ということは、お茶会でリュクル・ソワレの新作ティ―をいち早く楽しめるのですね」
アンジュ様の声が弾んだ。
リュクル・ソワレは事業家の母の経営する店の一つ。隣国の一部の地域で育てられる希少な茶葉をメインに母が選び抜いた様々なお茶を客に振舞うのが貴族のステータスにもなっている。
王族や高位貴族が大金をはたいても、なかなか手に入れられない隣国の希少な茶葉の唯一の玄関口になっていることも強い。
その茶葉のみでは価格は張るが気軽に楽しめるようにと、ほかの茶葉とブレンドし手ごろな価格のミックスティーも提供されている。
様々なシーンにあうようにテイストやフレーバーを数多く取り揃え、可愛らしい小瓶に詰められたお茶は令嬢たちの間でもブームになっていて新作発表の時は誰よりも先に手に入れようと大騒ぎになる。
まだ発表前の新作候補をお茶会に出していただけることになりそれ以外もいろいろと手を貸してくださっている。
……お母様に頭があげられそうにない。
ソワレ以外でも服飾や宝飾品、茶器や花器に至る様々な事業を展開され成功を収めている実にバイタリティに溢れる方なのだ。
心配事は尽きないが、できるだけトラブルを回避する手立てを考えながらでもお茶会の準備を楽しみたい。
せっかくの機会なのだもの、この経験はきっと無駄にならない。
次の授業は別の教室を使うので友人たちと共に廊下を移動していると、窓から見える渡り廊下に王子と男爵令嬢の姿が見えた。
あら……なんだかお二人とも丸くなっていませんこと??
読んでくださってありがとうございます。
まだまだ物語は続きますのでブクマや評価(下にある☆)を入れてくださると執筆の励みになります
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