カフェテリア事件・7--終わりの始まり--
本日2回目の更新です
「私の主催するお茶会にそちらの令嬢を招待しろということでしょうか?」
ええ~~……嫌です。王子の申し出ならそう断っていたかもしれないが相手は大叔父様。
すでに王子と男爵令嬢の話も耳へ届いているでしょうし、先ほどのあの笑みは何か良くないたくらみに巻き込もうとしておいででしょうか……。
そもそも主催するお茶会の予定もないのですが。
「ああ、カロッティーニ邸の茶会に招かれることは王国中の貴族令嬢にとっては是が非でも得たい誉であり機会でもあろう。……まあ、公爵夫人の主催する本格的なものは今から身に付ける付け焼刃程度のマナーでは敷居が高いだろうが、ヴィクトリア嬢の学友を招くだけの茶会なら初心者も参加しやすいだろうて」
たしかに私の茶会に招かれるということは私との交流があると外へ知らせることになる、多少はほかの家の令嬢と交流が生まれるきっかけになるとは思いますけど……彼女がそれを求めているかしら。
私に睨まれていると主張できるほうが望む状況が作れるでしょう……今もそうやって王子の隣にいる最大の理由ですものね。
あら、先ほどからふがふが聞こえないと思ったら、王子の手が口どころか鼻まで押さえちゃってます。どうしましょう、このまま黙っていると学園初の殺人事件が起きてしまいませんこと?
「私は別に構いませんが……殿下とそちらの令嬢のお気持ちも聞かないと一方的に決めることではありませんし」
「ふむ、そうだの……押し付ける形では意味がないな。そちらの令嬢の意見も聞かねばならぬか、おぬしはどうしたい?」
話を男爵令嬢に振るとようやく王子の視線が彼女の顔へ向く。呼吸の術を奪われ窒息寸前になり白目を剥きかかっていることにやっと気づいたか王子が慌てて口と鼻を覆っていた手を離した。
「………ぷはぁ!な、なにすんのよ!死ぬかと思ったでしょ!!!」
「す、すまないアリア、ついっ」
いくら恋人が相手でも “つい” で殺されるのは嫌ですねえ……。
それにしても元気だなあ。ちょっとだけ、数ミリ程度は心配したのに。
「学園長の言った言葉は聞こえていたか?今までの冷遇の詫びにヴィクトリアの茶会に招待してくれると」
王子こそ聞こえておりましたの???
「詫びなどと言ってはおらぬぞ、友人も作れぬという令嬢に機会を与えるといったのだ」
私の代わりに的確な突っ込みを入れてくださる学園長。
仕方ない、乗って差し上げましょう。
「私がそちらの令嬢と対立しているという噂を払拭できれば良いのでしょう?私はもう殿下のお心のまま動かれること望んでおりますし、先日のようなはしたないマネはもう二度としないことを誓いましてよ」
暗にもう王子殿下に期待も希望も抱いてないし男爵令嬢とどうなっても興味はないのだと言い放つ。
まあ、どうあってもぶち壊されるだろうから茶会に招待する人は厳選しないとならないわね、ああ…面倒だ。
「そうか、ようやくお前も理解したか。しかし、そんな言葉一つで改心したか見極められぬぞ」
「ユーリ様ぁ、でしたら私のエスコート役をお願いしたいですぅ。ずっとお傍に居てくだされば…アリア、勇気出るかも……あ!でも…公爵家のお茶会に招かれてもふさわしい服も、アクセサリーも持っていないの……ぐすんっどうしよう…田舎者と罵しられちゃう」
「そんなことか!気にすることはない。私が用意しよう、好きに選ぶといい」
流れるようにおねだりした!!すごい!!
…………多分好きに選べが好きなだけ選べに脳内変換されてますよ。頑張れ王子の財布。
「よし、私も参加する!構わぬな、ヴィクトリア」
「……承知いたしました」
予定外のお茶会自体が不本意だけど仕方がない。今更嫌だとも言えないし。
「話はまとまったの。……さて、生徒の立ち入りを禁じている場にあった鍵をどうやって持ち出したかは今は不問にしてやろう。そのカギの代わりに特別にサロンの一室の鍵を茶会が始まるまで貸してやる。そこでその令嬢に淑女マナーと茶会のマナーを仕込んでやれ、ユーリス殿下」
「サロンにはマナー講師も常駐させよう、今から茶会の用意をするとなると……二週間、いや三週間か?」
学園長が私のほうへ顔を向けたので、そっと「三週間いただければ」と言葉を返す。
「すまぬの、その手の招きの用意をしたことがないやもめ男なのでな。……よし、三週間サロンの利用を認めよう。そしてふさわしいマナーを身に付け学友たちとの交友を深める努力をせよ。成功すれば今回限り目をつぶってやる、学園の中で騒ぎを起こすでない」
「学園長……」
なぜかすでに許されたように朗らか笑みを浮かべる王子。
クラスが離れているので噂しか知りませんがいまだに初歩の淑女教育もクリアされてないようです……。
三週間で駆け抜けられますかね、あなたが息をするようにできることが彼女はできないのですよ。
つかつかと何気ない足取りで学園長は二人に近づくと男爵令嬢の手に握りしめられたままのマスターキーを取り上げる。
奪い返そうとするように伸びる令嬢の手を軽やかなバックステップでお避けになった。
「鍵を貸してやるのは明日からだ。今のお前たちはサロンの使用は許可はせぬからさっさと下に降りて食事をし、授業へ行け」
「……く……わかりました、失礼します」
鍵をあっさり奪い取られ、追い出されることに悔しさをにじませ顔をゆがめる王子。立ち去り際に私をにらみながら出ていきました。
私のせいだと思ってるんでしょうね、あれ。
「つまらぬ茶番に付き合わせて悪かったの。ヴィクトリア嬢から面談の願いも出ていたことだ、別の部屋で私も混ざって昼食をとっても構わぬか?」
いつものにこやかな顔に戻られた学園長が振り返りながらランチの誘いをしてくださったので、私はまずジョアンナ様とアンジュ様のほうへ顔を向け「よろしいですか?」と問いかける。
二人とも満面の笑みで頷いてくれた。
読んでくださってありがとうございます。
まだまだ物語は続きますのでブクマや評価を入れてくださると励みになります
気になるキャラクターとか居たら一言で構いませんのでお気軽にコメントくださいませ
皆様のおかげで累計PV10万超えました。、たくさんの方に読んでもらって嬉しいです。本当にありがとうございます