カフェテリア事件・6 ‐‐転--
夜にも更新します
「これには深い訳が……!!」
男爵令嬢の口をふさぎながら青ざめた顔で言い募る。
私のほうをチラチラ目線を送っているのは助け船を出せという合図でしょうか。さてはノープランですね。
……気づかないことにしておきましょう。
王子と目を合わせぬようさりげなく顔を背けつつ、私も学園長の背後で控えるジョアンナ様たちのそばへと足を向けた。
学園長の鋭い眼光を浴びているせいか、私の動きに対してリアクションをとることはなかった。
「ほう。王立の機関の決め事を破棄できるならそれは深い理由があるのだな?聞くだけは聞こう、言ってみるがいい」
「…あ、あの、ええと…………そうだ!……こ、この娘はマナーが身に付かずに苦しんでいるのです!」
そうだって、今思いついたと自分で証明してどうする。
思わず吹き出しそうになって慌てて私は顔を伏せた。腹筋がツライ。
必死にひねり出したであろう言い訳に今度は男爵令嬢が抗議するようにうめき声をあげる。
「ん、んーーッん、んぐんぐぅううう!」
「なあ、そうであろう?そのために皆から茶会に招待してもらえず寂しい思いをしていると言っていたな、アリア」
彼らにとっては自分たちを一番上に置きちやほやされない事実が不当なものだという考えなのか、だからなのですよと常人にはとても理解できない理由を語る。学園長はきれいに整った口ひげを指で撫でるようにしながら緩く首を傾げ。
「……それとサロンに無断で立ち入るのと、どうつながっているのだ?」
「え?」
わからないのですか、という目を見開いた驚愕と言えばいいのか。そんなお顔。
あ、また考え始めています。
まあ、マナーが身に付かず周りから敬遠され、友人同士の茶会にすら招かれないのは事実ではあるけど。その代わりにせっせと王子やそれに忖度して媚びる男子生徒にちやほやされてご満悦だったような。
その男子を婚約者に持つ令嬢から苦情を頂いたこともありますし、何度か王子を窘めやめるようお願いしたこともありました。
「だ、だからですね。ええと、この娘は地方の男爵家で、母を早くに失い淑女教育もろくに学べずにこの学園に入ったのです。
経験の少ない身ではこのような部屋に入ると緊張してしまい、マナー実習でも思うよう実力を発揮できないと涙ながらに私に語ったのです。そのいじらしさ健気さに心を打たれ、経験できる場を作ってあげたかったのです」
……さっきまでめちゃくちゃくつろいでいましたけど???
ちらりと傍に居るジョアンナ様の顔をのぞけば、状況を知っているだけに私と同じ感想を持っているのか、すごい呆れ顔。
アンジュ様、お口に手を当てて「……まあっ」とか言ってる。
騙されてはいけません、あれは普通に嘘を嘘で塗り固めてるだけですから。
素直か。可愛い。
「なるほどのう、場になれさせて緊張を解いてやろうと?」
「そうです、大切な娘に手を差し伸べ惜しむことなく助力する、それが私の王族としての矜持であります!!」
だんだん演説調になってきた。恋人を守ってあげてる自分に気持ちよくなっているのかさらりと浮気を肯定してます。
目の前にいるのなあなあの陛下でも10割間違っていても全肯定してくれる王妃様でもありませんよ?
「そこにいる女は高位貴族筆頭の身でありながら困っているこの娘に助けの手を伸ばすこともせず、令嬢たちに命じてこの娘を迫害するという心のない女なのです!でなければ、マナーは多少できてはいないが、誰にでも笑顔を向け天真爛漫にふるまう愛らしい娘がほかの令嬢達にないがしろにされる理由がわからない!」
多少どころでないから敬遠されているのですよ……。
そのうえ王子の威を借りやりたい放題する令嬢と仲良くしたい令嬢がいるとは思わないのです。まあ、私が婚約者だからという理由はあるでしょう。でもそれは私が命じているわけでもないですし、皆様と手を取り合えるよう私は手を尽くしていましたよ。
――――見事に振り払われていましたけど。
そんな王子の演説をふんふん、と頷きながら聞いていた学園長はちらりと私のほうを見た。
お顔に悪い笑みが浮いています……?
「せっかくマナーを身に付けたところでそれだけでは茶会に招待も叶うまい。ならばカロッティーニ嬢、ここはひとつ心を砕いてはもらえぬかのう?」
「私の主催するお茶会にそちらの令嬢を招待しろということでしょうか?」
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