カフェテリア事件・5ーー沼ーー
本日2回目の更新です。
鍵を奪おうと王子の手が目の前に迫ってきた、まさにそのタイミングでアンジュ様が部屋の中に飛び込んできた。
背後から届くアンジュ様の声とともに入室した人の気配も感じ、少しだけホッとする。
カフェテリアを統括している責任者でも王子にとっては蓮っ葉な末端としか思わなそうだが、人目が増えることと責任のある大人の立場の男性が加わるのなら、事態は最悪の方向に走らないだろう。
少しだけ安心したところで王子の表情の変化に気づいた。
……なんでこんなに驚いているのかしら。
「……お、大叔父上」
ええ??王子の漏らした言葉に私も背後に顔を向けた。
ジョアンナ様もアンジュ様もドアから離れ最敬礼の形をとり頭を深く下げて控えている。
先代の王の年の離れた末弟。腹違い、継承権を持たない愛妾妃からのお生まれであっても王族によく出る色を持つ、私のお爺様の絵姿によく似た方。
ロジクール・リカルテ・バラック公爵 。
少し白いものが見え始めてはいるが柔らかなダークブロンドの髪に品のある口ひげに海色の瞳。年を重ね刻まれた深いしわも品性のすばらしさを描いているよう。能力の高さを買われ、成人し臣籍へと降下され官僚として働き、素晴らしい能力を見せ活躍したあと領地を持たぬ一代限りではあるが公爵位を得て今の王立学園の長へ就任した方だ。
国内の様々な教育施設の長でもある、現代日本で言うなら文科省の偉い人という立場。
そんな方が少し前髪を乱し肩で息をしながら部屋の中に飛び込んでこられた。
「学園の中では大叔父と呼ぶなと言っておろう。ユーリス殿下」
何度言えば覚えると付け足された言葉に苦笑する。その方先日も臣下たちの居る謁見の間で陛下のこと父上って呼んでましたよ……。
それをお許しになってしまう陛下ごと叱って下さいませんかね。
表情から笑みを消し去り、厳しい目を向けられた王子はたじろぐように後ろへ身を引いた。おかげで王子との距離が開き私もそのまま学園長のほうへ数歩歩き王子の手が届かない距離まで移動することができた。
「それで、この騒ぎはなんだ?浮気現場でも押さえられて婚約者を口止めせんと襲うつもりだったのか?」
「大……学園長こそどうしてここへ。ここは…生徒専用の……」
学園長の静かだが怒りを纏う声に威圧されたかしどろもどろに答える王子。
「あ、いいとこに来てくれたぁ!ねえ、ここの人でしょ?その人たち勝手に私たちが使っていた部屋に乗り込んできたの!さっさと追い出してよ!あとご飯はすごい豪華なのにしてね、王子様とのランチなんだから!」
奮発しなさいよ!って男爵令嬢の甲高い声が一切の空気を壊しながらサロンに響く。
確かに学園長はお忙しい方なので普段学園で過ごしていてもそうは見かけることができないお方だけど、全生徒が集まる行事で使われる大ホールに姿絵も飾ってあるし、重要な行事では必ずあいさつに壇上に立たれているでしょう……。
王子の威を借りたメス狐、生徒たちの前で私に見せていたしおらしさなんてどこに消え去ったか。
王子がこれ以上ないほど色白になっていますね。……まあ、ジョアンナ様もアンジュ様も似たようなものですが。
仮にも王族であった学園長を給仕の者だと思ったのか、勘違いしても学校職員を一生徒でしかない私たちが顎で使うことは出来ないのだけど。
それに王子も学園長って呼んでるのに…お耳遠いのかしら。
……あの子明日あたり存在が消されていないといいわね。
「私がどこに居ようと私の勝手だろう、それにここは生徒専用ではなく上位成績者専用の場所だが。いいから質問に答えなさい、殿下」
「そんなのどうでもいいのよ、ユーリ様がおゆ……もががっ!??」
自分の言葉を無視され王子へ言葉を返した学園長に、いら立ちを一切隠さずさらに声を張り上げアンジュ様たちが来る前に私に向かって王子の言った言葉を再び告げようとする男爵令嬢の口を王子が慌ててふさいだ。
「学園長、こ、これには深いわけが……ッ」
王子の口から出たのは謝罪でなく、言い訳。
その言葉のおかげでさらなる面倒が降りかかることとなってしまった。
……ええ……まだ卒業させていただけませんの?
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