カフェテリア事件・4--責--
夜も更新あります
一週間連続更新できました。
男爵令嬢が自信たっぷりに掲げた鍵は ――生徒が立ち入れないエリアで保管されているはずの管理者の鍵。
非常時、学園長の権限でのみ使用が許される学園内すべての鍵を開くことができる鍵。普段は学園の職員エリアの奥にしまわれているはずのものが目の前にあった。
一見ただの鍵にしか見えないのだけどどんなテクノロジーなのか、ファンタジーなのか。
……考え出すと話が前に進まないので今のところはそういうものだという認識だけ持っておきましょう。
盗品を自慢げに掲げる神経はわかりたくもないですが、先ほどの言葉。
『ユーリ様は全部のお部屋を使える鍵を持ってるんですから!!一室しか使えないなんて、威張っている割に公爵家も大したことないんですね!!』
もしかして開けられるならすべて自分のものとして使えると思っていらっしゃる?
あのご様子ならまだマスターキーはサロンの部屋の共通の鍵程度の認識なのかしら、その程度の認識のうちにあの鍵をどうにかしないといけないですね。
「鍵がある無し、の問題ではないですわ。あなた方はたとえ鍵を持っていても授業以外でサロンの利用は出来ない決まりなのです」
「たかが学園のものが決めた決まりを何故この私が守らねばならぬ」
目上の者、つまり彼の両親である王と王妃の言葉以外従ったところを見たことがない。ヴィクトリアの記憶が馴染んだころ必死になって思い出したくもない王子との記憶を確認し続けた。
そうなのだ、目下だと判断したものの言葉はどれだけ必死にかたっても聞き入れたことがない。
私のお父様に対してですら小難しい話ばかりする年寄りだと聞き流すだけだ、最終的に王へと苦情が向かい渋々と王子を窘めて事態を収拾させる、その繰り返し。
我儘な幼児がそのまま育ったような男なのだ。ヴィクトリアがどれだけ心を砕いても向き合うことすらしてくれなかった。
「それはあなたもここではただの一生徒でしかないからですわ。決まりが不服でしたら即位なされた後いくらでもお好きに変えたらよろしいかと」
出来るものならされたらいい、それを励みに頑張ってくださるのなら………。
「それでは私は我慢しないとならないだろう、なら今、ここで、変えればいい。というか、お前たちが黙っていれば済む問題だろう。私の婚約者なのならそのくらい気を利かせないか」
―――――うん、わかってた。頑張らないか。
心の中で長い溜息をついていると、王子が私のほうを見て緩く首を傾げ訪ねてくる。
「昼にここを利用するというなら相談事も食事をしながらするのだな?」
「……ええ、そのつもりですけど」
突然の話題の変換に思わず素で答えてしまう。
これからお部屋変えてもらうから別にいいのだけど……。
「ならいい、食事はそのまま運ばせろ。私とアリアがここで会食をする」
「きゃあ、本当ですか。サロンでのランチコースって本式のコースなんですよね。素敵、私たちに相応しいわ」
ジョアンナ様の食事も数に入っているようですね……。
一般生徒たちの利用する下のフロアではマナー実習とはいえ、全員本格的なコースで一品ずつ給仕していたら時間も人手も足りない。なのでプレートの数を抑えた簡略的なコースであり運ぶのも片付けるのも生徒たちが行うが、サロンのほうは大きな行事などで満室にならない限り希望すれば本格的なコースとして提供される。
いつから忍び込んでいたのかはわからないけど、鍵は持っていても申請もできないから飲み物や軽食の用意も出来なくて空腹だと。
「そうなれば話は早い、ヴィクトリアそのカギを置いてさっさと立ち去れ。お前たちは下で食べればいい……市井の者に囲まれるのが好きなのだからちょうどいいではないか」
街の様子や市民の生活の話を聞くためにいつも下のフロアで下位貴族や平民の生徒たちの座るテーブルに混ざって食事をしている。平民どもと一緒に食事をするなんてとあからさまに毒づかれたことも少なくはなかった。
テーブルに鍵を置けと指で指し示しながら私達を追い出そうとする王子に、鍵を奪われてはなるものかと身構える私。
「この鍵は私の名で申請をしたのですから、殿下の手を煩わせなくてもこのままお返しに行きますわ」
「返したらこの部屋が無人の部屋扱いになって食事も運ばれてこなくなるだろう?いいから渡さないか!」
両手でしっかりと鍵を握りこみ、胸の前に置く。
伸びた手が私に届くほんの少し前。明るい声がサロンに響いた。
「ヴィクトリア様!ジョアンナ様!ご無事ですか!?」
息を切らせて飛び込んできたのは下のフロアへカフェの責任者を呼びに向かっていたアンジュ様。
その傍らには学園の責任者―――私と王子の大叔父でもある先代の王弟、ロジクール・リカルテ・バラック公爵 その人がいた。
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