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第一話:ぷろろーぐ!

 異世界転移しちゃいました。

 深夜。残業帰りの夜。ふらふらっと歩いていたら、気付くと森のなかにいたんです。

 ホゥホゥ、とこだまするフクロウの鳴き声。ワオーンと響く狼の遠吠え。ホタルのような、妖精さんのような、そんなポツポツとした光が、暗い夜の森を幻想的に染め上げている。


 見知らぬ森で、迷子になって。

 夜だったから、とても眠くて。

 じきにわたしは、木に腰掛けて、休むことにしたんです。

 本当につらくて。

 夢だったらいいなって思って、でも夢なわけがないっていう確信もあって。

 このまま死んじゃうのかなって不安にも思って、肌寒くて、たまらなくて。

 そしたらね。

 ……――誰かに、揺すり起こされたんだ。


 揺すり起こされて、びっくりしたわたしは、跳ね起きた。

 目の前に、綺麗なエルフさんがいてね。

 跳ね起きちゃったもんだから、その、ちょっと、とーっても言いにくいんだけれども、まるで漫画のようなキス……事故を、起こしてしまったのです。

 起き抜けに、こう。少女漫画とか、思春期の時にしちゃうような妄想、みたいな感じで……。

 そんな、わたしの起こしてしまった事故がね? のちに、エルフの掟にとって、人生の伴侶と相手を定める婚姻の印であることを知る。

 その日から。

 わたしとエルフちゃんによる、同棲生活が幕を開けた!



     ☆



「……―――――おっ、おはよう……?」


 こんこん、とノックをして、エルフちゃんの寝室の扉を開ける。ログハウスのような木造の住宅とてもおっきいの空き部屋をいったん貸りているわたしは、長い気の迷いの果てに家主であるエルフちゃんにまずコンタクトを取ろうとした。


「ごご、ごめんなさぃい……」


 うん。ものすごく不機嫌そうに睨まれました。

 咄嗟に謝って、すごすごと引き下がるように閉める扉の隙間から様子を伺う。

 と、もぞもぞとした動きでベッドから上体を起こした彼女は、嘘みたいな寝癖でアフロのようにしているブロンドヘアをがしがしと掻いてはぼーっとしていた。

 ああああああ、かわいい……。

 朝のエルフ……絵になるなあ!(ガッツポーズ)


「〜〜〜!」


 寝室のエルフちゃん。夏場なのもあってか、下着姿の彼女は「ふわぅあ」とだらしないあくびを一つ、寝ぼけ眼を擦っています。朝に弱いのかな? かわいいな。その姿は、美形なのも相まって、とても目の保養になる絵画です。もう二次元です。眼福です。

 なんていうかなんていうかっ、全てが異次元なんですよ! おかしい! だってこれもう絵じゃないですか! 嘘みたいだよ! 神秘的で? 儚げで? もうとにかく本当にすごいんです。ほんとのほんとにかわいいんです! 天使なんですっ! リアルエルフえぐいよ!?


「……なに?」

「ひゃっ、な、なんでもないれしゅ……」


 じぃっと見つめていたせいで、不快感を押し出したジト目がわたしのほうに向いた。美人。

 綺麗で華奢で美しくて、ほんっとーっに二次元みたいな彼女。そんな彼女の視界にわたしなんぞが入り込んでいいのだろうか!……とか咄嗟にオタク的思考で考えてしまって、壁から覗かせていた頭を引っ込める。

 ……でも、エルフちゃんにしたいお話があったから、わたしは壁越しに声を掛ける。


「あ、あのね……えっとね……」


 声がちょっと上擦っている。わたしは緊張しているみたい。

 エルフちゃんが、「なに?」と壁越しに、こちらの続く言葉を待ってくれた。


「……ご、ご飯を、作ったんだ。お口に合うかは分からないけど……一緒に、どうですか?」


 躊躇いがちに。でも勇気を振り絞って、朝ごはんに誘ってみる。

 まだ昨晩のあの事件から、たった一夜しか明けていないし、気まずいしとても照れくさいし、困惑もあるしゆううつにも思う。だってわたしにこの世界の知識がなくて、ここに居させてもらうしかなくて……何かしないとって思って、わたし、料理は得意だったから。

 だから、彼女の反応を待った。

 ちょっと待って、じっと待って、しばらく待って、ドキドキして、余計なことをしちゃったんだとだんだん後悔し始めて――。

 部屋の扉が、開けられた。

 しゃがみ込んでいたわたしは、目の前に立つ、彼女を見上げる。


「……ん」

「〜〜〜っ、ありがとうございますっ!」


 エルフちゃんは、応えてくれた。



     ☆



「いただきます」

「森の精霊の頂きに。感謝を」

「………」

「……なに?」

「うぇえっ、やや、なんでもない……かっこいいね!」

「かっこいい?」


 思わずほへぇ~っと眺めてしまう。日々の習慣化されている儀式だから、取り立ててすごいことをしてるってわけではないんですけど、感動してしまうものがあった。いま目の前にいるのは嘘みたいに美人で耳が横に尖った、空想上の存在であるはずのエルフで、そんな彼女が自らの文化を実際に見せてくれているわけで、すごいなあ不思議だなあと思う。


「食べにくいよ」

「すみません……」


 エルフちゃんに苦笑された。かわいい。

 朝ごはんは簡単に。まだ勝手が分からないので品数は少しだ。

 エルフという存在がいる世界だけど、食材は元の世界と変わらない。ニンジンを見つけたときの安心感と来たらすごかった。ので、ニンジンサラダを副菜にして、調理済みの川魚がありましたのでそれを使わせていただいて……また、これが一番の驚きだったんだけど、エルフの文化は日本と近しいものがある?


 お米があったんです。穀物。なんだったら、食器棚にあったカトラリーには箸らしきものも見つかったし、裏口のほうには重石を乗せた樽もあった。ちゃんと確認はしてませんが、ぬかの匂いがしていました。


「ぅえ……ちょっと焦げてた……ごめんね」

「別に平気」


 エルフちゃんは淡白だ。

 まだ一日しか知り合っていないのもあるし、出会いがアレだったのもあるので仕方ないのかもしれないけれど、ちょっと、寂しいところはある。

 これからですね! これからだといいな……。


「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさま」

「おそまつさまでした!」

「……元気ね」


 エルフちゃんに褒められちゃいました。えへへ。たぶんそういうことじゃないですよね。うるさくてすみません……。

 食事を終えたエルフちゃんは、すぐに立ち上がるのでわたしは見上げる。


「紅茶淹れてくる」

「あっ、わたしやりますよ?」

「いい」

「あ、はい……」


 すげなく断られてしまった。

 台所へ行き、小さな鼻唄を奏でながら茶葉を厳選する彼女を遠目に見る。

 彼女の拘りなのかな? いいな。

 本当にもう、絵になるなあ……!

 わたしが手持ち無沙汰に過ごしていると、彼女がおぼんにティーポッドと二つのティーカップを乗せてやってきました。わたしの分がある。嬉しい。

 空の食器をずらして、テーブルにお迎えします。


「あ、ありがとうございます……」


 これは何の香りだろう?

 あまり馴染みがないので分からないけど、なんとなくホッと落ち着くような、香り高い良い紅茶みたいだ。


「おいしい……」


 チラリと彼女を見てみると、わたしの一言に嬉しそうにしてくれていた。

 そんな顔されちゃうとこっちも嬉しくなっちゃうよ。

 思わず見惚れるように眺めてしまっていると、彼女と目が合って恥ずかしくなる。

 誤魔化すように話題を探してみたら、わたわたと慌ててしまった末に――そういえば、と思い出した。


「え、えっと、自己紹介ってまだですよね!」

「そうだね。私はトゥーレという。気負わずに呼んでくれ」

「……てゅ?」

「違う。トゥ」

「と、と、トゥ!……トゥ、ウレちゃん! にへへ」


 かわいい名前だ。私が発音に苦労していると、困ったように彼女が微笑む。


「わ、わたしは、ユズです! 望月ゆずって、言います」

「そう。ユズ。覚えるよ。ユズ、ユズ……君に似合うね」

「そ、そうですか? えへへ……へへ……」


 トゥーレちゃん。トゥーレちゃん。

 とってもかわいいと思います。



     ☆



 お昼前。トゥーレちゃんにこの村を紹介してもらうことになり、二人で散歩に来ています。


「こ、こんにちはぁ……」


 トゥーレちゃんの背中にしがみつくように隠れながら、尻すぼみな挨拶をすれ違う村人エルフさんへ送る。反応はイマイチ。

 怪訝なものを見る目が痛いです……。

 これからはこれに付き合っていかないといけないんですね……。

 うぅ、馴染めればいいけど、いまわたしを見る目はものすごく冷たい。

 辺境の地でよそ者を嫌っているのと、わたしとトゥーレちゃんが……その……に、なっちゃったから、あまり印象がよろしくないようだ。

 わたしだってその、事故を主張したいけど、それはトゥーレちゃんも同じだろうし……うう、肩身が狭いです。


「ちょっと、くっつきすぎ」

「うううう……」


 しぶしぶと、しがみつく状態から彼女の服の裾をつまむ形に落ち着く。

 呆れたような彼女の嘆息が耳に残るけれど、ちょっとまだこの視線を受け止めることは出来なかった。歩きづらそうなトゥーレちゃんに引かれ、お散歩を継続します。


「ここは服飾屋で……」

「うわぁあ、かわいい……!」


「ここは雑貨屋で……」

「なにこれ魔法? すごいすごいね!」


「ここは武器屋で……」

「えっブキヤ!?」


「ここは八百屋で……」

「美味しそうなのがいっぱいあるね!」


「ここは古本屋で……」

「えっ、わーい!……読めない」


「ここは私の仕事場の、兵団本部になる」

「ああ……トゥーレちゃんと一緒にわたしを連行した人たち……」


 などなど。

 一番最後に至っては、わたしがここに連れてこられた時の話。トゥーレちゃんはエルフの兵団に所属していて、夜中の哨戒警備中にわたしと出会ったようでした。

 エルフの村はそこそこに大きい。

 人口は五〇〇人ちょっとと少ないけれど、実際のエルフも長命で、みんな美男美女の青年期で成長が止まっているみたいだ。でもみんながみんな数十年以上生きてる大人ってわけじゃなくて、ちゃんと小さい男の子や女の子もいて、みんな天使みたいで、なんかわたしの存在だけが露骨に浮いているようだった。やばいよ、ほんと。

 こんな、顔面偏差値というもののレベルが上限解放した上でMAXまで到達しているような人たちの空間、眼福だけど、萎縮する。


「最後にシエル様のところへ行こうか」

「シエル様……? あっ、村長さん。はいっ」


 誘われて向かうのは、村の高所にある大きなお家。

 実は昨日もトゥーレちゃんが件を報告する際にわたし一緒に行きましたし、村長さんには色々優しくしていただきました。

 なんだけど、やっぱりちょっと緊張しちゃう。

 何故なら村長さんも当然――。


「あっはっはっは! どうだいトゥーレ。楽しんでいるかい?」

「……はい」

「素直じゃないなぁ。君、名前はなんというのだっけ?」

「あっ、はい、ユズです!」

「そうか。ユズか。楽しんでいるかい?」

「は、はい!」

「うんうん。いい返事だ」


 どかっとソファに腰を沈めた、豪快な口調の美人さんが、何度も頷くようにそう言ってくれた。トゥーレちゃんの隣で姿勢を正し、ピンといるわたしは苦笑いしか返せない。

 村長……いやシエル様、トゥーレちゃん並みにいやそれ以上に美人すぎて見られないです!


「シエル様、やはり私は……」

「エルフの掟だよ。受け入れなさい」

「しかし……。………」


 うん、肩身が狭い……。こっちの意味でもものすごく居心地が悪いです。何も目の前でそんな話をしなくてもいいじゃないか、昨日のハプニングの罪悪感で、心が押しつぶされちゃいそうだ。

 ……わたしは、正直に、すごく正直に言葉にすると、この生活は最高だと思っている。

 だって働かなくていいし、美人さんに囲まれているし……。

 願ったり叶ったりというか。ひどい話だけど、甘えようとする部分が出てしまう。


 だ、だけど、やっぱり、それは誰かに付き合わせてまで実現させたい生活ではないです。都合が良すぎるのは嫌い。それだけは、強く思いますから。

 トゥーレちゃんが嫌というなら、わたしは迷惑を掛けないようにしたい。

 彼女に我慢をさせてまで、一緒にいたいとは微塵も思いません。それはトゥーレちゃんのためでもあるし、当然わたしのためでもある。


 ………人に気を遣って生活するの、本当に、苦しいじゃないですか?


「あ、あの、シエル様! わたしは、トゥーレちゃんの意思を尊重してもらいたいと思います……! そ、その、無理強いだけはしてほしくなくて、お互い、ちゃんと、納得して、だってその……婚姻、なんですし………………なんて、ぇへ……うぅ」


 勢い任せに口を挟むと、興味深そうにシエル様がわたしの目をしっかりと見つめた。

 それを受けて、思わず言葉があやふやなものへと変化する。

 ちょっと怖い。

 でも、そんなわたしの発言を受けて、何度も味わうみたいに首を頷かせたシエル様は、今度はトゥーレちゃんのほうに視線を移した。

 そのことにどこかホッとしてしまいつつ、慣れない意見にドキドキとした胸をなだめて成り行きを見守る。


「だそうだよトゥーレ。君はどうしたい?」

「私は……掟は絶対です。私はこれを運命だと認めます。ですが、同時に、私には警備隊長としての責務もあり……」

「ユズは? こんなことを言っているけれど」

「ふぇっ?」


 うっ、運命って響きにちょっと嬉しく思っている時に声を掛けられてしまった。

 えっと、えっと、なんだっけ、えっと。


「け、警備隊長? えっと、たぶんわたしと会った時みたいやつ……あ」

「~~~っ!」

「あわわ!」


 やばいやばいやばいやばい。

 思い出してしまった! 恥ずかしい!


「あっはははっ!」


 ううう、隣でトゥーレちゃんも何らかのリアクションを起こしているのが伝わる。

 もう顔見られないよ、なんかすっごい熱いです!

 だ、だって!

 ふあ、ファーストだったんだ!

 誰かと、そっその、重ねたのはっ、あれが初めてだったんだよ! こんな歳になっといてすっごく恥ずかしい話だけれども!

 もう忘れられないのに、思い出すと毎回熱くなってしまって、たまらない。


 ししっ、しかも、女の子とだよ!? わ、わたし、こんなことになるなんて一ミリも思わなかった。キスだって、同性ならカウントしない!とか言い訳くらい思っちゃうけど、この場が真剣すぎるのと、トゥーレちゃんが女の子なのにものすごくイケメンなせいで、ぜんぜん胸のドキドキが収まらない! もう、心が大変なんだ!

 な、なんか、本当に、ずっと不思議なことばっかりで……。


「二人してウブだなぁ」


 むにむにとほっぺをつねってなんとか表情を正そうとする。ぱたぱたと顔を仰いでなんとか顔を冷まそうとする。けど、うまくいかずに落ち着けるまで三分くらい経ってしまった。

 ……ふう。

 深呼吸して、頭のなかで言葉を固めながら、改めて彼女のことを見る。


「あ、あの、その、てゅっトゥーレちゃんが他に優先したいことがあるって言うなら、そっちをした方がいいと思うんです」

「だって、ユズは優しいね?」

「いやいやっ!」

「……畑を荒らす魔物だっています。私がこの村を守らないと。夜はあまり帰ってこられません。数日に及ぶ遠征だって時にはあります。共にいられる時間は極めて少ない。私は、彼女にそれを付き合わせることが……」

「――っだ、それは大丈夫だよ! まだ分からないことばっかりだし、トゥーレちゃんのこともこれから知っていくんだろうけど、きっと!」


 握り拳をぎゅっと胸元で握り込んで、根拠もないのに力説すると、トゥーレちゃんの白黒とさせる目が印象に残る。

 その翡翠色が綺麗だなって、初めてまともに顔を見合わせて思った。


「だ、だって、森のなかで助けてくれたのは本当に感謝してますし……!」


 彼女の手を取って、どこかハッスル気味にそう言い切った。

 不気味な森だった。

 本当に怖くて、不安でたまらなくて、疲れていて、泣いちゃいそうで、もうほとんど諦めていた時に、暗闇のなかでランタンを持ってわたしを救ってくれたのが、彼女だった。

 わたしは起き抜けにやらかしてしまったわけだけど、でもそんな初対面の寒がるわたしに対して上着を掛けてくれた優しさを知っている。暖かい色のランタンを、後続だったわたしの視界が暗くならないように掲げてくれたその優しさも知っている。

 ずっと力強く手を握ってくれた、その大きな手のひらをわたしは知っている!

 あの一瞬で、わたしは確かに彼女に惚れてしまったんだ。

 チョロいと言われても本当に否定のしようがないんだけれども。


 でっ、でも、だって、仕方ないじゃないか。

 彼女の優しさをもっと味わいたい、独占したいって、あれから思っちゃったんだから!


「と、とりあえず離れて……」

「ひゃっ、あ、ごご、ごめんなさい!」


 いつの間にか鼻息荒らげていてしまったみたいで、さりげなく押し戻されるソフトタッチのまま元の席に戻る。

 ……引かれちゃったかなぁ。

 途端にもう気力がなくなってしまい、しゅんと肩を落として話の終わりを待つことにした。

 ――シエル様の深く息を吸い込む音がした。


「エルフの一生は長く、人の一生はとても短いよ、トゥーレ。焦る必要はない、微睡む必要もない。けれど、少しの間を共に過ごしてみるのもどうだろう。ユズは了承してくれているね」

「……はい」

「我々のこの掟は、より多くの知識を得るためのものだ。子を為すことが目的じゃないし。一人一人が長命だしね。だから、彼女と一緒にいる、そんな経験もありだと思うよ。全ての障害はあとに回せばいいし、君だってまだ若いだろう? トゥーレ」

「はい」


 初めの豪快な口調はどこへやら、優しく語り掛けるように、エルフの人生観を説くシエル様を、わたしはじぃっと見つめてしまう。

 きっと彼女が言うように、それはもう様々なことを実体験として学んできたのだろう。

 その外見は二十歳。私よりもちょっと年下くらいに見えちゃうのに、その実はお姉さんと言うべきか、まるでおばあちゃんと言うべきか。

 言葉に、等身大の重みを感じる。

 シエル様って、すごいなと思う……。


「ユズ」

「ひゃいっ!」


 咄嗟に声が掛けられて振り返る。そこには真剣な面持ちをした、トゥーレちゃんがまっすぐにわたしを見つめていた。

 胸が、ドキドキとしてしまう。真剣にならなきゃいけないのに。

 なんでこんなに肌がきめ細かいんだろう。

 なんでこんなに綺麗なプラチナブロンドが世界に存在しているんだろう。

 プロポーションも素敵すぎて、自分が情けなくなっちゃうよ。


「ユズ?」

「は、はい!」


 ややや、ダメだダメだ、ちゃんと、向き直らないと。

 コホンと一つ、それから深呼吸をして、向き直る。やっぱり無理。ちょっと恥ずかしい。

 直視出来ない!


「もう……ちゃんと聞いて。ユズ」

「きっ、聞いてます。はい。恥ずかしいんです」

「ちゃんと私の目を見て」

「うう……」


 顔を隠すとそう言われ、チラ、と指の隙間から覗いてみる。

 怒られて、両手を取られてしまった。

 うぅうう!

 呻きながら、びくびくしながら、自分自身に言い聞かせながら、ようやっとわたしは彼女の顔を見つめる。


「……………ユズさえ良ければ、にはなるんだけど」

「はい……」

「どうかユズの一生を、私に見守らせてほしい」


 それは、エルフなりのプロポーズで。


「……――っ、はい。はいっ!」


 この瞬間、わたしたちの契りが結ばれる。

 その出会いは唐突で、これから先の分からないような異世界婚姻生活の幕開け。


 ちょっぴり波乱でたっぷり幸せな、かけがえのない物語のプロローグだ。


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