第六夜 喫茶店『憩』にて
暫くぶりの更新です。
最近、お仕事忙しくて更新遅れてます。
家に帰ったら疲れて抱き枕抱えたまま熟睡してしまう今日この頃。
でも、仕事中でもストーリー考えてしまうんですよね。
自分は頭の中で、アニメのようにキャラクター達が生き生きと好き勝手会話してるんです。
主人公ならここでどんな事考えてアクションするか、周りの人物はそれに対しどうリアクションするか。
自然に出来上がっちゃうんです。
皆さんもそうでしょうか。
話は尽きませんが、第六夜どうぞご覧ください。
放課後。
帰り支度をしていると、虎に呼び止められた。虎は、中年のおっさんが晩酌のお猪口をくいっとひっかけるポーズをとった。
(そう来たか)
俺は本のページを開くポーズで返す。これが俺と虎のサインである。
そう、行き付けの喫茶店で漫画を読みまくろうぜのサインだ。
「こうして、こうですね。マスター」
サキュバスが同じポーズをとる。が、あえて突っ込み入れても仕方ない。そそくさとカバンを肩にかけて、虎と共に廊下へ出た。
校門から出たとこで、ふと気付いた事がある。
「お前、今日部活あるんじゃね?」
虎は兄が部長を務める古武術同好会なんて如何わしい部、もとい同好会に所属していた。ちなみに氷目も参加しているらしい。てか、忍者一族何やってんだ。
「あぁ。やってるよ」
平然と認める。こういう後ろめたさのないサッパリとした性格がなんとなくこいつの良いとこだと思う。
(ブッチか。ま、俺には関係ないけどな)
「マスター、ブッチって何ですか?」
「あぁ、ブッチとは…」
し、しまった。釣られて受け答えしてしまった。慌てふためく俺の顔を覗きこむ虎。
「大輝、言っておくがブッチじゃないからな。今日は兄貴が大事な仲間内で話し合いがあるとか言ってたからな。抜け出しても構わん…じゃない…えっと…そう!今日は社会見学だ。そこのとこよく理解しておくように」
「あはは、そうだな」
なんとか誤魔化せたようだ。まぁ、虎にはサキュバスの声も聞こえないし、姿も見えないようだから余計な心配は無用だろう。
喫茶店『憩』。俺の家と虎の家に分かれるV字路に位置する喫茶店だ。
ちょっと風変わりな老マスターがやっている馴染みの店だ。この時間は近所のおばちゃんの井戸端会議中だと思ったが、今日はラッキーな事に貸し切り状態のようだ。
店内にはカウンターに五席。二人掛けのテーブル席二つ。角にあるソファーは詰め詰めで五人は座れるから、しめて十四席。
いつもはこのソファー席におばちゃん連中がたむろしている。
「お、いつもの坊主じゃないか。てか、虎部活はどうした?」
「今日は社会勉強に来ました」
しれっと本棚から数冊の漫画を引っ張り出して読み初めている。虎の好きな格闘漫画だ。
「漫画を読むんだったら、掃き掃除でもした方が社会勉強にもなるだろうに」
マスターのげん爺はぼやく。加納源治。俺達は親しみを込めて『げん爺』と呼んでいる。
「源治だから、げん爺ですね。うむ、60点」
何に点数つけてるか分からないが、サキュバスはニコニコしてカウンターの席に座っている。
げん爺の真ん前に座っているからサキュバスは見えていないらしい。
げん爺は呆れ顔をしながらもコーラを二つとクッキーをテーブルに置いた。
「それにしても、ここの漫画の冊数凄いよな。格闘漫画から少女漫画、SF物や歴史物、はたまたアクションから恋愛物まで。これ全部げん爺が集めたの?」
げん爺は目を細めてかぶりを振る。
「主だよ、ここの」
虎は格闘漫画に目を走らせページをめくりながらコーラをすすって言った。
「主?」
げん爺以外にも経営者がいたのか。何度も足を運んでいるが初耳だった。
「ようこそ、我が大図書館へ」
店の奥から声が聞こえて来た。確か奥は住居だった筈だ。暖簾をかき分け姿を現したのは隣のクラスでも噂の美少女だった。
「か、加納さん!?」
加納千晶。学年でも五本の指に入る美少女だ。くりっとした眼に、ツインテールと笑顔の似合う明るい女子で、男女共に人気がある。しかもスポーツ万能で勉強も出来るパーフェクトウーマンだ。
だが、そんな彼女にはオタク趣味だという事を噂に聞いていた。
「虎の友達?てか、また部活サボって家に来て。須藤先輩に怒られるよ」
須藤先輩とは、虎の兄である須藤影辰の事だ。
「千晶も部員じゃん。それに今日は兄貴用事で来てないし問題ナッシングだ」
「あたしは人数合わせに先輩に恃まれて席貸してるだけ。あたし入れて四人だし。四人以上いなきゃ同好会も認められないの知ってるでしょ?」
虎は興味なさそうに「まぁね」と言ったきり漫画に夢中である。
とりあえず自己紹介しておくか。
「虎と同じクラスの酒谷大輝。店にはよく来てるんだけど初めて会うね」
千晶は屈託なく笑っている。
「ありがとね。近所のおばちゃんばかり来てるから、この子達も君に読んでもらって嬉しいよ。集めた甲斐があったね」
この子達とは漫画の事だろう。最近はネカフェも結構な額するので貧しい貧乏学生としてはここは案外財布に優しく結構な穴場なのである。
「趣味で集めた奴の癖に」
虎が合いの手を入れる。
「とぉらぁ、あんた氷目はどぉしたの?あの子真面目だから一人で練習してんじゃない?」
「あいつは一人でも大丈夫だよ。それに今日は…」
と言いかけたところで壁掛け時計の針が4時を差し、ボォーンと低い音を鳴らした。かなりの年代物のようで、漫画喫茶と貸した店内には似つかないアンティークな代物である。
「いけない、柚子と待ち合わせしてたんだ。おじいちゃん、ちょっと出かけてくるね」
「あぁ、気をつけてな。遅くなるんじゃないぞ。今日は千晶が夕飯の当番だからの」
「わかってる。買い物も行ってくるから。六時には帰ってくるよ。大輝君もゆっくりしていってね」
千晶は靴に履き替え、赤のパーカーにジャージスカートでスポーティーな私服姿で俺にウィンクをして出ていった。
俺はただただ呆然と手を振っていた。
「マスター、惚れたっしょ?」
サキュバス、黙れ。ま、その通りだが。
「そうだな。でも、千晶には幼馴染の真田っていう彼氏がいるから大輝の入る余地はねぇよ」
「虎まで、俺はそんな気ねぇよ…って?」
そうだな?
いや、虎は確かにそう言った。
「虎、お前まさか…」
「ん?あぁ、そこの悪魔のお姉さんね。見えてるよ。朝からずっといるよな」
「あらら。マスターばれちゃいましたね」
と言いながら一般人に見えるよう姿を現したようで、げん爺は腰を抜かして尻餅をついた。
慌てて俺はげん爺を支え起こす。
(仕方ない、説明するか)
俺の説明に虎は驚いた様子もなく、ただ、
「お前ばっか綺麗なお姉さんにマスターって言い寄られてズルい」
と言われてしまった。
こちらは仮にも悪魔に命狙われてんだけど。
げん爺はあまりの不思議さに深く考えるのを止めたようだ。
「さっきゅんってさ、悪魔なんだろ?魔法かなんか使えんの?」
格闘漫画からサキュバスに興味の対象を変えたようだ。
ついにサキュバスがばれちゃいましたね。
人間には見えない筈のサキュバス。
しかし、虎には視る力があったんです。
これは異能の力で、第七夜に詳しく説明することになるんですが。
では、第七夜でまたお会いしましょう。
ここまで読んで頂いた方々、ありがとうございました。