うちの奴隷ちゃんがつくる"ぷりん"はめちゃくちゃ美味しいので、思わず二個食べてしまっても全然問題ない〜ご主人様、なぜ私のプリンまで食べてしまわれたのですか?〜
主人公
奴隷ちゃんの主。
ちょっとしたお店を王都に持っている。
貧しくもないけど、お金持ちでもない。
1年前に頑張ってお金ためて奴隷ちゃんを買った。
「超頑張った」
奴隷ちゃん
黒髪黒目の女の子。推定年齢18歳。
最近ではご主人様に正座を指示することができるくらいには仲良くなった。
悩みは、いまだに胸が成長し続けていること。
「そろそろ下着のサイズが……」
作中の半裸=パン1という認識でお願いします。
拝啓、田舎にいるお父さんお母さん。
私は今王都にいます。
村を出てから5年。
なんとか、人通りの多い場所に自分のお店を持つこともできて、そこそこ順調にやれています。
決して豊かではないですが、可愛い奴隷ちゃんと仲良く仕事もできてますし。
これからもきっと、幸せに生きていけることでしょう。
ところで、うちの可愛い奴隷ちゃんが1ヶ月前ぐらいから何かあると半裸で正座を強要してくるのですが、どうしたらいいでしょうか?
教えてもらえると嬉しいです。
知ってますか?木の床の上に正座するとゴリゴリして痛いんですよ。
あ、それとそうそう、今度秋ぐらいから東の方に出張に出かけます。
なんでも、世にも奇妙なモチモチした食材が作られているとかなんとか。
手に入ったら、そちらにも送りますね。では。 敬具
追伸 もうそろそろお見合い写真を送ってくるのはやめてください。自分でなんとかしますから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
半裸で木の床の上に正座。
どれくらいの人が経験したことがあるだろうか?
ぶっちゃけ、ほとんどの人は体験したことないと思う。
俺も半年前ぐらいまで経験したことはなかった。
これさ、かなり辛いんだ。
正座ってだけでも、普段してない人はかなり辛い。
しかもそれに加えて半裸だ。
冬の寒い日に、硬い木の床の上で、半裸の正座。
寒い、痛い、恥ずかしいの3コンボである。たはー。
「聞いてるんですか?ご主人様」
「はい。聞いてますすいません」
おっといけないいけない。今怒られてる最中だった。
話はよく聞かないとな?なんで怒られてるかわからなくなるもんな?
「じゃあ、聞きますけど、今、私なんて言いました?」
あっ、詰んだ。
「えっ……と、あんまりカリカリすると体に悪いぞ?知ってるか?怒ると体の中にある魔素が励起されて、体の細胞を破壊し始め「聞いてなかったんですね?」はい……」
「……………… 1時間」
「んお?」
「あと1時間追加で正座!動いたらさらに1時間追加!」
「……あい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
事の始まりは、俺が風呂上がりに1つのデザートを食べたことにある。
久しぶりの長期出張から帰ってきてクタクタに疲れていた俺は、家に帰るとすぐ、うちの奴隷ちゃんが準備してくれていた飯を食って、うちの奴隷ちゃんが準備してくれていた風呂に入った。
そして風呂から上がった俺は『何か食べるもん他にないかなー』と、軽い気持ちで魔冷庫を開けた。
すると、そこには何か見慣れない黄色い物体が二個入っていた。
いつもだったら、うちの奴隷ちゃんに確認してから食べるんだが、いかんせん、今日は本当に疲れていた。
『あー、わざわざ業務時間外に奴隷ちゃんの部屋まで行って確認するのも奴隷ちゃんに悪いな。よし、食おう。俺、ご主人様だしきっとこれも俺の金で買ったものだろうし、大丈夫だ。うん』
そう思って、俺はその黄色い、プルプルとした物体が入った容器に手を伸ばした。
で、食った。
うまかった。
湯上りで火照った体の中に入っていく、冷たくて甘いプルプルした食べ物。
子供向けにも思えるその味は、容器の底に隠された黒いソースで大人のお菓子に変貌した。
甘さの中に感じるほのかな苦味、そして、広がる卵の風味。
全身が歓喜に打ち震えたのを覚えている。
ぶっちゃけ今まで食べたデザートの中で一番うまかった。
そのあとはもう止まらなかったね。
無我夢中で、その黄色いものを食べた。
スプーンですくって食べるのがだんだんもどかしくなってきて、最後にはかき込むようにして食べた。
「いやー、ほんと美味いな、なんていう菓子だ?これは……」
しばらく、屋敷においてあるソファーの上で余韻を楽しむ。
そして、その後、俺の頭の中に1つの悪魔的な考えがよぎった。
そういえば、アレ、もう1つあったな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ご主人様、なぜ私のプリンまで食べてしまわれたのですか?」
「…………どっちも、俺のだと思「有罪」って……」
「ご主人様、なぜ私に確認取らなかったのですか?」
「…………今日は、出張でクタクタに疲「ギルティ」てて……」
「ご主人様、カップの横に書いてある私の名前に気づかなかったのですか?」
「…………気づいたけど、どうせ俺の金だしいっ「死刑」かなって……」
釈明してる間に3回も有罪宣告をされてしまった。辛い。
何がまずかったかって、最後に言ってたけど、2つ目のプリンにはしっかり奴隷ちゃんの名前が書いてあった事だ。
そして、俺は気づいた上で食ってしまった。
100パー俺が悪い。
ご主人様なのに反論できねぇ……
あっ、そろそろ足が…………
俺がそんな風に、足の限界が近いことを悟り始めた頃。
今までしていた説教を唐突にやめて、奴隷ちゃんが俯いた。
「ご主人様。ご主人様は、今日が、なんの日か、覚えていますか……?」
「えっ」
ど、どうしたんだろう突然、雰囲気が変わった。
というか、なんの日か、だって?
…………。
んー、さっぱりわからん。
でも、これ、当てないとやばい気がする。
だって、少し奴隷ちゃんの声が震えてるし、下、向いてるし、なにか、とても大切な日なのかもしれない……
「え、えーっと……」
「…………」
やばいやばいやばい。
雰囲気がどんどん重くなる。
なんの日?なんの日か?
本当にわからない。明日ならなんの日かわかるんだけど、今日だしな……
…………。
だめだ、思い出せない。
「…………。ごめん、わからない」
「…………ッ!そう、ですか」
…………。
んぁぁぁぁぁ!!
空気が死んでるぅー!ついでに俺の足も死ぬー!
「…………。今日は、11月13日です」
「そ、そうだねー」
「あの日も今日みたいにとても寒かったです。いえ、もしかすると、今より寒かったかもしれません」
「へ、へー」
「…………。ち、ちなみにですが、その日は私にとってとても嬉しいことがありました!!」
「ほ、ほぉー……」
「街の南の方で!私は、生まれて"すかーと"というものを履くことができました!」
「あ、スカート履けた記念日とか———」
「違いますッッッッ!!」
「…………ごめん」
「……まだ、わからない、ん、ですか……?」
「うん……」
「……今日はですね」
「うん……」
「今日は、きょ、今日は———」
そこまで、言って、奴隷ちゃんは顔をぐっとあげて、頬を涙に濡らしながらこう言った。
——————ご主人様が私を買ってくれた日です。
…………。
あー、うん、なんというか、その……
「えっと、言いにくいんだけど、たぶん、それ、明日」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あのあと、奴隷ちゃんは呆然として動かなくなってしまった。
俺が、正座をやめて服を着ても特になにも言われなかったので、相当にショックを受けていることがわかる。
ぶっちゃけ、スカートのくだりあたりから彼女の勘違いに気づいてはいたのだけど、興奮して声を荒げる彼女が怖くてつっこめなかった。
今思えば、もう少し早く止めてあげたほうが良かったかもしれない。
とりあえず彼女を再起動させるために、声をかけてみようと思う。
「あー、あ、あのさー。誰にでも勘違いはあるし、そこまで気にしなくてもいいんじゃないか?」
「…………」
返事がない。ただの"しかばね"のようだ。
いや、そうじゃないだろ。俺。
「そうだ!明日その、ぷりん?ってやつ一緒に買いに行こう!だから、元気出せよ?!」
これならどうだ!
「私は……」
お、反応あり。もう少し押してみよう。
「なんならさ!ほろほろ牛の乳を使った特製クリームも添えようぜ?!な?!きっとうまいから!」
「私は、今日がご主人様と私の契約日だと思っていました……」
おかしい、俺の慰めになにも触れていない……
…………。
うん、だがまぁ、奴隷ちゃんが真剣に話し始めたし黙って聞いておこう。
「だから、私は、ご主人様と今日という日を精一杯楽しもうと、そう思ってあのプリンを手作りしました……」
まさかのハンドメイドだった。買いに行けない。
「1週間前から夜中にコツコツと内職をしてお金を貯めて、卵を買って、砂糖も買って……。全部全部材料全て私が準備したんです……」
「…………」
「今日、ご主人様が出張から帰ってきた時!本当だったら、そのプリンを2人で食べて"美味しいね"って笑いあって、幸せな雰囲気で今日を終える予定だったんです、でも!」
「…………」
「ご主人様は、とても、疲れていらっしゃいました。だから、私は我慢しました。同じ部屋にいたら、もう、なりふり構わず騒いでしまうかもしれなかったので自分の部屋にこもってたんです」
「…………」
「ご主人様がお風呂から上がったのが音でわかったので、マッサージでもしてあげよう。今日はゆっくりしてもらおう。プリンは明日2人で楽しく食べよう。そう思って、内職を切りのいいところまでやってから部屋を、出ました。まぁ、でもご主人様はその時すでに食べてしまっていましたが」
「…………」
「悲しかった。本当に悲しかったです。私のプリンまで食べられてしまっていたことも、まぁ、残念でした。でも、なによりも、本当だったら2人で仲良く、楽しく過ごせたはずのひと時を、ご主人様が台無しにしてしまっていたことが残念でなりませんでした!」
「…………」
「うん、でも、まぁ、私には怒る資格もありませんけどね。なにせ、大切な日を間違えてしまったんですから。あはは、本当にごめんなさい。疲れているのに」
「…………」
「うん、うん。今日は、もう寝ますね。騒いでしまって、罵声を浴びせてしまってすいませんでした。おやすみなさい」
そう言って彼女が踵を返して、二階に通じる階段に向かう。
その背中は、とても小さく、このまま放っておいたらどこか遠くに消えてしまいそうな。そんな、雰囲気を感じさせた。
…………。
うーん、やっぱりこのまま今日を終えるのは後味が悪いな。
本当だったら、記念日の明日にやろうと思ってたんだが……。
よし!
「奴隷ちゃん!ストップ!」
ピタッと、奴隷ちゃんの足が止まる。
急いで走り寄り、彼女と開いてしまった距離を詰める。
「本当は、明日言おうと思ってたんだが……」
「はい、なんでしょう……」
「奴隷ちゃん、今日で奴隷クビ」
「えっ?」
奴隷ちゃんの顔が、サーっと悲しみに染まる。
おっと、この言い回しだとダメージがひどいな。早くケアしないと。
でも、まぁ、まてまて、まず、深呼吸して、落ち着いて、冷静に、キメ顔で……!
スーハースーハー……
よし!
「んで、俺と結婚して奴隷ちゃんから、お嫁さんにジョブチェンジしてください!!」
「………………!!」
…………。
うぅぅぅぅぅーーー!!!ぁぁぁぁぁー!!
なんだジョブチェンジって!そんな言い方あるかぁーー!?!
予想以上にパニックになってるな!俺?!もっと、ロマンチックな言い方があるだろう!?
だめだ、せっかく帰ってきてからのふわふわ浮ついた気分をこらえてたのに!
このままじゃ、プロポーズが失敗する!
奴隷ちゃんなんかめっちゃプルプルして、俯いてるし!
はやく、弁解の言葉を———!
「ご主人様……!!!」
そう言って、奴隷ちゃんが顔を真っ赤に染めて涙目でこちらを向いた。
「な、なにかな?!あっ、やっぱりいや?明日にするか?今日疲れてるもんな!うん!そうしようぜ!そうしよう!それじゃ、またあし———」
そして、今までに見たことのないような、まるで花がぱあっと開くような、そんな素敵な笑顔を見せて、俺に近づき———
「大好き……!!です!」
——————と、そう言った。
ちゅっ!
可愛らしいキスも添えて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
拝啓、田舎のお父さんとお母さん。
この前はわけわからない手紙をおくってしまい申し訳ありませんでした。
木の床の上に正座の件、無事に解決しました。
リビングに絨毯を敷いたんです。はい。
この前の出張の時に、珍しくて綺麗だったので購入しました。
おかけで今では痛くないです。
あ、それとモチモチした奇妙な食材"お米"も送りました。
なんでも、召喚された勇者様が発見なされたとかなんとか。
美味しいと思うので是非食べてみてください。
あ、そうそう。お見合いの件ですがね。本当に大丈夫です。
もう、私結婚しましたので。可愛い嫁の写真も送りますね。
今度そちらにも顔を出そうと思います。では。 敬具
追伸、孫の顔を拝むのはもうちょっと待ってくださいね。まだ、2人でイチャイチャしてたいので。
「あなた?ちょっとここに正座」
「はい、すみません」