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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第五章:結婚式
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14.二回目の新婚初夜

「あ、お帰りなさい。アイリ様とはどうでした?」

「ただいま。師匠とは……普通に話しただけだったよ」


 そうですか、とルナの相槌を受けるシリアだったが、流石に今この場でアイリが明日にでも国を出て行こうとしていることを口には出来なかった。


 それよりもシリアは現在のパーティ会場の"惨状"に驚いていた。


「だいぶ盛り上がっちゃったみたいだね……」

「え、ええ……だいぶお酒が回ってしまったようで」


 アイリを追う前の会場との変化がそれほどひどかったのだ。

 最早騒音に近いぐらいバカ騒ぎしているグループや完全に飲み食いすることに力を注いでいる集団、いまだ穏やかに談笑しているところもあるがそれも少数だ。


「あれはマグサさん達だよね」

「そうですね……」


 目を向けると彼らも随分と馬鹿騒ぎしているようで、信じられないことにあのクランツも一緒になっている。そこには彼のクールな印象の欠片すらない。


「お酒は怖いですね……」


 実体験も交えたルナの言葉にシリアはただ頷くことしかできなかった。


 それからもしばらく賑やかすぎるパーティは続き、諸々がお開きになるころにはすっかり深夜になっていた。


「シリア様、お疲れさまでした」

「ユーベルさん、ありがとうございました。こんな盛大に祝って貰えて本当に嬉しいです」


 そして、すべてが終わった後の会場では、給仕達が賑わいを残しているそこをテキパキと片している。

 招待客として参加していたユーベルやフィーユも今はいつも通りメイド服に身を包み同じく片づけに参加していた。そのメリハリは驚くぐらいだ。


「うーん、なんかなぁ」

「まだ片づけを手伝おうなんて考えてませんよね?」


 好きなだけ食べたり飲んだりをして、その後の片づけは任せるという状況に慣れていないシリアは、真っ白いドレス姿のまま手伝おうとしてユーベルに怒られたのは先の話である。


「主役に片づけなんてさせたら給仕皆さんの首が飛びますよ」


 手伝うと言ったときに返された言葉だが。どうやら冗談で言っているわけでもないらしく、シリアは「すいませんでした……」と素直に頭を下げることしかできなかった。


「じゃあ、申し訳ないけどそろそろ戻るよ……」

「私たちの仕事の一つですから。シリア様は早く自室にお戻りください。お嬢様を待たせてるんですから」

「う、うん」


 というか、どうしてまだここにいるんですか。と言いはしないが目だけでそう伝えられシリアは尻込みした。


(自室に戻りたくないわけじゃないんだけど……)


 会場に戻った後、シリアの元にルナはすぐに駆け寄ってきてくれた。少しだけ挨拶に疲れたのか疲労の色が見えたが、それでも楽しそうな彼女を見てシリアも嬉しかった。


 しかし、心の底にとある師匠からの言葉がこびりついていた。


『いくら初夜だからって羽目を外し過ぎたらダメよ』


 考えていなかったわけではない。

 シリアも一応年ごろではあるし性的な知識が全くないというわけでもなく、そしてルナとのそういう蜜事を想像したこともあるにはある。


 だが、それを実行するなどは以ての外だと考えていた。


(ルナはまだ13歳ルナはまだ13歳ルナはまだ13歳……)


 この国での性教育がどのくらいの水準なのかはわからないが、一般的に考えてもルナはまだ子供だ。果たしてそんな彼女に欲を向けられるかといわれると、それは無理だし禁忌であった。


「あの、シリア様」

「……え?」


 そしてそんなことを考えすぎていたのか、どうやら上の空になっていたらしい。心配そうに見つめているユーベルにシリアは慌てて何でもないことを伝える。


「そうですか……?とにかくお疲れでしょうし後は我々に任せてください。折角記念すべき日の夜なんですから、色々と積もる話もあるでしょうし」

「う……うん」


 なんだかモジモジとしている普段の様子とはかけ離れたシリアに、ユーベルは少しだけ訝し気に思い、そしてなんの悪気もなく言ってしまった。


「あ、もしかして今夜は人払いが必要ですか?」


 それは特に深い意味なんてなかったのかもしれない。ただ今のシリアにとってはソウイウ意味にしか取ることが出来ず……


「あ、うぇ、あ、その……!だ、大丈夫です!何も、何もしませんからー!」

「あ、ちょ、シリア様!?」


 その言葉を聞いて顔を真っ赤にしながらドレス姿で飛んでいくシリアを、何人かの給仕が何事かと見て、そしてそのまま視線をユーベルに向けた。


「あらら、一応人払いだけはしときましょうか……」


 あそこまで大きなリアクションをするとは思っていなかったユーベルは意外にも初心なシリアに小さく苦笑して息をつく。


「ユーベルさん、今シリア様が凄い勢いで出て行きましたが……」

「ああ、気にしないで。それよりもフィーユ、お嬢様達の寝室に関しての警護の方は最低限にするから貴女も今日は休んでいいわよ。パーティに参加して片付けもして疲れたでしょう」

「私は特に大丈夫ですが……」


 フィーユはあまり感情を表に出すタイプではないため本当のところはわからないが、まだ余裕はありそうだった。流石に元とはいえ冒険者である。


 少しだけ考えたユーベルはそれじゃあと提案する。


「じゃあ、ある程度片付けの目処がついたら私の部屋で少し飲みましょうか。記念日ですし」

「いいんですか!?」

「え、ええ……」


 単純にめでたい日だから少し誰かと話したかったから提案しただけだが、思ったよりフィーユの食いつきがよく少し驚いた。

 先ほどは感情が見えにくいと思っていたユーベルだったが、ここ最近は割とそんなこともないのかなと思うことが多くなった。


 それがユーベルと相対する時だけだと気づくのはもう少し先の話。



*****



 さて、そんなユーベルとフィーユが夜酒の約束を取り付けていた時、シリアは自室の前で静かに立ち止まっていた。


「別に大丈夫。何もやましいことは考えてないし、いつも通りいつも通り……」


 偶然通りがかった人がいたら扉の前でブツブツと呟いている彼女を見てどう思っただろうか。

 幸いにして誰も通りがかることはなかったが、今のシリアにはそういう周りを気にすることはできなかった。


「普通に入れば大丈夫、普通に入れば大丈夫……」


 よっぽど初夜という言葉が離れないのか、しきりにそれを気にして自室に入ることも出来なかったシリアだが、いつまでも扉前で待機しているわけにもいかず、遂に扉に手をかけた。


「た、ただいまー」


 そして、とにかく平静を装って扉を開けながら声を響かせる。予想では既に着替えたルナが寝る準備に入っており、帰ってきたシリアに声をかけてくるはずだった。


 しかし


「あれ?」


 自室にルナの姿はなかった。それどころか明かりもついておらず月明かりだけが怪しく部屋を照らしてる状態だ。


「ルナ……ん?」


 そしてシリアはあることに気が付いた。まず一つは部屋のテーブルに置かれた葡萄酒の瓶。それともう一つはバルコニーに続く窓が少し開き、薄手のカーテンが優しい夜風にゆっくりと揺れていることだ。


(もしかして……)


 まさかお酒を飲んでしまったのだろうかとルナは考える。彼女がお酒を飲んでしまうことで乱れてしまうことは周知の事実で、もしもそうなら中々に大変になることは実証されている。


 ましてや今の状況で変にスキンシップなんかした日には果たしてシリアの理性がまともに保つかもわからない。


 自然と唾を飲み込んでしまうシリアだったが、しかしその心配は杞憂に終わる。何故なら葡萄酒の瓶はまだ未開封だったからだ。


(一緒に飲むつもりだったのかな)


 そうであればシリアがセーブ役も出来るし、変に酔わせることもないだろうと一応ホッとする。


 とにもかくにも今やることはバルコニーにいるルナに声を掛けることだ。夜風はまだ冷えるし体調を崩してもいけない。

 ウェディングドレスを着替える前にシリアはゆっくりとバルコニーに足を踏み入れた。




*****




 満月の下でもう一つの月が照らされていた。


 いまだにウェディングドレスに身を包まれた彼女はバルコニーの手すりに手を置いて佇んでいた。

 思わずその神秘的すぎる光景に目を奪われてしまったシリアは声を出すことも忘れ、しばらく魅入っていた。


 コツン、と小さくシリアの足踏みの音が聞こえたのか、ルナはゆっくりと振り返った。ドレスが一緒に翻るその姿は最早芸術の域ですらある。


 彼女はシリアを見ながらいつもと同じように優しく微笑んだ。


「お帰りなさい」

「ただいま……どうしたの、外なんか出て?」


 シリアの問いに彼女は自嘲気味に笑う。


「部屋の中でジッとしているのが少し落ち着かなくて……」

「でも、ドレス姿だと寒いんじゃない?」


 ルナの姿は変わらず肩を出すタイプのドレスだ。流石に寒くないということはないはずだ。


「最近は暖かくなってきましたから、少しぐらいなら大丈夫ですよ」

「それならいいけど……」


 ルナは心配そうにしているシリアを手招いた。まあ少しならいいかとシリアはその誘いに乗って彼女の横に立ち、同じように手すりに手を置いた。


「師匠ともこんな感じで話をしたよ」

「どんな話をしたんですか?」

「んー、昔の話とか今日のこととか、あと……」

「あと?」


 そこまで言ってシリアは再び思い出したくない師匠のセリフを思い出していた。意識しまいと思っていたのに一度考えてしまうと中々離れてくれない。ひどい師匠だ。


(何であんなこと言ったのか……)


 僅かに顔が熱くなるのを感じて、シリアはそれを悟られまいと適当に濁した。幸いにルナはそのことについて深くは聞いてこなかった。


「ねぇ、シリア」

「ん、う……!?」


 ただ、突然手すりに置いていた手にルナの拳が重なり、彼女は飛び跳ねそうになった体を何とか抑える。ただ動揺は隠せない。


「ど、どどどどうしたの?」

「あ、いえ、何となく触りたくなって……ダメですか?」

「いや、全然、全然いいけど……突然で驚いただけだから」


 そう言うとルナは嬉しそうにしながら、手どころか体自体をピッタリとつけてきた。シリアは必死に煩悩と戦うことになる。


「憶えてますか?ここでシリアから指輪を貰ったんですよ」


 そういって彼女は重ねた手にはまっている指輪を見ていた。どうやら結婚式で渡した物と付け替えていたらしく、そこには以前プレゼントした物が輝いていた。。


「もちろん、憶えてるよ。まだ昨日のように鮮明に思い出せるぐらい」


 このバルコニーでシリアとルナはお互いに愛を伝えあった。忘れるわけもない。


「その時と気持ちは変わってませんか?」

「か、変わるわけないよ!寧ろ、ずっと深まっているぐらい!」


 突然、そんなことを言われたシリアは慌てて否定する。まさかルナの心境に変化があったのではないかと思ったが、そうではないらしく彼女は嬉しそうに頬を紅潮させて嬉しそうに笑っている。


「私も同じ気持ちですよ……ねぇ、シリア」

「うん?」


 実はさっき、とルナは続ける。


「あの、アイリ様から聞いたんですけど。どうやらアイリ様の国の結婚式では唇同士で接吻をするらしいのですが……」

「え、え?」


 またも出てきた師匠の名前。そして何やらとんでもないことをルナに吹き込んだらしいことすら窺える。


 そのルナはルナで恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、小さく小さく呟いた。


「あの、シリアはしたくないですか……?」

「え、えっと?そ、それは何を……」


 その返答はシリアの逃避を表していた。ルナが言っている『何か』っていうことぐらい会話の流れでわからないわけはないのだ。

 ただ、純粋に恥ずかしいのとまだそれは早いのではないかという思考がその言葉を生みだした。


 しかし、ルナはそんな彼女を逃がさなかった。


「だから、その……頬じゃなくて口にキスを、したくないですか……?」


 顔を真っ赤にしながら言われてしまえば、並大抵の理性は軒並み崩壊してしまう。それぐらい今のルナは思わず抱き寄せてしまいたくなるような愛おしさで──


「きゃ、あっ……!」


 抱き寄せてしまいたくなるような、ではなく気が付けばシリアはルナを抱きしめていた。残念ながら理性は崩壊したらしい。


 質の良い滑るような柔らかさのドレスと、それと同じくらい柔らかく小さな肩が直接触れてシリアの劣情ともいえる情はあっさり最高潮を迎えた。


「シリ、ア」


 ルナも突然の抱擁に最初こそ驚いた顔をしたが、シリアを見上げてその表情を僅かに惚けさせる。


(柔らかい……)


 シリアはルナを抱き締めながらそう心から思う。身長はシリアより低く体は細くて力を入れてしまえば簡単に折れてしまいそうな弱々しささえある。


『油断せずにちゃんと彼女を守ること』


 アイリの言葉が想起され、言われなくてもとシリアは心の中で返事をした。


 そして、彼女に聞く。


「ルナ、その……いいの、かな」

「…………」


 返答はなく、ただルナはゆっくりと目を閉じて、シリアの腰に手をまわした。返事はそれだけで十分だった。


 シリアが抱き締めていた腕を肩の方に伸ばす。そしてゆっくりと小さくて愛おしい彼女をさらに引き寄せる。


 そして


「んっ」


 音が立たないほどゆっくりと、柔らかい唇同士が重なった。瞬間、ブワッとルナの良い香りが鼻を擽り身体に浸透していく。


 シリアもルナも呼吸を忘れ、ずっと唇と体を重ね合わせ続けた。


 一生続くかと思われた月の下での接吻は、しかしそういうわけにもいかず、先に限界に達して唇を離したのはルナだった。


「ぷ、はっ、あ、はぁ……!」

「あ、ご、ごめん!」


 そこで苦しくなるほど長くキスし続けたことに気づいたシリアは慌てて謝る。そして抱擁を解こうとしたが、ルナはそうしようとした彼女から少しも離れなかった。


「る、ルナ?ど、どうしたの」


 ルナは潤んだ瞳でシリアを見上げていた。その揺れ動く瞳は単純な苦しさではなく、一人の女性としての情欲をはっきりと映し出し、普段の彼女とは思えないほど扇情的だった。


「あ、の、今のその、もう一回──んんっ!」


 その姿と、その言葉だけでシリアはもう止まることが出来なくなった。。


 一回目よりも深い、愛欲を一切隠そうとしないキスをルナに落とす。抱き締めた彼女の体が何度も震えることすら、今のシリアには悦楽でしかない。


「ん、ふっ、ふぁ!」


 時折、唇から漏れる彼女の甘い声が脳を蕩けさせる。無茶苦茶に愛したい感情が抑えきれなくなる。


「ぷ、あっ!」


 散々ルナを堪能して自分勝手に唇を離すと、彼女は荒い呼吸を繰り返しながらも完全に身も心もシリアに委ねている。


「シリアぁ……」


 ルナの懇願するようなその声か、それとも月の光に煽られたのか、シリアは沸々と湧き上がる情に一切抵抗することなく、文字通りルナを優しくお姫様抱っこした。


 そして、部屋に戻るとそのままルナを優しくベッドに横にした。月明かりだけの部屋で、ベッドに横たわり頬を紅潮させ荒い呼吸を繰り返す彼女の姿は酷いほど美しく酷いほど淫らだった。


「……ごめん、もう収まらないよ」


 その謝罪の言葉はこれからすることも含めてのものだったが、ルナは身体を蕩けさせながら、やっぱり微笑むのであった。


「いいですよ……シリアにだったら何されたって」

「ルナ……!」


 最後に残っていた一滴程度の理性すら、それで消し飛ばされることになり、シリアは寝ているルナの体にゆっくりと自分の体を重ねていった。

ブックマークや評価、感想などありがとうございます!

次回の更新は3/15を予定しております。


恐らく次回が最終話になると思われます。

最後までお付き合い頂ければと思います。よろしくお願いします!

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[一言] てぇてぇ…!(尊い)
2020/03/22 00:59 退会済み
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