12.ウェディングパーティ!
式場を王城に移してのパーティは教会の時とは逆に賑やかで晴れやかな催しとなっていた。関係者のみのせいで人数こそ多くはないが、お酒も用意されているせいかあちこちから騒がしいぐらいの盛り上がりが起こっていた。
「単純に騒ぎたいだけじゃないよね……」
「あはは、どうなんでしょう……」
パーティが始まる前に化粧直しを済ませた彼女達は、もう一度お披露目という形で紹介され、その時は流石に一度目ほどどよめきは起こらず普通に皆から迎えられた。
相変わらずルナは肩出しのドレスで妙な艶があり、シリアはそんな彼女が気になってしょうがなかったが、今は挨拶周りに集中する時間だった。
「お、随分綺麗なお二人の登場じゃないか!」
「あ、マグサさんと……それに、ルタート様」
そこにいたのはついこの前訪れたエネリア国の王とその護衛隊長で、二人はだいぶ酒食を楽しんでいるようだった。
「早い再開になってしまったが、二人とも今日はおめでとう。こんな老骨だが精一杯祝わせてもらうよ」
「あ、ありがとうございます!」
ルタートの言葉にシリアは頭を下げて答える。彼らが参加することは知っていたが、教会での式ではじっくりと挨拶する余裕がなかった。
ルナも同じように挨拶をするとマグサはすっかり顔を赤くしながら陽気に声をあげる。
「それによぉ、あの騒動の事を伝えに来る必要もあったからなぁ。ちょうど良いタイミングだったんだよ。それにしても酒がうまいなぁ!」
「……これマグサ。祝いの席でその話は無しだろう」
マグサが酒を飲みながら言った言葉にルタートは釘を刺す。その彼のいう「騒動」とは、シリアとルナがエネリアで襲われた件についてだということだと彼女達は察した。
「いやいや、だって一応彼女らも知っておいたほうがいいでしょう? 気味が悪いままなのも嫌でしょうし」
「だからって、今言う必要はないだろう。お前は本当にそういうところが杜撰だ」
「あ、気にしないでください。今は堅苦しい礼儀作法も関係ないので。それに確かにあの件の事なら知っておきたいですし」
「ほら、ルナ様だってそう言ってくれてますよ?」
「……全く調子がいい奴だ」
「それで、何かあの騒動でわかったことがあるんですか?」
この件はシリアに関係のある話だ。元をたどれば今この式場のどこかにいる彼女の師匠のアイリが原因でもあるのだが。
マグサは調子の良いままに口を開く。
「いや、何か不穏な事があったわけじゃない。とりあえず『穏便』に話を聞いたんだが、やはり以前にある人物に潰された良くない噂のあった教団の人間だったよ。何でも復讐の為だったらしいが、それも叶わず今は牢の中さ。壊滅した教団の残党だからな、もう気にする必要はないだろう」
「そ、そうですか」
それを聞いてシリアは安心した。別に自分自身が襲われることはいくらでも対処の仕様があるが、ルナが襲われる可能性があるとすれば気が気ではないからだ。
「それにしてもあの魔法使いさんがまた帰ってきてるとは思わなかったぜ」
マグサの言葉にシリアは首を傾げる。
「あれ、マグサさんて師匠を知ってるんですか?」
「師匠? あの女魔法使いのことだぞ?」
「は、はい」
そういえばとシリアはマグサが以前はこの国で働いていたことを思い出した。話を聞いてみるとその時に面識があったらしく妙な人の繋がりをシリアは感じざるを得なかった。
「まじか、なるほどなるほど……道理で嬢ちゃんが強いわけだ」
「もしかして師匠と戦ったんですか?」
シリアの問いにマグサは首を横に振った。
「俺はこう見えても勝てないとわかっている相手に挑みはしない主義でね。一目見ただけで次元の違いを見抜いたさ」
「そ、そうだったんですか。確かに師匠は強いですもんね」
「それに魔法使いとは分も悪いからな」
そう言ってガハハとマグサは笑う。相変わらず豪快だなぁと思いながらシリアとルナは他にも回るために一度彼らと別れた。
「ルナ! それにシリアさんもご機嫌よう。本日はおめでとうございます」
「おめでとう……」
そして次に彼女らの前に現れたのはイリスとミィヤであった。彼女らも今日はお洒落なドレスに身を包まれており、パーティを楽しんでいる様だった。
「あ、ありがとうございます」
「それが新しいドレスね。さっきは遠くからしか見れなかったけど、やっぱりちょっとあれね」
「え、へ、変ですか?」
イリスはルナのドレスをジーッと見つめながらぼそりと呟いた。
「エッチね」
「エっ……!!」
「だってそうでしょう? 私達と同じ歳だっていうのにこんな大胆に露出させて色っぽいったらありゃしないわ。シリアさんだってそう思うでしょう?」
「ふえっ?」
まさか突然振られるとは思ってもいなかったシリアは変な返事をして、困ったようにルナを見る。だが、助けを求めたつもりがルナのドレス姿をくっきりと見つめることになり、先のイリスの発言のせいか変に意識してしまったのか、カーッと顔を赤くしてしまう。
「顔、真っ赤っか……想像、してる……?」
「み、ミィヤまで、や、やめてくださいっ」
「でも、とっても似合ってるよ……ルナも、シリアさんも」
「そ、それは、ありがとうございます……」
相変わらずポヤポヤしたペースのミィヤにルナは毒気を抜かれてしまう。ミィヤは材質が気になるのかルナのドレスを柔らかく触った。
「まあ、色々あったけど何だかんだ式も挙げれてよかったじゃない。まあ、たぶん学園では質問攻めに会うだろうけど」
「うっ、ま、まあ、そうなるでしょうね……」
まだ学園の生徒であるルナは卒業まで当然学校に通う。ただ、今日挙式したことは間違いなく貴族の間では広まるだろうし、それを聞いたクラスメイトに囲まれることには間違いないだろう。
「まあ、私達が上手く壁になってあげるわよ。多分」
「壁、なるー」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ、まだ挨拶があるんでしょ。いってらっしゃいな」
「は、はい。失礼しますね。二人とも今日は来てくれてありがとうございました」
ルナは祝いに来てくれた親友に頭を下げてシリアと共に後にした。
「お嬢様、シリア様」
「あ、ユーベル!」
「それにフィーユと……クランツさん?」
挨拶周りで歩いていると聞き覚えのある声が掛かった。今日は『関係者』側として呼ばれたユーベルとフィーユに、かつて闘技場で戦ったクランツだった。
「本日は本当におめでとうございます。お嬢様の晴れ姿が見れて感動しました」
「ゆ、ユーベル、そう言われると少し恥ずかしいです」
顔を少し赤くしたルナはユーベルと談笑を始める。何だかんだ子供の頃から付き合いのあった彼女らは色々と感慨深いのか熱が籠った話をしているようだ。
シリアは取り皿に様々な料理を載せたフィーユに声を掛ける。
「フィーユも楽しんでる?」
「ええ、楽しんでますね、凄く。ただ給仕として働くつもりだったのでこちら側として参加できるのは予想外でしたが」
彼女達を招待したのはルナとシリアの考えだった。色々とお世話になったのだし、そんな彼女らを普通にメイドとして働かすのはなんだか申し訳なかったのだ。
「クランツさんも、何だかお久しぶりです」
シリアがそう呼んだ彼は大皿に大量の食事を載せながら綺麗に頭を下げる。
「そう、ですね。あのエンリ家騒動から私も色々と忙しかったので。ああ、それよりも今日はおめでとうございます。とても似合ってますよ」
「ありがとうございます。クランツさんも楽しんでくださいね」
爽やかな青年である彼であったが、シリアにそう言われると僅かに表情を曇らせてため息をついた。
「正直に言えば、師がいなければ心から楽しめたのですが……」
「師?」
彼の言葉に聞き返した時、騒がしい会場を上書きするぐらいの大声が響く。
「おーい!! クランツー!! 飯はまだかー!!」
さっきまで話していたマグサの声だ。彼はそれを聞くと盛大にため息をついた。
(そういえば元上司なんだっけ?)
エネリアで聞いた話を思い出したシリアは、クランツがマグサを師と呼んでいることに納得した。
「こういう訳です。まあ楽しくないわけではないのですが……」
「あはは……」
「それでは、私は彼らの相手をしますので。今回の主役はシリア様とルナ様なのですからお二人とも楽しんでくださいね」
クランツはそう言葉を残して騒がしい方向に向かっていった。
「フィーユは、だいぶ食べてるんだね」
「ほおえふね。たへれるふひにたへておひたいのへ」
「え? なんて?」
大食いというイメージはないが、皿に盛っていた料理を口いっぱいに頬張る彼女は何だか小動物のようだった。
「食べれるうちに食べておきたいって言ってるんですよ。駄目ですよ、フィーユ。いくら無礼講でも行儀悪くしては」
そんな小動物と化したフィーユの通訳をユーベルが横から買った。どうやらルナとの話は終わったらしい。
「そういえばもう挨拶周りは済んだのですか?」
「あとは……お父様とお母様に」
「カエン様とマロン様だね」
会場の一番奥に用意された専用の場所で彼らは楽しんでいるようだった。あとは彼らに挨拶をすれば終わりだ。
「そうですか。それではまた後でゆっくりお話しましょう。さぁ、行きますよフィーユ」
「ふぁい」
相変わらず頬に料理を詰め込んだフィーユとユーベルと別れ、シリアとルナは会場の奥に向かう。
しかし、その時シリアの視界にある女性が映り込んだ。
「あれ?」
「……? どうしたんですか」
「いや、師匠が」
「アイリ様、ですか?」
それは彼女の師であるアイリだった。彼女は綺麗なドレスに夜空の様な黒髪を流しながら会場の外に出て行く途中だった。
(……なんだか、この感じどこかで)
その消えていく後ろ姿に強烈な既視感を覚えたシリアは、何となく彼女を追いたくなった。しかし、先に挨拶しないといけない相手がいる。
「いいですよ。追っても」
「え?」
ただ、そんなシリアの思いを汲み取れない程浅い関係ではない。ルナはニコリと微笑んでいる。
「シリアにとっては、師であり親の様な感じなんでしょう? それならアイリ様にも挨拶するべきですよ。お父様やお母様には私から先に挨拶しておくので」
どうぞ、心配せず行ってください。とルナはシリアの背中を押す。
「……ごめん、すぐ戻るね」
そんなルナに感謝をしながら、シリアは慣れないドレスを踏まないように慌ててアイリを追って会場を後にした。
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次は少しだけアイリの過去と、そしてシリアとルナの初夜に続きます!
次回の投稿は3/1を予定しております。スローペースで申し訳ありませんがよろしくお願いします!




