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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第五章:結婚式
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5.思わぬ来客

投稿遅れて申し訳ありませんでした。

 シリアはメイドの案内で応接間まで来ていた。彼女にとって来客と言われたところで思い当たる節もなく、誰が来たのか検討もつかない。


「やっと来たわね」

「あっ」


 ただ、それも彼女達を見るまでの話だった。

 赤い長髪に強気な瞳が特徴の少女、ルナの友人でもあるイリスが椅子に座っていた。さらにその隣にもシリアの見知った人物がいた。


「お久しぶりです。シリア様」

「貴女、宝石店の……」


 以前、ルナにプレゼントをする時に色々と助けてくれたあの店の店員だった。その二人が応接間の椅子に座っていたのである。


「それでは、ごゆっくりどうぞ。扉の外におりますのでご用があればお呼びください」


 シリアを案内したメイドはそう言って頭を下げ退室した。

 ひとまず知り合いでホッとしたシリアは以前イリスと一緒にいたもう一人の少女がいないことに気がついた。


「今日はえっと、ミィヤは一緒じゃないんだ?」

「あの子は基本出不精なのよ。今頃家で本でも読んでるんじゃない?」


 軽く話をしながらシリアはとりあえず椅子に腰を下ろした。それを見てイリスが切り出す。


「さて、と。大体わかってると思うけど、貴女に用があるのは彼女よ。私はその取次みたいなものだから気にしないで」

「は、はぁ?」


 そう言ってシリアが例の店員を見ると、彼女は頭を深く下げた。


「すみません、急に訪ねてしまって……あの時はお買い上げありがとうございました」

「いえ、お礼を言うのは私の方です。えっと……」

「あ、すみません。私、カリーナと申します。装飾店『ジュエリ』の店長をさせて頂いています」

「店長さんだったの!?」


 突然の事実にシリアは驚いた。てっきり店員だと思っていたのだ。そういえば貴重な指輪を格安に個人の判断でしていたし、そういう意味で辻褄は合う。


「今日ここにイリス様のご紹介で訪ねた理由なのですが、以前約束したお願いを覚えていますか?」

「……お願い?」


 ううん?とシリアは頭の中の記憶を探る。




『まず一つはお店の宣伝をして欲しいんですよ』

『少しお手伝いをして欲しいんですよ。時期はまだ未定なんですが、実は今度ちょっとした催しをすることになりまして。その時に少しだけご助力頂ければ』




 過去の記憶だが全然古いわけではなく、シリアはそれをすぐに思い出した。一つ目の宣伝に関してはとりあえず聞かれれば答えるようにしているのでまあいいとして、恐らくカリーナが言っているのは二つ目の方だろうとシリアは推測した。


「以前、催しを企画したら少し手伝いをして欲しいって頼んでいたじゃないですか」

「あー、うん。ということは何か企画しているってことなのかな」


 どうやら推測は当たっていたようだ。あれだけ色々としてもらった以上協力しないわけはないが、その『催し』とやらが一体どういうものかは気になる。それをシリアが聞くと途端にカリーナは目を輝かせて前に乗り出した。


「そう!そうなんです!実はこれからジュエリは装飾品や宝石だけではなく、服飾にも手を広げてみようと考えているんです!」

「服飾?」

「ええ!それも貴族の方向けに礼装からパーティ向けの紳士服やドレスなどのプライベートまで広く網羅したものをです!」


 ずっと静かに聞いていたイリスが横から口を挟む。


「そんなこと考えてたの?あれから何度かお店に行ったけど全然気づかなかった」

「昨日思い付きましたから!!」

「ああ、だからあんな時間に家の門を叩いたわけね……」


 イリスはその答えに呆れたようにため息をついた。シリアから見たそれは何だか慣れた呆れ方で恐らく今までもそういうことがあったのだろう。

 カリーナは興奮し始めたのか、語気に益々力を込めて話す。


「それでですね!シリア様はルナ様とご婚姻を結び、それからも仲睦まじく一緒に過ごされていますよね?」

「は、はぁ、まあ、たぶん、そうだと思いますが」


 仲睦まじいと言われると色々な事を思いだし、シリアはカーっとうっすらと顔を赤くした。それを見ていたイリスが呆れ混じりに突っ込む。


「別に今更顔を赤くする必要ないんじゃない?」

「いや、まだ嬉し恥ずかしい感じで……」

「あー、まだまだ熱々なのね。聞くんじゃなかったわ」


 はいはいお幸せに。と言うイリスにシリアは益々顔が熱くなるのを感じていたが、そこにカリーナの声が覆いかぶさる。


「そこで!私は一つ気が付いたんですよ!お二人は確かに婚姻を結んではいるものの、まだ式は挙げていないじゃないかと!!」


 どんどん白熱していく様子の彼女にシリアは若干引いていた。こっそりとイリスが「一度スイッチが入ると凄いうるさいから」と耳打ちをしてくる。まさにその通りか彼女の口は全く止まらない。


「式を挙げるなら何が必要か!考えましたね、ええ!ドレスですよドレス!しかもどちらも新婦であるならそれぞれに合ったドレスが必要ですよね!ねぇ!」

「そ、そうですねっ……」


 鬼気迫る、とはまさにこの事か。小さな恐怖すら覚えてきたシリアだったが、そこで少し落ち着いたのか、詰め寄ってきていた彼女は位置を正して一呼吸置いた。


「すみません。ちょっと熱くなり過ぎました……」

(ちょっと……?)

(ちょっとねぇ……)


 二人ともツッコミは入れなかったが同じことを思う。一思いに喋ったのかカリーナは少し息が荒い。


「ま、まぁとにかくですね。どうでしょう?思いついたが吉日とも言いますし、結婚式を大々的に執り行うというのは……」

「……あんたねぇ」


 流石にイリスも呆れていた。思い立ったが吉日なんて言うが、それはカリーナ自身の話でシリアやルナは関係ない。確かに結婚式というのは良い物かもしれないがルナは自分と同じ13歳だ。まだそれをしたいなどと考えていない可能性もある。そもそも仮にも王族の結婚式だ。そんな一個人の考えで「じゃあやろう」となる話でもない。少なくともイリスはそう思っていた。


 しかし、その時だった。


「え?結婚式があるって知ったから来たわけじゃ?」

「え?」

「は?」


 つい、シリアの口が滑ってしまったのだった。



*****



 そこからはまさに質問責めだった。再加熱されて最早暴走する直前のカリーナに混じってイリスまでもが詰め寄っている。

 シリアもシリアで口を滑らしてしまったことを軽薄過ぎたと反省していた。この二人であれば別に二心があるわけもないが、何か別のところでこういうミスをしないようにしなければならないと自身を戒める。

 しかし、今はそんなことをしている場合じゃないことはシリア自身が一番わかっている。


「いつですか!?いつまでに仕上げればいいんですか!?まだ明確な日にちは決まってないですよね!?」

「ルナは!?ルナはそのことについてどういってるのよ!?」

「うぅ、もう許して……」


 結局、シリアは現状知っていることを話すことになった。


「成程、そういうことだったんですね。まさかあの方が帰ってきていたなんて……」

「え?カリーナさんは面識あるんですか?」


 カリーナはキョトンとした顔で答える。


「面識って……だって、シリア様の買ったあのプレゼントの指輪におまじないの魔法を込めて下さったのはアイリ様ですよ?」

「……え、ええぇ!?」


 思わぬ人物の登場でシリアは驚く。確かに師匠であるアイリは魔法に関しても卓越した才能を持っていた。しかしおまじないを込めるような性格だろうか、そう思うのはシリアだけだった。


「へー、もう戻ってこないと思ってたけど……まだいるならまた色々教えてもらおうかしら」


 案の定イリスとも知り合いだった。聞いてみるとアイリがこの国を訪れた時にマロンと共に色々と教えてもらっていたらしい。


「やばっ、色んな所で師匠が出てくる……」

「別にやばい話じゃないでしょ。あんな人中々、というか一生かかっても会えないかもしれないわよ」

「まぁ、お世話になったのは私もそうだけど……」


 辛さしかなかった修行時代を思い出してシリアは遠い目をする。そこからしばらくアイリについて話に少しだけ花が咲いたが、途中で脱線したことに気づいたカリーナが再び話を元に戻した。


「じゃあ、とにかく結婚式はあるってことですよね」

「ま、まぁ、一応……当然ルナがやりたいって言ったらだけど」

「わかりました……よし、それなら善は急げですね!」

「はっ?なに?」


 困惑の声を上げたのはイリスだった。何故ならカリーナが彼女の服を掴んで立ち上がったからだ。


「もしかしたら式用のドレスについて話が進んでいるかもしれません。ジエン様に話しに行きましょう!」

「はぁっ!?あんた何言って……王様に直談判なんて──」

「さぁ、行きますよ!!!!!」

「あ、ばかっ、ちょ……!」


 立場上イリスの方が偉い立場にあるのだが、何故か主導権はカリーナにある。というか本当に行くつもりだろうかとシリアはハラハラと彼女らを見ていた。


「それではシリアさん!ありがとうございました!ちょっとメイドさんにジエン様に会えないか聞いてみますね!!」

「無理に決まってるでしょ!あ、こら、止まりなさいって!!」


 どこにそんな力があるのか、物凄い勢いで応接間から出て行くカリーナと彼女に無理矢理連れていかれるイリスを見送った、というより呆然と見ていたシリアだったが、次第にイリスの叫びの様な声が聴こえなくなったあたりで、一度ため息をついた。


「どんだけタイミングがいいんだか……」


 結婚式自体には彼女も賛成だし、ルナが良いなら是非ともやりたい話ではある。しかし肝心なのはつまるところ本人の意思次第だ。


「そういえばルナと師匠待たせたままか……一度戻ろう」


 応接間を出ると扉の前で待っていたはずのメイドは姿を消していた。もしかしてカリーナの求めに応じて案内したのか、それとも猪突猛進な彼女を追ったのか、あの様子からは後者の光景が頭にはっきりと浮かぶ。もう一度だけため息をついたシリアはとりあえず自室に向かって歩き始めた。

ブックマークや評価、感想などありがとうございます!励みになります(T-T)


次回の投稿は1/11の金曜日を予定しております!どうぞよろしくお願いいたします!

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