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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第五章:結婚式
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4.大きな壁

 勝負はシリアの劣勢だ。


「い、うっ……!」


 アイリは低く構えて踏み込み、強烈な突きを瞬時に三度繰り出した。それは顔、喉、胸という人体の急所を狙ったもので、シリアは大剣を盾にして何とかそれを防いだ。

 本来アイリの剣と比べてかなり重量の勝る大剣は盾としもその役割を果たすはずなのだが、アイリの剣圧はそんな重量差を微塵と感じさせない程重い。

 防いだはずなのにシリアは剣圧に押され後ずさる。しっかりと地面を踏みしめているはずなのに抵抗できない。


(相変わらずなんて滅茶苦茶な人……!)


 シリアは対処するだけで精一杯だというのにアイリは剣を振っているとは思えないほど涼しい顔をしている。追撃してこないのはまだまだ余裕があるからなのか、それとも単純に必死になっているシリアを見て楽しんでいるのか。恐らく後者の可能性の方が高い。


(だけど、何だろう。確かにかなり厳しいけど、まだいける気がする……!)


 ただ、シリアは何か身体の底から不思議と力が湧いてくるような感覚を得ていた。活力や胆力が沸々と身体の内側から湧いてくるような感じだ。彼女は剣をしっかりと握りなおして構えなおす。


「ふーん……?」


 アイリはその様子のシリアを見て少しだけ首を傾げると何か勝手に納得したように小さく笑った。シリアはその訳はわからなかったが、彼女が攻撃の手を緩めた今がチャンスだった。


(ただ防戦一方で終わるわけにはいかない!)


 大剣を後ろ側にゆっくり下ろし地面につける。そのままシリアは強烈な勢いで地面につけた大剣を引きづりながら前に駆け出す。アイリは余裕を持って立っているだけだ。その表情には全く戦闘中という気概は感じられない。


「馬鹿に、するなぁっ!」


 いくら師匠であれど、どれだけ格が違えどそんな舐められた姿勢を見せられて怒らないわけない。例えそれが相手の作戦であっても、だ。


「せええええい!!」


 地面を抉り取りながら物凄い勢いで剣を下から振り上げる。その速度はとんでもなく早いが、駆け出しの動作から含めて見れば決して読めないものではなく、アイリであればそれは避けれたはずだった。


 しかし、彼女は軽く片手で剣を構えた姿勢で不動だった。シリアはそれを見て尚更力を込めた。


 そして剣同士がぶつかり、とてつもない金属同士のぶつかつ音が響き渡った。


「っ!!」


 その剣を受けて初めてアイリの顔が僅かに歪んだ。彼女の算段ではそのままシリアの攻撃を真っ向に受け止めるつもりだったのだろうが、しかしシリアの力がそれを上回るほど()()()()()()()()()()()()()


「お、わっ」


 シリアは大剣を思いっきり振り切りながら初めてアイリの慌てた声を聞いた。彼女は何だかんだシリアの剣を片手で防いだものの、その勢いに負けて宙に飛ばされていた。要はどこからどうみても隙だらけだ。


「まだまだぁ!」


 シリアは間髪を入れずに追撃を掛けるため大剣を振り上げた姿勢から地面を力強く踏み、腰に力を入れて身体を思いっきり横に回転させた。元々この技は追撃ありきの物だ。下から上への攻撃の後で相手を浮かせた場合と、仮に横に躱された場合でも対応できるように考えられている。


 今回の場合は一番良い状況だ。相手は浮いて仮に防御の構えを取っても空中では踏みとどまることは出来ず、まともに攻撃を受けることになる。例えば魔法使いであるならば吹き飛ばされている姿勢からでも反撃できるかもしれないが、生憎今回はアイリは魔法を使えない。


(もらった!!)


 シリアはその一撃が確実に入ることを確信した。たった一撃で決まるとは思ってはいないが少なくとも一矢報いることにはなるはずだ。

 その回転斬りは物凄い勢いで繰り出され、確かにアイリを捉えていた。シリアの脳内ではその斬撃が当たる光景まで予想できた。


「……あ?」


 しかし、次に顔色を悪い物に変えることになったのは何故かシリアだった。確かに直撃するための大剣の勢いは完全に死に、地面に落ちた。


「か、はっ……」


 そして大剣を落としたシリア、彼女の腹部には鞘が深々と突き込まれていた。


「武器投げを教えてあげたのは私なのに、使ってこないと思っていたのかしら?」


 切り上げを受けて少し後ろに吹き飛んだアイリだったが、簡単に空中で姿勢を整えて着地しているあたり、シリアの初撃もあまり功を成していなかったらしい。


「げほ、げほっ……!」


 鳩尾に強烈な一撃を受けて一時呼吸を忘れていたシリアは身体が酸欠になってきたのか殆ど反射的に咳込んだ。 


「ふふ、悪くはなかったけどまだまだねぇ」


 アイリはそう言って近づいてくる。シリアは相変わらず咳込みながら俯いていたが、その瞳はまだ諦めておらず光を灯していた。


(まだ、手はある……)


 間合い的に大剣は触れない。しかし、まだ腰に提げた剣が──


「ないわよー」


「……えっ」


 なくなっていた。シリアが慌てて顔を上げるとアイリの手には腰に提げていたはずの剣が鞘ごと持たれている。


「…………参りました」


「はい、お疲れ様。さて、それじゃ悪い子猫ちゃんにも登場してもらいましょうか」


「へ?」


 アイリはそう言うとシリアの後ろ側に向けて手招きをした。


「きゃあっ!?」


 アイリは魔法で強風を起こしたようでそれはシリアにもわかった。だが問題だったことは見慣れた人物がその風に煽られて姿を現したことだ。


「る、ルナ?」


「うふふ……」


 現れたルナは彼女らを見て顔を青くしていた。そしてシリアは師匠であるアイリが修行時代によく見せていた意地の悪い笑みを浮かべているのははっきりと見た。



*****



「すいません……邪魔するつもりはなかったのですが……」


 場所は変わってシリアとルナの自室。そこにルナとアイリだけの姿があった。

 何故今ここにシリアがいないのかと言うと、彼女はアイリとの試合が終わってすぐに使用人に呼ばれたからだ。

 どうやら急に客人が訪れたらしく、シリア自体がその謎の訪問客にピンと来ていなかったようだが「とりあえず行ってくる」と一言残して姿を消したのだった。


 それでルナとアイリだけが残ったのである。


「あらー、別に邪魔したことを怒ってるわけじゃないわよーウフフ」


「う、うう……」


 ルナは顔を合わせられずに視線を逸らした。はっきりいって彼女らの試合に横槍を入れてしまったことは事実で、アイリがそのことに関して怒っているわけではないだろうが、何か含みのある言葉を使われれば頭を下げるしかない。


「でもねぇ、師弟同士の戦いに魔法で介入するなんてねぇ」


「…………」


 ルナのやったことは基本的な支援魔法だ。身体を癒す魔法と力を増幅する魔法で、それを唱えてしまえばアイリにはあっさりバレるということは普段ならわかるはずだが慌てていたルナにはその判断が出来なかった。


「シリアは貴女の事が好きでしょうがないみたいだから気にしないみたいだけど、私はねぇ……」


 アイリはニコニコネチネチと言葉を綴っていく。ルナはただ頭を垂れて受け止めることしかできない。


「ところで、そんなルナちゃんにちょっと頼み事があるんだけど」


「……え? 頼み事ですか?」


「そうそう! ルナちゃんにしか出来ないことなんだけど、いいかなぁ?」


「う……」


「いいよねぇ?」


 アイリの瞳が怪しく光ったのをルナははっきりと見た。同時に嫌な予感が押し寄せてくるが、ただそれを断ることは状況的にできなかった。


「わ、わかりました……でも、その変な事、じゃないですよね……?」


「ええ、全然変な事じゃないわよー。それどころかあの子も喜ぶかもね」


「え?」


 最後の方は声が小さかったためルナは聞き返したが、アイリは誤魔化すように笑った。


「それじゃ、楽しみにしててね~」


「え!? い、今じゃないんですか!?」


「あら、誰も今何て言ってないわよー? じゃあ楽しみにしてて頂戴♪」


「あ、ちょ……」


 アイリは言いたいだけ言った後、颯爽と部屋から出て行ってしまった。


「え、えぇ……」


 そして自室に残されたルナは何だかとんでもないことを引き受けてしまったのではないかと、そう感じざるを得なかった。

感想、ブックマークや評価などありがとうございます!

次回の更新は1/4を予定しております。良いお年を!


追記:体調が優れないため次回更新を1/6に変更致します。申し訳ありません。

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