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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第五章:結婚式
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3.腕試し

 ここに来たには久しぶりだ。とシリアは風の吹き抜ける裏庭でそう感じていた。


「ここだったら多少暴れても大丈夫そうねー」


「言う事が物騒です師匠」


 二人がやってきた城の裏庭。ここはかつてフィーユがエンリ家に雇われて襲撃してきた場所でもあり、そういう意味ではシリアにとって思い出深い場所だ。


「その、本当に手合わせするんですか……」


「ええ、あれからどれくらい成長したか知りたいもの」


 アイリはそう言うと持参した模擬戦用の剣を鞘から抜き放った。それに対してシリアは二本、模擬用の剣を携えている。一本は背負う形で持つ大剣と、一本は腰に提げた普通の剣だ。


 アイリはその提げている剣に注目しているようで、ふーんと品定めしているようだった。


「そういう剣も使うようになったということかしら?」


「まあ、ずっとあの大剣を背負っているわけにもいきませんから」


「そうねぇ、いつもルナちゃんの隣にいるんじゃあまりにも大層な剣だもの」


「…………」


 別にそう言っていないのに普通の剣を持っている訳をピッタリ当てられたシリアは、何だか全てを見透かされているようで恥ずかしさを感じる。


「そういう師匠は変わってないんですね」


 アイリが持っているのは至って普通のサイズの剣だ。昔特訓で手合わせしたいた時もいつもそういう剣を彼女は使用していた。


「まあ一番使いやすいからねぇ。あ、魔法は今回は使わないから安心しなさい」


 アイリのその言葉にシリアは少しだけ安心した。


 正直に言うと勝ち目はないと既に悟っている。全力を出すつもりではあるのだが、目の前にいる彼女と対峙しただけも格の違いを感じざるを得ない。それが認識出来るほどはシリアにも力はある。

 肝心なのはどこまでやれるか、だ。


(どっちを使うべきだろうか)


 シリアは最初の一手を悩んでいた。大剣は使い慣れているがアイリから手解きを受けている以上、簡単に対処されてしまう可能性が高い。それなら見せたことがない普通の剣で立ち向かった方が効果的かもしれないが、まだ完璧にそれを使いこなせるているわけではない。


(むむむ……)


 悩むシリアだったが、どうしようか決めるその前にアイリが声を掛けてきた。


「でもよかったわ」


「え?」


 何が良いのか、シリアが視線を向けるとアイリは慈悲深い柔らかな表情をしていた。


「これでもね一応心配はしていたのよ。いくら戦う方法を教えたって言っても何があるかわからないし、あの時の貴女はまだ子供だったしもしかしたら騙されて酷い目に合うんじゃないかって」


「……まあ、危ないことはありましたけど」


「一緒に行ければよかったけど、あの時の私はね少し荒んでいたから……」


「そうだったんですか?」


 荒んでいる様子なんて微塵も感じなかったが本人が言うのならそうなのだろう。シリアはその意外な情報に少し驚いた。


「後悔先に立たずってね。もしも不幸な結末を貴女が迎えていたらどうしようって悩んだこともあったんだから」


「師匠……」


「だから、貴女に許してくれなんて言うつもりはないけど……」


 そう言ってアイリは頭を下げた。そしてそれを見たシリアは物凄く驚いていた。驚いて固まるぐらいにそれは珍しいことだったのだ。


「ごめんなさい。あの時かなり厳しい訓練をしたことも、急に別れてしまったことも」


 彼女にも思う所があったのだ。確かに修行は厳しく何度も折れそうになった。しかし、それを責めるつもりはシリアには微塵もない。確かに厳しかったし辛かったし苦しんだりもしたが、そのおかげで生き延びることが出来たのだ。そしてルナに出会うことも出来たし、こうして再びアイリとも再会できた。それでいいじゃないか、シリアはそう思って──




 大剣を思いっきり前に振り下ろした。


「ぐっ!!」


 瞬間、物凄い剣圧と金属同士が強烈にぶつかる音が響き、シリアは大剣を振ったにも関わらず後ろに弾き飛ばされていた。ただ、わかっていた分それ以上体勢を崩すことなく、構えなおした。


「ふぅ、ふぅ……」


「あらら、残念」


 そしてその睨みつける先でアイリは実に剣を軽く構え直しながら楽しそうに微笑んでいた……


*****


「シリア?シリアー?」


 同時刻。ルナは久しぶりに家族団欒を過ごした後、城の中を歩き回っていた。母であるティアナが抱き着いて離してくれなかったりと、中々大変だったが寂しかったのはルナも同じだ。まだまだ話したいこともあったし、正直に言えばもっと触れあいたかった部分もある。


 それでもシリアと話さなければならないことがある。


「お父様もいくら何でも急すぎます……」


 突然、結婚式を開くなどと言われてもルナは困惑するだけだった。勿論嬉しくないわけがない。シリアとの関係を挙式を経てもっと深めることが出来るのだから。


「でも、シリアはどう思っているんでしょうか……」


 だからこそ、当の本人からどう思っているのか話を聞きたかった。まさか「やりたくない」と言うはずはないと思ってはいるが、どう考えているのか、どうしたいのかは確認しないといけない。


 そして、その思い人は師匠であるアイリと共に出て行ってから、その姿を見ていない。


「どこに行ったのでしょう……てっきり自室にいると思ってたのですが」


 自室はもぬけの殻で、一応アイリの使用する部屋もノックしてみたが反応はなく、ルナは当てもなく城内を彷徨っている状態だ。


「おや、お嬢様?」


「あ、ユーベルとフィーユ……」


「どうしたんですか?お一人で」


 ユーベルはいつもルナの近くにいるシリアがいないことに疑問を抱いている様で、それは横にいるフィーユも一緒だ。


「実はシリアを探してまして……どこにいるか知りませんか?」


「シリア様ですか?いいえ、すみませんが見てないですね……フィーユは?」


「私も今日は姿を見てはないです……すみません」


「あ、いえいえ。たぶんどこかにいると思うので。すみません、出掛けるところでしたよね」


 ユーベルとフィーユはいつもの仕事用のメイド服を着ていなかった。2人とも外に出掛ける用の私服に身を包んでいる。


「こちらこそお力になれず申し訳ありません。何なら探させるように他のメイドに頼みますが……」


「いえ、そこまでして頂かなくても大丈夫です!たぶん城内にいるとは思うので」


 ルナは恐らく何か買い出しに出掛けるのだろうと推測していた。フィーユに関しては今日一緒に帰ってきたのに休む暇もないのだろうかと思ったが何故か少しだけ彼女が楽しそうに見えたためなにも言わなかった。。


 彼女らとはその場で別れ、結局シリア探索は振り出しに戻ることになった。


「本当にどこにいるのでしょうか……」


 ルナは城で使用人とすれ違う度にシリアの居場所を尋ねたが、誰しもが見ていないと言う。そこで漸くあることに気が付いた。


「城の中じゃなかったら、外でしょうか」


 使用人は基本城内にいるので外にいれば見ていなくてもおかしくはない。すれ違ってすらいないのであればその可能性はなおさら高くなる。


 ルナは何となくそれが正解な様な気がして、とりあえず向かってみることにした。そんなに遠いわけでもないのでルナはすぐに庭へと続く扉に辿り着いた。


「そういえばあの庭はシリアとフィーユが戦った場所ですね……何だかもう懐かしく──」


 そんな風に過去を振り返りながら扉を開けた瞬間、いきなりルナの耳に大きな金属音が響いた。


「ひっ!?」


 突然のそれは思わず身を竦めるほどに殺気だっているもので、その音は断続的に続いている。


「な、なな、何ですか……!?」


 それこそあの襲撃の夜のデジャブである。時刻は昼前とあの時と違うが間違いなく響いている金属音は何かの作業音ではなく、戦っている音であることぐらいはルナにもわかった。


「……!」


 そして、その音が響く裏庭をルナはこっそり覗いて、思わず息を呑んだ。


 シリアとアイリが激しく剣戟を響かせている。


「シリ──」


 シリア!と思わず叫びそうになって、ルナはハッと口を押さえた。あの襲撃の時、思わず声を上げてしまい彼女の邪魔をしたことを思い出したのだ。


「シリア……アイリ様と何故……?」


 その相手はかつての師匠だとシリアが言っていたアイリだ。彼女は涼しい顔をしながらもとんでもない速さで剣を振っている。対するシリアは殆ど防戦に近い形で苦しんでいるようだった。

 腕試しか何かだろうか、少なくとも事件性はなさそうだがそれでも危ないことに変わりはない。


「あ、ああっ……」


 しかもアイリは間違いなく格上の相手だ。何度か危ない場面がありルナはそのたびに駆け出して二人を止めたい衝動に駆られてしまう。


「でも、邪魔したら……」


 視線の先で火花を散らし続けるあの二人が意味もなく斬り合いをするわけもなく、そこには何か意味があるのだろう。そう考えれば無闇に横槍を入れるわけにもいかない。


「でも、怪我したら……あっ、危ない……!」


 一瞬、シリアの体勢が崩れそこにアイリが強烈な突きを繰り出した。それをギリギリでシリアは避けると後ろに飛びのいて距離を取ったが見ている方が気が気ではない。


「う、ううう……」


 流石に本物の剣を使っているという事はないだろうが、そうでなくてもあれだけ激しく戦っていれば怪我の一つや二つ、下手したらそれですまないかもしれない。


「ごめんなさい、ごめんなさいアイリ様……」


 ルナはそう呟くと、戦いを見ながら祈る様な構えを取った。そしてその意識をシリアに向けた。


「ですが、黙って見ているわけにはいきません……!」


 誰にも聞こえないような小さな詠唱を唱えて、ルナはその意識を必死に戦っているシリアに向けた。

ブックマークや評価、感想などありがとうございます!

アイリは嘘はつかないけど色々汚い師匠というイメージで書いています。根っこは良い人だと思います……


次回更新は12/28を予定しております!よろしくお願いします!

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