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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第五章:結婚式
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1.思ってもいなかった再会

新章にして、最終章となります。

まだ時間は掛かると思いますが、どうぞ最後までお付き合い頂ければと嬉しいです!

 エネリアでの豊穣祭を最後までちゃんと楽しめなかった事に関しては残念であったが、それでも十分に楽しかったな、とシリアは馬車に揺られながらぼんやり考えていた。


(ルナの意外なところを知ることも出来たし……)


 エネリアを出発してだいぶ時間が経っている。もうすぐでブレナークに着くことになるだろう。


 しかし、ルナは相変わらずその意気を沈めていた。


「もうお酒は絶対に飲みません……」


「別に私はいいと思うけど、可愛いし」


「うぅぅー……」


 それを聞いたルナはシリアを睨みながら可愛らしい唸り声を上げた。その顔は色々とあったことを思い出しているのか少しだけ赤い。


「シリアが羨ましいです……酔いが醒めて全てを思い出す恐怖がわかりますか?」


「あ、あはは」


 ジト目を向けられそう言われてしまえばシリアは笑って誤魔化すしかない。彼女はどちらかと言えば酔い潰れてしまうタイプであったので、流石に共感することは出来なかった。


「あっ、じゃあさ、私と二人っきりの時だけとかだったらいいんじゃない?」


「二人っきりって……そんなにシリアは私のあんな姿が見たいんですか」


「もしお酒を飲むならって話だよ。どんな姿でもその……あー、好きだし?」


「……そういう風に言うのは卑怯です。もう」


 そう呟くように言ってルナは少しだけ顔を綻ばせる。そんなやり取りをしながらも馬車は進み続けた。


「もうすぐブレナークに着きますよ!」


 それからしばらく、馬車の操縦手から声が掛かり、シリアとルナは同じように馬車の窓から外を眺めた。そこにはたった数日しか空けていないが懐かしい光景が広がっていた。


「帰ってきたのかー」


「お疲れ様でした。ですがお父様が私達を呼んだ理由ってなんでしょうね」


「そうだねぇ。緊急ではないって言っても気になるよね」


 そんな彼女らの疑問は帰国後すぐに解消されることになった。



*****



「ああー!やっと帰ってきましたね!」


「え?あ、マロンお義姉様!?」


 馬車から降りた瞬間だった。茶髪の長髪が特徴的な少女が半分突撃するようにルナに駆け寄ってきたのだ。


 一瞬、その勢いに何事かと警戒してしまったシリアだったがルナの「お義姉様」という言葉で何とか止まった。


「ど、どうして、魔法の研究で旅に出てたんじゃ……?」


「それは、あんな手紙貰ったら帰ってきますわよ!」


「手紙?」


 マロンと呼ばれた女性は頷くと懐から手紙を取り出した。


「何でも結婚相手が決まったらしいじゃない」


「あ、あぁー……」


 その件ですか、とルナはシリアにこっそりと目を向けた。しかしシリアは突然に現れた謎の少女に只々呆気に取られていたのか、そのアイコンタクトは上手く伝わらなかったようである。


「それで慌てて帰ってきたの」


「そ、そうだったんですか。でも、それならせめて一通送ってくだされば……」


「出しましたわよ。ただね、まさか豊穣祭に行っている真っ最中だとは知らなかったわ。だから、上手く伝わらなかったのはごめんなさい」


「あ、あぁ、お父様が突然帰ったのはお母様達が帰ってきたからなんですね。わざわざ内緒にしなくてもよかったのに……」


「ふふ、驚いてもらいたかったんじゃないかしら?」


 さて、二人の少女が目の前で楽し気に会話している中、シリアは完全に蚊帳の外だった。

 というより存在を認識されているか怪しいぐらい話に入り込めていない。ただ、マロンという少女の事はルナから聞いた分には知っている。


(この人がカエンさんのお嫁さん……)


 ルナの母であるティアナという女性と共に魔法の研究で遠くに旅に出ている少女。情報として知っているといってもそのぐらいなのだが。


 そんなことを考えながらバレないように観察していたシリアだったが、マロンはそれに気づいたのか初めてシリアに目を向けた。


「あら、貴女……見ない顔ですわね。新しく雇われた方?」


「あ、彼女は」


 ルナが何か言う前にマロンは自己紹介を始める。


「初めまして。私はマロン、マロン=ケアリルですわ」


「え、あ、はぁ」


 シリアは突然のそれに対応できずに戸惑う。ルナを見ると彼女もどこか慌てているようだった。


「それで貴女は?ルナと一緒の馬車から降りてきたようだけど……護衛?」


 マロンはそう言うと訝し気な目線を向けてくる。その視線は『早く自己紹介をしろ』と強く語っている。それに逆らう理由もないのでシリアは素直に頭を下げて名乗る。


「え、えっと、初めまして。シリアと申します」


「……シリア?」


 マロンはその名前を聞いて一瞬何か引っかかったような表情を作ると、すぐにウンウンと唸りだす。


「あれ?確か手紙に書いてあったのもシリアって名前だったような……ん、んん?」


「ルナの婚姻相手の名前ですか?」


 シリアが尋ねるとマロンは頷いて答える。


「ええ。確か、シリアって名前だったと思うんだけど。うーん、もしかして違ったかな。でも間違えて覚えるなんて」


「あの、マロンお義姉様……」


 シリアもルナもここまでで大体察していた。恐らく家から彼女らに届いた手紙には肝心なことが書かれていなかったに違いない。もしも彼女らの事が書いてあれば真っ先にわかるはずなのだから。


(シリア……)


(うん。ちゃんと言うよ)


 今度は目線だけで会話を終える。そして、シリアは少しだけ間を整えてはっきりと言った。


「私がルナの婚姻相手のシリアです」


「……へ?」


 マロンはパチパチと瞬きをして、シリアとルナを交互に見る。そしてルナはシリアの発言を肯定するようにコクリとマロンに頷いた。


「え、ええ?」


 混乱している。それはもう存分に。そして、混乱したままシリアに尋ねる。


「君、もしかして男の子?」


「違います」


 それから説明にはだいぶ時間を要することになった。



*****



「は、はぁ、そうだったのね。ごめんなさい、てっきりどっかの男だと決めつけていましたわ……」


 マロンはそう言って自身の額に手を当てていた。どうやら思っていた以上にシリアの事が予想外だったらしい。


「いえ、手紙に書いてなかったのが悪いですから。マロンお義姉様が知らないのもしょうがありません」


「でも、よくよく考えれば名前だけで男か女も書いてなかったし、ジエン様が何だか勿体ぶって相手の事を教えてくれなかったことのはこういうわけだったのね……」


「それで、納得して頂けましたか?」


 ルナがそう聞くとマロンは一度息を吐いて、再度シリアとルナの顔を見ると少しだけ間をおいて二人を見つめて尋ねた。


「えっと、二人はさ、お互いに好きって事でいいんだよね?」


「……はい」


「はい」


 二人のその返事を聞いてマロンは「そっか」と小さく笑った。


「はぁ、驚いた。まあ可愛い義妹がちゃんと選んだなら大丈夫ね」


「大丈夫っていうのは……」


「変な虫じゃないかってこと。正直、どこの男がどんな方法で婚姻を結んだのか気が気じゃなかったの。最悪、ヒドイ男なら弾き飛ばすつもりだったし」


「えぇ……」


 シリアが若干引いている。そんな中ルナは口を開いた。


「それでマロンお義姉様はどうしてここに?」


「どうしてって、貴方達の帰りを待っていたのよ。部屋の中でじっとしていられなくて」


「でも、お兄様ともお話したいんじゃないですか?けっこうな時期離れて──」


「か、彼とは大丈夫!!!」


 ルナの言葉を遮ってマロンは急に叫んだ。さっきまで多少なりとも落ち着いていたが、その様子から一変して慌てだしていた。


「カエンとはいつでも話せるからさ、うん。今はそれよりもルナのことでしょ?ね」


「ですが……」


 そういえば、カエンさんの許嫁なんだよなぁ、と改めてシリアはマロンを見た。茶色の編み込まれた長髪と大人しめの色合いのシンプルなドレスの似合うどちらかというと美人タイプの少女だ。


「と、とりあえず行きましょう。無理言って貴女達を迎えに出る役目を貰ってるから」


 マロンは誤魔化すように咳払いしてそう言うと、シリアとルナを城の中へと促す。その様子に二人は少し苦笑しながらも素直に従い、そのまま着いていこうとした。


 ちょうどその時だった。


「あら、やっぱり貴女だったの」


「え?」


 マロンでもルナでもない。凛とした大人の女性の声、それに即座に反応したのはシリアだった。


「……うそ」


「あまりにも遅いから様子を見に来たんだけど、私の勘はあたってたわねぇ」


 王城の方から歩いてくる美人と言って間違いない女性。黒髪の腰程まで伸びたストレートの髪が緩い風にゆったりと揺れている。


 シリアは困惑と驚愕に目を見開いていた。そして戸惑ったまま思った事が口から出る。


「し、師匠?」


「お久しぶりね。シリア」


 自分が国を出てから生きるために育ててくれたシリアの師匠。そんな彼女がシリアの前に立ちはだかっていた。

ブックマークや評価、感想などいつもありがとうございます!凄く励みになります!

ちなみにマロンはお嬢様言葉だったりそうじゃなかったりとしますが、その時の状況で自然と変わってしまう感じです。ルナとは幼い頃からの知り合いなので割と砕けた口調です。


次の投稿は12/14を予定しております。よろしくお願いいたします!

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