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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第四章:新婚旅行と豊穣祭
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11.謎の刺客と謎の……?

 切っ先を向けられたシリアは只々困惑していた。


(何言ってんのこいつら?)


 その疑問は最もだった。この場で一番価値のある人間は誰かと聞かれればそれは勿論ルナだ。

 何せ一国の王女なのである。その身柄を拘束するだけで賊側には多大な利益がある。その分のリスクも当たり前のように大きいが。


(ルナを攫うなんてそんなことをさせるつもりはない!)


 シリアは先程までそう決心し身構えていた。奴らの目的が自分の身であると知るまでは。


「お前達はもう袋の鼠だ。だが、大人しく抵抗しないというなら他の奴らも生かしておいてやる」


 生かしておいてどうするかまで相手は言わない。少なくともその場で「はいわかりました」と頷く者はいなかった。


「どうしてシリアを狙うんですか!?」


 そんな状況下で真っ先に食ってかかったのはルナだった。男達はそれを嘲笑いながらも口を開く。


「さっきも言っただろう。"あの女"をおびき寄せるための餌だと!」


(あの女、ねぇ……)


 シリアは考える。といっても既に何となく察していた。


「あんた達が言ってるのは師匠のこと?」


 シリアがブレナークを訪れる前の記憶の中にハッキリと残っている女性は一人しかいない。あの日、襲ってきた賊をあっさりと蹴散らし、そしてその後一人で生きる術を教えてくれた女性だ。


 シリアの『師匠』と言う言葉を聞いた途端、男達の雰囲気が怒りを含んだものに変わる。それは当たりだと言っている様なものだった。

 男の中の一人が激昂し叫ぶ。


「そうだ!あの『アイリ』とかいう女に我々は壊滅させられた!たった一人の女にだ!!」

「我々は復讐しなければならない。その為ならどんな犠牲も厭わないつもりだ」

「例え女子供だろうが容赦はしない!」


 まるで打ち合わせしていたように男達の声が続く。しかし、シリアの表情は何故かキョトンとしたものになっていた。


「アイリ、って誰?」


「……なに?」


「私の師匠は、『サギミヤ』って名前だったけど」


「…………」


「…………」


 その場に微妙な空気が流れた……


「まさか勘違いで襲ってきたなんて言いませんよね?」


 その空気の中でフィーユはいつもより冷たい無表情で、それでも身構えた姿勢は解かずに呆れたように言う。男達は慌てたように否定する。


「そ、そんなはずはない!どれだけ苦労して情報を集めたと思っている!貴様があの荒廃した国を離れて、賊に襲われたところを助けてもらったことまで調べたのだぞ!?」


「……それは、あってるけど」


 シリアは何となく当時を思い返しながら目を細める。ある意味第二の人生の始まりである時期だ。


「でも名前違うんでしょ?」


「それは……偽名かもしれないだろう!この際どっちが本名でもいい!とにかくあの女を表に出せればいいのだからな!」


 何だか白けたな、とシリアは変わらずルナを庇いながらフィーユを見る。彼女はシリア達と男達の間に立ち対峙しているため、その表情は見えないが任せてくれと言っているのはわかる。


「クソ!もうお喋りは終わりだ!おい、こいつらの身柄を拘束しろ!あの黒髪の女以外は生死は問わん!」


 リーダー格の男がそう言って一斉に相手が殺気立つ。流石に痺れを切らしたらしい。


 ルナはその殺気に少し怯えたのかシリアの服を強く掴んだ。そんな彼女を安心させるため包むように抱きすくめたシリアだったが、その目は少しだけ不安の様相を映していた。


 目の前の男達はさっきのゴロツキとは明らかに強さが違う。彼等は殲滅させられたと言っていた。それはつまり何らかの集団か、それよりももっと大きな何かかもしれない可能性がある。とにかく危険度は高いのだ。

 しかも、武器にも違いがある。フィーユは暴徒鎮圧用の警棒だが、対する男達はれっきとした剣だ。しかも相手は五人ときている。


(流石にフィーユ一人じゃ……)


 彼女の強さを信じているシリアだからこそ、今の状況が危ないことはわかる。相手はシリア以外の生死は問わないのだ。一回斬られればそれが致命傷となる。


 シリアもルナも心配だった。しかし、その心配を受けているフィーユはやはり飄々と無表情を保っていた。


「戦う前に何個か教えて欲しいのですが」


「……なんだ小娘」


「最初にルナ様とシリア様に突っかかったあの男達は、あれも仕込みですか?」


 その問いに男は笑う。


「あんな男共は知らん。だが、結果的には標的を祭り会場から遠ざけてくれたから感謝はせねばな」


「……そうですか。では、ブレナーク国王であるジエン様が帰還した理由は貴方達が何か仕掛けたからですか?」


「ふん、そんな国の事などは知らん!我々はあの女に復讐するためだけにここにいるのだ!!


 それを聞いてフィーユは息をついた。ひとまず二重にも三重にも策が敷かれているわけではなさそうだ。彼女の中でいくらか戦いやすくはなった。


「言いたいことはそれだけか。だったらもう死んでもらうぞ!」


「……っ!」


 しかし、簡単にはいきそうになかった。


 剣と鉄がぶつかり合う音が響く。フィーユは思わぬ剣圧に受け流すのがギリギリで少しだけ後ずさる。

 斬りかかってきたリーダー格の男は思っていたよりも出来る男らしい。


「女にしてはよく反応したな……」


「女にしては……と言いますが、貴方達は"あの女"という人にコテンパンにされたのでは?学習してないんですか?」


「……貴様!!」


 挑発に男が乗り、再び激しい剣撃を繰り出した。しかし、最初の一太刀程速くもなく鋭くもない。それは、怒りから来る力の入りすぎだった。


「我々は油断しただけだ!次は負けるわけがないっ!!」


「……っ……ふっ」


 怒りに振られる剣をギリギリで受け流しながらフィーユは耐え続ける。実際、彼女自身中々無茶なことをしている自覚はある。


 相手となる男は全員で五人。そのうち誰かが後ろにいるルナとシリアに近づいてはならない。その為には上手く牽制しながら戦いつつ、勝利を収めなくてはならない。引き分けや負けは認められないのだ。


 男を挑発して力強く大振りさせることで、後ろの男達が前に出にくくする。その目論見は現在成功しているが、ここからの一手は慎重にいかなくてはならない。


(せめてシリア様が武器を持っていれば)


 彼女らは祭りを楽しむ為に外に出たのだ。武器を携行しているわけもない。それを嘆いても仕方ないことはフィーユ自身がわかっている。

 それにシリアが武器を持っていたとしてもルナから離れることは出来ない。


(私が何とかするしかない)


 男の怒りに任せた剣を屈んで躱す。ギリギリだったのか数本髪の毛が宙を舞った。


「そもそも貴女方がシリア様を攫って本当にその人は出てくるんでしょうか?無駄骨になるのでは?」


「いいや、あの女は自身が関わった人間には優しいからな。愛弟子となれば出てこざるを出ないだろう!」


「出てこなかったら?」


「その時は殺す。どの道そうなるのだからな、お前のようにな!」


「うっ!」


 横薙ぎに振られた剣に少し反応が遅れたフィーユは警棒で受け止めたが、受け流すまでにいかずその威力をまともに受け、半分後ろに吹き飛ばされるように後退する。


「フィーユ!」


 後ろからルナの悲痛な声が聞こえるが振り返らない。


(……出来る)


 単純な誘拐犯ではないと思っていたが、ここまで戦える相手だとまでは想像できなかった。普通に戦えるな同等に立ち回れるだろうが、今は戦闘条件が悪すぎた。


(何でもできると……思い上がり過ぎましたか)


 まともに攻撃を防いだせいで痺れた手の感触を取り戻しながらフィーユは気を入れなおす。

 目の前の男はさっきまで怒っていたがフィーユを制せると確信したのか、冷静になり落ち着き始めている。状況は、悪い。


「おい」


 フィーユに剣を向けていた男が後ろに控えていた男達に合図をする。すると、彼らは広がるようにその陣を変えていく。それは間違いなくシリアを捕縛しようとするためだ。


(まずい)


 フィーユは直感する。今のシリアはルナを伴っている以上まともに戦えるわけもない。

 最悪身を挺することも考えたが、それも目の前の男が邪魔なせいで厳しい。


(何か、何か方法は)


 ざっと周りを見る。しかし廃材ぐらいしか見当たらない。そこでふとあることに気が付いた。


「……あ」


「ふ、なんだ。何か思いついたのか?さっきから何か考えているようだが」


 考えが見切られていたことは気になったが、それよりもフィーユの中ではある気づきがあった。


(この人たちはシリア様をひたすらに追ってきていた……)


 それは光明が見える気づき。


(私が彼女達が駆け出した時に応援を出したのには全く関係ない……?もしそうなら)


 騎士の恰好をしていたのと、彼らが現れた時に「遅れて申し訳ない」と言ったことからてっきりそこから仕組みだと思い込んでいたのだ。


(もしも、私が応援を呼んだことを知らないなら──!)


 その考えに行きついたとほぼ同時だった。


「ひっ!?な、なんだ!!?」


 広がった男の内の一人が悲鳴を上げた。その場にいた全員が突然のその声に視線を向けた。


「いやぁ、相変わらずこの国の裏路地は入り組んでおるわおるわ……」


「き、貴様、なにも……ぐがっ!?」


 大男。まさにその言葉が似合う男は片手で掴んでいた男を地面に叩きつけた。余程の衝撃だったのか地面にぶつけられた男はそれきり動かない。


「あ、あの人は……え、なんで?」


 そしてそこにいた彼を見てシリアは心の底からの驚きを隠せずに目を見開いていた。


 そこにいたのはある意味でルナとの全ての始まりでもあるあの闘技場にいた、何故か何かと世話を焼いてくれた──


「おう、嬢ちゃん!随分久しぶりじゃねえか!どうやらお姫さんとは仲良くいっているようだな!」


 名前も知らないあの男が、騎士の鎧を身に着け立っていたのだった。

ブックマークや評価、感想ありがとうございます!本当に励みになります!

更新が一週間ごととゆったりのペースで申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。


次の更新は11/2を予定しております。どうぞよろしくお願いいたします!

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