10.新たなる不穏
すみません、10/19の間に投稿できませんでした。申し訳ありません。
フィーユに踏みつぶされた男はそのまま気絶してしまったのかそのまま立ち上がることはなかった。
「既に応援の警備兵も呼んでありますので、お二人は後ろの方でお待ちください」
「あ、うん。でもフィーユさ、どっから現れたの?」
シリアが思った疑問を投げると、フィーユは近くの建物の屋上を指さしていた。
「"偶然"祭り会場を巡回していたら"偶然"駆けていくお二人が見えましたので」
「……あー、その、ありがとう」
「いえいえ、"偶然"ですから」
あくまで偶然と言い張るフィーユに心の中でもう一度感謝しながら、シリアはルナを近くに寄せる。
ルナも頼もしい味方の登場で安心したようだが、依然として数の差はある。心配にならないわけもなくシリアに確認するように口を開いた。
「シリア……フィーユは大丈夫なのですか?」
それにシリアは表情を変えずに答える。
「うーん、大丈夫だと思う。ルナも知ってるでしょ」
「つ、強いことは知っていますが……」
フィーユがシリアと戦える程の実力を持ついう事実をルナは知っているし、別に彼女を疑っているわけではない。ただ、相手が複数なのが心配でしょうがなかった。万が一ということもある。
「とにかく今は邪魔にならないのが最善だと思うし、下がろう」
「……そうですね。フィーユ、気を付けてくださいね!」
「お心遣いありがとうございます」
ルナの声にフィーユは余裕を持って振り返ると頭を下げる。そしてすぐに男達に向きなおした。
「さて、と」
フィーユは一度息を吐くと、突然の乱入者に驚いて固まっていた男達四人と対峙する。
「な、なんだよお前は」
男の内の一人がそう言うとフィーユは腰に提げていた一本の棒を取り出した。それは鉄製で出来た警備兵のみが持つ、暴徒鎮圧用の警棒である。
「ちっ、警備の奴か!邪魔しやがって……」
「聞いていたでしょう?もうすぐ応援も到着しますから。逃げるなら今の内ですよ?」
一人は既に気絶している。渡すなら一人だけで充分なのだ。しかし、フィーユのその言葉に男の一人はあることを思いついて卑しく笑う。
「ふん、だったらその応援とやらが到着する前にお前ら全員を攫えばいい話じゃねえか!」
どうやら落ち着いてきた男達はフィーユのことも標的にしたらしい。確かに見た目だけ言えば小柄な少女だ。
何でそんな彼女が警棒を持っているのか、男達はそれに関しては深く考えていないようでとっくに買ったつもりらしい。
「偶然奇襲が成功したってこっちは後四人もいるんだぜ?大人しくした方が余計な怪我もしなくてすむぞ?」
何を想像しているのか男達は厭らしく笑う。フィーユはそれを前にしながらも全く表情を変えずに言い放つ。
「そうですか。じゃあ、どうぞ」
警棒を前に構えた彼女は、その先端を男達に向けクイ、クイと二度上げた。
「……このガキッ!」
明確な挑発行為。そしてそれに煽られた男の一人が顔を赤くしながら突っ込んできた。その手には木で出来た棒を持っている。
そしてそれを頭上から振り下ろす。そこに手加減は一切なく、一撃で目の前の少女を無力化するためのものだった。
しかし
「うぐっぅ!!」
その場に響いた呻き声は男の声だった。
「随分とごゆっくりですね」
振り下ろされた木の棒はフィーユに当たることはなかった。彼女はあっさりとそれを躱すと男の腹部、詳しく言えば鳩尾に警棒を突き込んだのだ。
「うぐ、ぐ……!」
たまらず男は腹を抱えてうずくまる。相当力強くやられたのか、その痛みは想像もできない。
男達がそれを見て目の色をサッと変える。それは彼等の目に映るフィーユという標的が外敵に変わった瞬間だった。
しかし、その判断はあまりにも遅すぎた。
「ぐあっ!?」
立っていた男の顔に木の棒が直撃していた。それはフィーユが蹲った男からいつの間にか奪って全力で投げたものである。
「な、なに……ぐぅっ!?」
突然もんどりを打って倒れた男に、横にいた男は驚いたがそんなことをしている暇をフィーユは与えなかった。
「ぐ、くそ、がっ……」
男が視線を下げるとそこにはさっきまで少し前にいた筈のフィーユがいた。そしてその腹部にはメリメリと警棒が突き込まれている。そしてそのまま男は悔し気な声を出しながらやはり地面に倒れ伏した。
五人いた男達はあっという間に一人になっていた。それもフィーユと言う小柄な少女一人の手によってだ。
「運動にもなりませんね」
フィーユは残り一人になった男を睨みつける。とっくに戦意を失ってしまったのか、男は「ひいっ!」と悲鳴を上げると手に持っていた木の棒を落とし、背を見せて逃げ出した。
「追いますか?」
「いや、いいんじゃないかな」
フィーユの問いにシリアはあっさりと答える。わざわざ無駄な事をしなくてもいいという判断で、フィーユも賛成なのか頷いて倒れ伏せている男達を眺める。
その時、シリアとルナが入ってきた路地から多数の走る音が聞こえてくる。
「ここか!」
現れたのは騎士の恰好をした男達だった。恐らくフィーユが呼んだのは彼らだったのだろうとシリアは漸く気を抜いた。
その男達は倒れ伏せている男達を一度見ると、シリア達に向けて頭を下げる。それは規律ある礼だった。
「申し訳ありません、遅れてしまったようで……」
「……いえ、問題はありません」
「それで、この男達が?」
「はい。その通りです。そちらにいらっしゃいますブレナーク国の王女であるルナ様とその伴侶であるシリア様に乱暴を働こうとしましたので制圧しました。後は任せていいですか」
「は!お任せを。ところで何かお怪我などは……?」
騎士の一人がそう言って三人の少女を見回しその中でルナを見つけると近寄る。ルナは自分が一番か弱いから心配されているのだろうと察して、大丈夫ですよと返事をしようとした。
「きゃあっ!?」
しかし、その前に強い力でルナは腕を引き寄せられ悲鳴を上げる。ただ、彼女を引っ張ったのは近寄ってきた男ではない。
「シリア……!?」
急に抱き寄せられたルナはすっぽりとシリアの腕の中に収まる。どうしたのかとその顔を見ると彼女の表情は険しかった。
「シリア?どうしたんですか……?それに、フィーユまで」
見ればシリアはルナを守るように抱きしめ、フィーユは何故かさっきと同じく対峙するようにシリア達と騎士の男達の間に立っている。
「フィーユ、こいつらから殺気がしたんだけど」
「ええ、最初から怪しい感じはしていたんですが、"曲者"ですね」
「え?え?」
ルナは二人の中に入れずただ困惑する。だが、何となく目の前にいる騎士達を彼女らが疑っているという事だけはわかった。
そしてそれは確信に変わる。
「くく、流石"あの女"が育てただけはあるな」
「あの女?」
いきなり出てきた謎の人物にシリア達三人は首を傾げる。しかし今はそれを考えている場合ではない。
「フィーユ、任せてもいい?」
「はい、シリア様はルナ様を守っていてください」
「あ、あの」
腕の中で何かルナが言おうとして、止めた。今は大人しくしていた方がよさそうだと判断したらしい。
騎士の男達は警棒ではなく隠すように帯びていた剣を抜いた。この時点で目の前の奴らが正規の警備兵ではないことは確定した。
「用があるのは一人だけなんでな。無駄な殺生は好ましくないが」
シリアはそれを聞いてルナを守るように抱いていた力を無意識に少し強めた。間違いなくこいつらの狙いはルナだろうと踏んだからだ。恐らく王女である彼女を攫って国に対して脅迫といった線が濃厚だろうと、そう結論をつける。
身構える彼女達を前に騎士達のリーダー格の男は剣先を一人の少女に向けて、宣言するように口を開いた。
「悪いが我々と共に来てもらうぞ!!」
その剣先は真っすぐに──シリアに向いていた。
「…………は?」
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