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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第三章:恋より婚姻が先ですが
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8.期限

仕事が忙しく更新が遅れ気味で申し訳ありません。

もう少しでこのお話しにもひと段落着きますので、どうぞよろしくお願いいたします。

「すいません、つい夢中になっちゃって」


 帰りの馬車の中、いつも通り二人きりになった時にルナはシリアに申し訳なさそうに頭を下げていた。


 言うまでもなく先程のお店の事に関してシリアを放っていたことを謝っているのだろう。確かに友人達と結構盛り上がっていたが、そのおかげでシリアはある物を購入することが出来たし、そもそも構ってくれなかったから怒るという性格ではない。


 シリアはルナの罪悪感を消すように笑いながら話す。


「私もああいうお店は人生初めてだったから新鮮で楽しかったよ」


「それならいいんですが……そういえばシリアは装飾品とかに興味はあるんですか?」


「んー、どうだろう。綺麗だなーとか思ったりはするけど装飾品なんてつける余裕はなかったからさ」


 自虐的にそう言いながら笑うシリアにルナは少しだけ憂いのある表情になる。


「そ、そうですか……」


 その僅かな変化をつい見逃してしまったシリアだったが、今の彼女は何より腰の布袋の中に入っている小さな四角いケースに気を取られているせいであった。



*****



 先程、店員に誘われるがままに店の奥に足を運んだシリアの前には小さな宝石の着いた指輪が飾られていた。それは大事そうにケースの中に入っていた。


 それを示して店員は説明を始める。


「これは『魔女の結晶』と呼ばれる希少な宝石にさらにおまじないを付与した一級品何ですよ」


「魔女の結晶……?おまじない?」


「あら、もしかしておまじないをご存じないのですか?」


 常識の様に語られたおまじないという言葉を詳しく聞くと、何でも希少な宝石などは魔力を秘めることが出来るらしく高位の魔法使いによって不思議な力を宿すことが出来るらしい。


 当然、その指輪をつけたからといってありとあらゆる魔法が使えるようになるとかそんな直接的な効果があるわけじゃないが、病気になりにくいだとか幸運になるかもしれないだとか、そういった本当に縁起を担ぐ意味でのものらしい。


「特にこの指輪に魔法を込めてくれた方はそれはもうとんでもなく高位の魔法使いで、さらにですね! とんでもなく綺麗で美しい方だったんですよ……」


 何やら熱に浮かされたような店員の話しぶりに少し引いたシリアであったが、確かにその指輪は派手ではなく神秘的でルナにも似合いそうであった。


「あの……」


「この国の方ではないのが残念ですが、またいずれお見えに──」


「あ、あの!」


 何も言わなければずっと話続けていそうな店員の言葉をシリアは遮った。店員の女性はその声に驚いたが、それと同時に自身が暴走していたことに気づいたのか少し恥ずかしそうに頭を下げた。


「す、すいません。つい熱くなってしまって……それで、どうでしょう?」


 そう言って指輪の入ったケースをシリアに近づける。だが、シリアには一つだけ気掛かりなところがあった。だから遮るように


「凄く良い物だとは思うんですけど、これ高いですよね……?」


 そう、希少な物程高いのは当たり前だ。シリアも今は少し贅沢出来るほどのお金はあるが宝石をポンと買える程はない。


 シリアの言葉に店員は少しだけ悩むと小さな声で金額を提示した。


「……無理です」


 手持ちの何倍もの値段にシリアは思わずガックシと項垂れた。確かにこれをプレゼントできれば喜んでくれると思うが流石にお高い。


「今、どれほどお持ちなんですか?」


「これだけです……」


 店員さんにお金の入った小さな布袋を渡す。彼女はその中身を確認すると再び悩みだした。


 最悪何か身に着けている物でも売れる物がないかと思ったが、生憎そういった物もない。折角良い物を前にしているのに買えないことが悔しい。


 そう思っていたシリアに店員は少しだけ考え込むと、パッと良いことを思いついたという風に口を開く。


「じゃあ、今持っている分だけでいいです!」


「え?で、でも全然足りないですけど……」


「その代わりにお願いがあるのですが」


「お願い、ですか?」


「はい!」


 目をキラキラと輝かせながらその提案をした店員に何となく嫌な予感がしながらも、しかし破格の値引きには勝てず……






 そして、布袋の中には有り金を対価として手に入れた指輪とそのケースが入っているのだ。そして肝心の『お願い』についてだ。


「まず一つはお店の宣伝をして欲しいんですよ」


「宣伝?でも、このお店ってそういうの必要なさそうですけど」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。王家の方が直接言うのとそうでないのでは雲泥の差がありますから」


「そうなんですか?まあ、それぐらいならいいですけど」


 宣伝なんて言っても実際に指輪はルナにプレゼントする予定であり、シリアが身に着けるわけではない。それでは宣伝も何もないとシリアがそう言っても店員はそれでもいいですと言うだけだった。


 次に、と店員の女性は続ける。


「少しお手伝いをして欲しいんですよ」


「お手伝い、ってこのお店のですか?」


 流石にこのお店で何か出来ることはと言われてもシリアには難しい。ありえるとしたら用心棒ぐらいだが、どうやらそれとは違うらしい。


「時期はまだ未定なんですが、実は今度ちょっとした催しをすることになりまして。その時に少しだけご助力頂ければ」


「は、はぁ……?」


 何だか引っ掛かる言い方に少しだけ不信感はあったものの、結局は悩んだ末にシリアはその提案を受け入れることにした。


 目の前にある指輪はそれぐらいの価値はあると思えたし、何よりこの機会を逃してはならないような気がしてならなかった。このおかげで後程少しだけ大変なことになることは、当然まだわからなかったが。




 とにもかくにもとりあえずシリアは指輪を買う事が出来た。


 それからはあっという間に時間は過ぎ、イリスやミィヤとは簡単な挨拶をして別れた。別れ際にこっそりとイリスに「上手くやってくださいね」と言われたことはまだ新しい。


「そろそろ着きますね」


「う、うん」


 馬車の窓から見慣れた景色が見え始める。思えば何だかんだと城に招かれ、すっぽりと定住してしまっているが本当に何があるのかわからないものだとシリアは思い更けていた。


(思えばもうすぐで一ヶ月か……)


 短かったとも言えるし、長かったとも言える。少なくとも忙しかったことには間違いはない。


 そうして今までの事を思い返しているシリアであったが、その中で一つだけずっと引っ掛かっていることがあった。


『これから一ヶ月だけ私と婚姻を結んでくださいませんか。それで一ヶ月後にもう一度貴女に問います。その時に決めてくだされば構いませんから』


 初めてルナと会った日に言われた言葉である。


(決める……決めるって何を決めればいいんだろう……)


 目の前で少し疲れたのかウトウトとしているルナを見つめながら、シリアは迫る期限に言いようのない不思議な不安を覚えていた。


 指輪とそのケースが入っている革袋が所在なさげに揺れていた。






 その日の夜。自室のテラスにシリアは一人で立っていた。今日の夜風はちょうど涼しく心地よいものだった。


「一ヶ月の件もだけど、これどうしよう……」


 シリアは例のケースを持っていた。そう、プレゼント用に買った指輪だったが、これをルナに渡すタイミングがわからなかったのである。


「今日寝る前に渡す?うーん、でもちゃんと時間を作って渡した方がいいかな」


 流石に馬車の中で『はいどうぞ』と軽く渡すのは違う様な気がしたため保留にしていたが、その後にもどうにもタイミングを掴めずにいた。


 渡してしまえばそれでいいとは思うのだが、やはり経験不足が仇となっているのかその決断が出来ない。


「困った」


 ポツリと自分に言うように呟いた瞬間、自室とテラスを分ける扉が開く音がした。


「おや、こちらにいらっしゃいましたか」


「ユーベルさん?」


 てっきりルナが戻ってきたのかと思っていたシリアは少し呆気に取られた。


「水差しを持ってきたのですが、どなたも部屋にいらっしゃらなかったのでこちらかと思いまして」


「ああ、ありがとう」


「何か悩み事ですか?」


 ユーベルは鋭い。シリアの雰囲気から何かを察したのだろう。彼女の観察眼の確かさにはシリアも短い付き合いだが実感がある。


「……実は」


 そして、彼女はシリアにとっていつの間にか頼りになる人物となっていた。元が年上でもあるし、何より面倒見が良い性格なのか何かと相談に乗ってくれるのだ。


 今回も彼女は親身にシリアの悩みを聞いてくれた。考えがまとまらなかったシリアにとってはありがたいことこの上ない。


「なるほど、だからあのお店に」


「え?」


「ああ、いえ。こちらの話です。それよりも渡す時期を考えているんですよね」


 シリアはそれに頷いて答えた。それに対してユーベルは少し考え込んで答える。


「プレゼントというものはそれにどういった意味を込めているかでタイミングを考える必要があると思われます」


「意味?」


「そうです。特に理由もなくプレゼントしたいならすぐにでも渡していいでしょうし、逆に何か意味が込めてあるならそれに見合った時期に渡すべきだと、私はそう思います」


「なるほど……」


「詳しくは聞きませんが、渡そうとしているそれは何か理由があるのでしょう?そうでなければそんなに悩むとは思えませんし」


「……うん」


「であれば、時期は選ぶべきだと思いますね。何かそういった予定はありますか」


「なくは、ないと思う」


 頭の中に一ヶ月の期限の話を思い浮かべながらシリアは答えた。ユーベルはそれを聞いて「それならもう大丈夫ですね」と言葉を置いた。実はシリアの中でも渡すならその時がいいのではないかと思っていた。


 しかし、それには一つ問題がある。


(これをその時渡すっていうことはさ)


 一ヶ月の期限、という言葉の真意がシリアにはわかりかねていた。それは一ヶ月でこの関係が終わるのか、それともまだ続くのか。それを問うのか、どうなのか。


(ダメだ……考えれば考える程わからなくなる)


 そもそもシリア自身が自分の気持ちを整理できていなかった。確かにルナの事が気になっていることは事実であると言えるが、それが何なのかまだわからないのだ。


『シリアさんは、ルナのことは好きですか?』


 イリスの言葉が想起されるが、やはりまだそれに対する回答は得られそうにない。


(そもそも、ルナは私の事をどう思ってるんだろう……)


 悶々と悩んでいる様子のシリアを何故か微笑ましく見ていたユーベルはコホンと咳払いしてシリアの意識を自分に向けた。


「それでは、今日は少し仕事が残っているので失礼しますね。上手く渡せることを願ってますよ」


「あ、うん。ありがとう、参考になったよ」


 礼儀正しく頭を下げてユーベルは退室していった。兎にも角にもひとまずプレゼントを渡す時期は決まった。


(あとは自分次第か)


 最終的にどうなるか見当もつかず、シリアは所在なさげに月の浮かぶ夜空を眺めていた。

ブックマークや評価、感想などありがとうございます!

また誤字や脱字などは注意しているのですが、もしもお気づきになったらご指摘頂ければ幸いです。


次の投稿は8月の中旬ごろになると思われますが、よろしくお願いいたします!

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