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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
プロローグ:闘技場とお姫様
3/66

3.戦い終えて

「う、うぅ」


 次にシリアが目を覚ましたのは見慣れた天井だった。


「お、起きたか」


 その聞き慣れた声にガバッと起き上がり、そして眩暈に襲われた。


「く、あ」


「おうおうおう、落ち着けって。急に動くと危ないぞ」


 ぐらりとふらついて再び固いベッドに身体を落とす。何とか首だけを向けるとあの大足の男がベッドの横の椅子に腰かけていた。


「さて、まずはおめでとう、かい」


「……どうも」


 どうやらさっきまでの戦いは現実だったらしい。その証拠に剣を打ち付けられた腰の痛みが尋常ではない。


「まさか勝っちまうとは……正直驚いたぜ」


 半分引き分けのようなものだとシリアは思った。あそこが闘技場という環境で勝ち負けがあったからこうして勝利という名目があるが、戦場ではそういうわけにはいかない。


(上には上がいる)


 あの騎士には勝ったが次はわからない。最早隙を突くことは出来ないだろう。そうなれば体力的にも筋力的にも劣るシリアは……


(やめやめ、折角勝ったのに先に憂いを思ってどうするの)


 そう思い込んで無理矢理不安な気持ちを抑え込んだ。


「おかげで見ろよ、これ!」


 男はそういって布袋を取り出した。それはいかにも重そうで中からジャラジャラと金属が触れ合う音が響く。


「騎士に賭けたんだと思ってましたが」


「あー、嘘だよ嘘。俺は一度信じた物は信じ切る質なんでな」


「それは、まぁ、よかったですね」


 話を聞いていくと、気を失った私に身寄りがなくどうしようかと話をしている時にこの男が世話を焼いてくれたらしい。


「いかにも下心ありそうな連中が立候補しやがったんでな。俺とは面識があることを証言してもらってここまで運んできたわけよ」


 どうして泊っている宿屋がわかったのか、と聞こうとしたが闘技場に隣接してあるここを使うのは誰でも想像できることか、と聞かないことにした。


「貴方は、下心はないんですか」


 天井を向いたままシリアはそう呟く。正直今の状態で手を出されてもまともに抵抗は出来ない程疲労が溜まっている。


 しかし、男はその言葉を豪快に笑い飛ばした。


「俺は昔からボン、キュッ、ボンな姉ちゃんにしか興味がねえのよ!悪いが嬢ちゃんは強いがそこら辺はまだまだだなぁ」


 そう言われてシリアは怒る、気にはなれなかった。この男が本当に身を心配してここまで連れてきてくれてたのは事実であるし、救ってくれた相手でもある。


「その、ありがとうございました」


 シリアがそう言うと、男は金の入った袋をジャラジャラと鳴らした。それはお互い様だと言っている。


「さて、それじゃ目を覚ましたから俺は出て行くかね」


 そういって男は立ち上がる。そして出て行こうとしたがそこにシリアが声を掛けた。


「待ってください。あの闘技場の商品は……」


 快勝ではなく辛勝だったが、勝利は勝利だ。あの闘技大会の優勝賞品を得る権利はある。すると男は少し押し黙ると部屋の扉を向いたシリアに背を向けた状態で話す。


「それについては明日、恐らくここに話が来るはずだ」


「そ、そうですか」


 よかった、と一息つく。今まで参加した闘技大会で勝った時も見た目が見た目だからとふざけた態度で商品を渡そうとしない相手もいた。勿論その時は力を持って制したが、今回は大丈夫そうである。


「まぁ、色々あれだが、頑張れよ」


 男の言い方に僅かに戸惑いが混じっているのをシリアは感じた。


「はぁ、ありがとうございます……」


 だが、それはシリアのような少女が傭兵稼業を続けることへの心配だろうと思うことにした。思えばここに来てから結構関わった相手でもあるし、情も少しは移ったのだろう。


 男はじゃあな、と声を掛け部屋から出て行った。それを見送ったシリアは明日までもうひと眠りすることにした。さっきまで気を失っていたせいであまり眠くないが、外はもう暗い。今は無理やり休み、明日貰えるものをもらったら、しばらく休養を挟んでこの国を出る。


 そうスケジュールを立てているシリアの部屋の外で男は思案顔に耽っていた。


「まさかあの嬢ちゃんが勝ち取るとはな……いや、元からそういう約束だ。それに意外とうまくいくかもしれん……」


 男はそう呟いてフッと笑うと、そこから立ち去った。


 シリアはまだ何も知らなかった。てっきり賞金だと思っていた闘技大会の商品がそうではないことも。

 そして、それがきっかけで様々な争いに巻き込まれていくことも。


「…………」


 その先を知るのは空に輝いている星だけか。窓から眺めたその空は普段はそういった風景に感傷を持たないシリアから見ても、ひどく美しく綺麗だった。

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