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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第一章:いきなり妻と言われても!
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5.大きなベッドに二つの枕

 さて、ルナの父兄が会議のような何かを開いていたその時。彼女らは目的の部屋の前に着いていた。


「この部屋です!」


「こ、ここかぁ……」


 どや顔でその部屋への扉をルナは示していた。


 シリアが彼女に初めて会った時の印象は物静かで大人しいイメージであったが、思っていたよりは意外と感情的で表情豊かな少女だったなとそのイメージを改めながら、彼女の示した扉を見上げていた。


「その、この扉だけ見ても相当広いよね?この部屋」


「うーん、どうなんでしょう。普通の部屋だとは思いますが」


 扉は無駄に装飾され厚みも重みもありそうだ。まさかこれで普通の部屋だったら竜頭蛇尾にもほどがある。ただ、ここが王城であることを考えるとそういうことはあり得なさそうだ。


「さ、どうぞ。開けてください」


「う、うん」


 ルナに促され扉の取っ手に手を掛ける。その取っ手すら何やら装飾されていたがもう突っ込むことは止めにしていた。キリがない。そして扉の先の光景が広がる。


「うわぁ……」


 見た目通りの重い扉を押して部屋に入ったシリアは、感嘆の声を自然と出していた。


「どうですか?気に入ってくれればいいのですが」


「これが気に入らない人はいないと思うな……」


 豪華絢爛という言葉を部屋に置き換えればこうなるのだろうか。間違いなく広すぎる部屋の大きさ。天上に輝くシャンデリア。数々の立派すぎる家具。当然、テラス付き。


「あのさ、ルナの部屋もこんな感じなの?」


「……?えっと、そうですね。でもここよりも少し狭いでしょうか。一人部屋だったので」


「そうなんだ、良かったこれが常識じゃないんだ」


 シリアにとってこの部屋は一人で過ごすにはあまりにも大きすぎた。質素以下の生活を続けてきた彼女にとっては逆に落ち着かないのだ。


(たぶん、何かしらの理由があってこんな豪華な部屋を用意してくれたんだと思うけど、ちょっとこれはきつい……)


 一人用にしては大きい豪華なテーブルや、あきらかに持て余しそうな大きなソファー。流石に化粧台は一人用の大きさであったが、生憎悲しいことに今までお洒落のおの字もしたことがないシリアにとっては無用の長物になってしまうだろう。


(折角準備してもらった以上申し訳ないけど、頼んで普通の部屋にしてもらおうかな)


 まさか断られることはないだろう。こんなところに一人で住んでは贅沢に身を滅ぼしそうなのである。


「部屋のカーテン、開けますね」


「あ、うん」


 ルナはそう言うとテラスの方まで歩き、窓に掛かっていた薄い色相のカーテンを開けていた。そこから光が入ると部屋全体に日が入り益々部屋の神々しさに磨きがかかるようだった。。


(まあ一生に一度くらいならこんな部屋に泊まってみてもいいかもしれないけどさ)


 シリアはそう思って好きなだけ寝返りが打てそうなベッドに手をついてみた。


「あぁ、柔らかい……」


 間違いなく最高ランクの寝床だと確信する。今までは汚れた床に雑魚寝上等、硬いベッドが有難い、という生活を送ってきた彼女にはそのベッドは眩しすぎた。


「……ふわぁ」


 少しぐらい堪能する分にはいいだろう。そう思ってシリアは感触だけでも覚えておこうと、はしたないながらも床に座り上半身だけをベッドに乗せてみた。すると表現の出来ない幸福感が身体中に浸透していく。このまま眠れそうな勢いだ。


「気に入って頂けたようで嬉しいです」


「え、わぅっ」


 物の数秒で微睡みの中へ引きずり込まれそうになったシリアをルナの声が呼び戻した。シリアは慌てて立ち上がると恥ずかしそうに髪を掻く。


「その、こんな上等なベッドは初めてで……」


「これからこのベッドで寝るんですから、そんなに遠慮しなくてもいいんですよ?」


 ルナはそう言って笑いかける。その笑顔を見ると部屋を変えて欲しいと言うのが凄く申し訳なく感じてしまう。


(でも、落ち着かないのは事実だしそこは言わない、と……?)


 と、そこまで思ってシリアの思考が凍り付いた。


(…………え?)


「あの、どうしました?」


 彼女の視線はベッドの上の方で固定されていた。それに不思議に思ったのかルナは首を傾げながら聞いてくる。


「えっと、あの」


「はい?」


「その……」


「?」


「枕、枕が……」


「枕ですか?もしかして何か不満がありました?大きさとか柔らかさなら変えるよう頼みますよ」


「いや、あの数が」


「数、ですか?」


 途端に慌てだして口調がおかしくなったシリアの視線の先には確かに大きな枕が二つ。ベッドの上部に仲良く並べられていた。


「二つ、二つあるよ?」


「そ、そうですね。二つありますけど……?」


「な、なんで?」


 シリアのその純粋な問いに、ルナもまた素直に答えるのであった。


「二人で寝るんですから、二つあるのは普通じゃないですか?」


「……え?」


「え?」


「ええええええええええええっ!」


 流石に叫んだシリアであった。




*****




「ちょ、ちょっと待って!ちょっと待って!?」


「は、はぁ……?」


 流石にそれはおかしいでしょ!?とシリアは何度も心の中で突っ込んでいた。


 そういえばルナの部屋の事を尋ねた時に、少しだけ妙な反応をしていた。その理由も今となれば理解できる。


 確かに夫婦同士なら寝床を共にするのは理解できるし、仲睦まじいのであればそうすべきだろうとも納得は出来る。


(だけど、今日会ったばかりだよ!?)


 シリアとルナはまさに今日、突然婚姻を結んだ。そこには所謂恋愛だとか、恋人だとか、必要であろう過程を色々と吹き飛ばして到達してしまっている状況だ。その段階でかなり展開としては急だというのにさらにいきなり夜を共にするというのは、最早常識がおかしくなっている。


「ルナは、ルナはいいの!?」


「いいっていうのは、何の事でしょうか?」


 ルナはからかっている様子はない。間違いなく本心からそう尋ねているのだ。


「いや、私なんかとその、一緒に……寝るってこと」


 後半少しだけ羞恥から声が抑え気味になったが、ルナはそれにも平然と答えた。


「え、だって私達夫婦ですよ?同じベッドなのは普通じゃないですか」


「いや、そう、そうかもしれないけどっ」


 ここに来てやっとこの部屋が広い理由をシリアは知る。ここは二人用だったのだ、と。シリアとルナ専用の部屋だったのだ。


「シリアは私と一緒が嫌なのですか……?」


「え?」


 そんなこんなで頭を悶々とさせ混乱していたシリアに不安げな声が掛かった。その声の主は悲し気に俯いている。


「いえ、シリアの言い分もわかります。今日初めて会った者同士が突然一緒に寝るなどおかしいと思うのは当然だと思います」


「いや、その」


 しどろもどろになったシリアにルナは詰め寄ると、そのまま手を取り自分の胸にあてるように持ち上げた。彼女の瞳は少し揺れていたが、その先に何か決意めいたものをシリアは自然と感じ、少しだけ気圧される。


「シリアを私の我儘に付き合わせていることはわかっています。それに貴女が今までの流れを不信に思っていることも……ですが、一ヶ月だけでいいですから、どうかその間だけ、その間だけ私の事を信じて頂けませんか……?」


「…………」


 シリアは呆気に取られながら瞳を潤わせているルナを見つめていた。やはり、何か彼女の奥底には何かがある、と直感が告げている。それは彼女自身のことなのか、彼女の立場から来るものなのか、そこまではわからない。


「ごめんね、ルナ」


「……ひゃ」


 シリアは彼女の手を自分の方に少しだけ強引に引き寄せる。それに少し驚いたルナと目を合わせると、彼女の瞳の力は一瞬だけ弱く揺れたが、それでもすぐに真っすぐにシリアを見つめ返してきた。その目を見ながらシリアは思った。


 そうだ、たった一ヶ月なのだ。


 その間は出来ない贅沢をしようなどとさっきまで欲に任せた思考に染まっていたではないか。それだというのに様々な状況に揺られあっさりと優柔不断になっているようでは情けない。


 その気持ちに追加して、今近くにいるルナに一ヶ月の間尽くしても罰は当たらないだろうとも思っていた。シリアがその立場を利用して贅沢をしたいと思うように、ルナもまた利用すればいい。


 シリアは気持ちを固めた。


(一ヶ月、やってみせようじゃない!)


「私は今まで一般的な人間の生活とはかけ離れた生活をしてきたんだけどさ。衣食住が長期間安定したことは一度もないし、生きていくために卑怯なことをしたこともたくさんある。だから、これからたくさん迷惑を掛けると思う」


「……はい」


「それでも、ルナはいいの?」


「それでも、いいです」


 ルナはその問いに、迷わず、しかしゆっくりと頷いた。


「じゃあさ、その、さっきも言ったと思うけど……これからよろしく。その……夫婦として」


 少しだけ恥じらいが混じってしまったが、確かにシリアがそれを伝えるとルナはパッと明るくなった。


「はいっ、こちらこそ、貴女の妻として恥ずかしくないよう努めますのでよろしくお願いします!」


 瞳を揺らしながらも笑う彼女は、シリアから見てもゾッとするほど綺麗だった。






「ところで、改めて夫婦になったけどさ」


「はい?」


「やっぱりベッドは一緒なんだ?」


「そうですよっ、夫婦なんですから!」


「あぁ……はい」

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