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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
プロローグ:闘技場とお姫様
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1.闘技の一幕

 シリアは剣士だ。それも所属する国を持たない傭兵として各地を転々とする安定した生活を送れない者であった。


「ッ!」


 踏ん張った状態から身体を捻り、自身の身体よりも大きな剣を横薙ぎに振るう。


「ぐあっ!!」


 目の前にいた男はそれをかわせないと判断し、持っていた剣を盾にしたがとても防ぎきれたものではなく、そのまま吹き飛ばされ壁に叩きつけられると動かなくなった。


「勝者、シリア選手!」


 審判がそう宣言すると会場がワッと盛り上がった。その煩さが鬱陶しいのかシリアはそのまま不愛想に闘技場を後にした。




「よう、嬢ちゃん。ついに決勝か」


「そうみたいですね」


 闘技場の中にある食堂でパンとスープの簡単な食事を済ませていると大柄な男が話しかけてきた。時間は夜遅く、食堂で働く者達とシリアとその男だけしか姿はなかった。


 この名前も知らない男はここに来た時から何かとシリアに絡んできた者である。てっきり闘技大会にでるシリア目当てのしつこい奴かと思ったが何かと情報をくれたりつまらない世間話で暇を潰してくれたりと中々に食えない奴であった。


「それにしてもなぁ、何でまたこの闘技大会に出たんだよって何度目の質問だ?」


「憶えている限りで5回以上。何度も言うけど私はお金が欲しいんです。少しでも安定させないと」


「お金ねぇ。確かに優勝すればたくさん手に入るとは思うが……嬢ちゃんも正直者だな」


「……?そういうものじゃないんですか」


「そうだな、そうかもしれん」


 男は何か渋い顔をしていたが、シリアには関係ない。彼は闘技大会には出ておらずどうやらこの闘技場の管理の仕事をしているらしかった。初めての色々と不便していた彼女に助言してくれたおかげで良い環境を作ることもできたので、感謝するところもある。


「しかし、いくら強い嬢ちゃんとはいえ次の相手はどうかな?」


「また教えてくれるんですか?」


 この男、何かと対戦相手の情報を事前に教えてくれる。例えば隠しナイフを持っているだとか、実は魔法を使えるだとか、そういった情報は正直に言って買えない価値がある。そのおかげで対戦相手の切り札と思われる物に対して落ち着いて対処できたのだから。


 そして決勝を控えた今日も、やはり教えてくれるらしい。


「相手はこの国の騎士の一人だ。しかも実力は相当上。卑怯な事は一切しないただ純粋に強いんだよ」


「…………」


 シリアは眉を顰める。今まで傭兵として国を転々としながら戦ってきた彼女は何度も卑怯な手を使われてきた。痺れ薬は当たり前、人質、寝込み、罠、裏切り、思い出せるものだけでも相当だ。だが、何より厄介なのは実力勝負の相手だ。


 卑怯な相手には卑怯な相手なりにやり方がある。目には目を歯には歯を、の精神だ。しかし、真剣勝負を望む相手にはやはり真っ向から立ち向かうしかない。そういった意味でのぶつかり合いはシリアも自信はあるが、絶対的に勝てるとは思っていない。


 上には上がいる。シリアはそのことは身をもって知っているつもりだ。


「まあ決勝らしく盛り上がるだろう。俺もこの賭けで一儲けさせてもらうぜ」


「……賭けてたんですか?」


 男は勿論!と誇らしげにいう。


「ただでさえ、男しか参加者がいない中に嬢ちゃんのようなちっこい……すまん、まあ小柄な少女が参加するとなれば色々盛り上がるのよ」


 ちっこい、という言葉を聞いた瞬間殺気が溢れ出たのを察して男はすぐに言い換えた。正直小柄、という表現もどうかとは思うが。


 しかし、シリアは否定することができない。身長は150センチ程度で荒れた黒髪を邪魔にならないようにとショートに切っているためより一層子供っぽく、多少身体は鍛えられているが、悪く言えば貧相だ。栄養が足りていない。そこに大剣を背負っているため、益々小さく見える。


「他の連中は嬢ちゃんに勝ち目がないと男の方に賭ける。だが俺は一目で嬢ちゃんの強さを見抜いているから嬢ちゃんに賭けているわけよ。おかげで潤って潤って」


 そう聞いて、シリアは少しだけ警戒する。基本的に強者を見極める力を持つ者は同じく強者であることが多い。人との付き合いが鏡合わせであるように、強ければ強いほど、そういった見極める力が高い。


 男はそれも察したのかおどけたように手を振って場を和ませる。


「俺も昔は傭兵だったのよ。それが何故かこの国に定住してしまってな。だから強い者を見ると昔を思い出して疼くってわけよ」


「なるほど……そうでしたか」


 そういってシリアは空になった容器が載っているお盆を持ち立ち上がる。


「もうお休みかい」


「出来るだけ万全で挑みたいので」


 男は納得したように頷いた。そして食堂で働いている者に手を振って合図をする。どうやら彼はこれから食事らしい。


 シリアは簡素なレジに行くと係が飛んできた。


「銀貨三枚です」


 シリアはそれを聞いて、後ろで座っている例の男を目で示した。


「あの人が一緒に払ってくれるらしいので、それでお願いします」


 そう言うと男は少し驚いたように顔を向ける。


「……おーい、嬢ちゃん。変な言葉が聞こえたんだが」


 勿論、聞こえるように言ったのだ。


「私で一儲けしたんですから、これぐらい奢ってください」


 無表情にそう言う。男はてっきり怒るかと思った。が


「くっ、くくっ……ふはははは!なるほど、道理だ!わかったよ、ここは俺が払ってやらぁ!」


「ありがとうございます」


 一応、礼儀として頭を下げる。男は手を振って答えた。もう行けということも暗示にしている。


 レジの係もそれでよかったらしく、厨房に消えたのでシリアは食堂を出るために入り口まで歩いていく。そしてその入り口でピタッと足を止める。


「そういえば聞いておきたいんですけど」


「んあ?」


 食堂はそこそこ広いが誰もいないようなもので声は響く。そう聞いたシリアに男は怪訝な顔をしていた。


「明日はどっちに賭けるつもりなんですか」


「そりゃ決まってる」


 男は少しだけわざと間を置いた。


「国の騎士様よ!がははは!」


「……ふふ」


 つくづく食えない男だとシリアは少しだけ笑うと食堂を後にした。正直に言えば一番戦いたくないタイプかもしれないと思いながら。

見切り発車気味ですが、出来るだけ早く更新していこうと思います。

完結まで頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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