44話 シリアスなんて無かったんや…
「取り敢えず、壱ノ太刀」
「んなっ!?ぐおあぁぁぁっ!?」
レヴナントは絶雪の一撃を食らい、普通に吹き飛ぶ。ちょ、弱くない?
「かふっ…成程、大口を叩くだけの事はあるな人間…」
しかしまあ、当然の如くワンパンとはいかなかった。壱ノ太刀はただの斬撃に見えて実は俺の攻撃手段の中ではトップクラスの単発攻撃力を持っている。因みに、総攻撃力なら弐ノ太刀だ。
「だがまあ、その刀はあえて封印しよう」
そう言って俺は絶雪を鞘に収めた。性能チェックも兼ねてるんだから、そんな簡単に殺せるわけないじゃない。
「…舐めているのか?」
「うんそうだよ?」
怒りっぽい敵は煽る。とにかく煽る。因みに自分が煽られると寝る。
「取り敢えず…サタテン!」
自分で名付けといて、後から『ダサっ!?』ってなった結果、略称で呼ばれるようになった触手『サタテン』が2本、一直線にレヴナントへ向かう。
因みに、誰もがイメージする肉質的な触手ではなく植物的な触手である。赤い。
「な、なんだそれは!?」
レヴナントは一瞬怯み、その隙にサタテンが絡みつく。今更だけど、サタテンもダサいな。
まあそんなのはいい、取り敢えず戦いに集中だ。
「絶雪牙!!」
音が聞こえるよりも早く突き出された妖刀、絶雪が金竜レヴナントの喉に突き刺さった。
「ぐお…ぁ……」
そしてあっさりと地に伏した。
「え、待って、弱すぎワロタ」
「違います、ご主人様が強すぎるだけです。多分」
自信なさげにミーナが言った。
「にしても手応えなかったぞ?どっちかと言うとスタリアの竜の方が…」
と言った時だ。
ビクン!!と、レヴナントの身体が跳ねた。
「あ、第二形態とか持ってるパターン?」
レヴナントの傷口がぐちゃぐちゃと音を立てながら開き、そこから肉の塊が何本も飛び出す。
「う…」
ミーナがその光景に吐きそうな顔をして…ってちょっと待て、マーサを拷問した時はあんな愉しそうだったじゃない?…まあ、本来のミーナはグロ苦手なのだろう。内臓とか。
その飛び出した肉だが、いつの間にか一つに固まり、何かの形を形成しようとしていた。
「何だ?ドラゴンゾンビにでもなんのか?」
「残念だったな」
「キェェェェェシャァベッタァァァァァァァ!!!」
俺は大分オーバーリアクションで後ろに飛び退いた。その際完全に真顔だったので、エーデラとクーはこの空気の中吹き出してしまう。
「んで、何よお前」
俺は肉塊…から進化して人型になった肉に問いかける。
「私は悪魔族のデモンロード、アリエルと言う者だ、よろしく」
そう言って悪魔は丁寧にお辞儀をした。因みに、シルエット的にどう考えても男である。
「そんで、なんでここに?」
「実は私は先程の竜の肉体に封印されていてな、内側からじわじわと嬲っていたのだが全く死ぬ気配が無い。そこをお前が態々例の竜を殺してくれたという訳だ」
「ん?じゃあ何でレヴナントはリオンママに呪いをかけたりしたんだ?」
「それは私だ、竜の身体を一時的に使い、獣人の里を滅ぼそうと思っていたのだよ。どこかの誰かが解呪してしまったらしいがな」
「うん、大体わかったよ、ありがと」
俺は満面の笑みで絶雪を振った。
「飛燕斬!!」
「ふっ、その程度効くわけがないだろう」
しかし、悪魔アリエル(どう見ても男)には全くダメージが通らない。
「ふーん…少なくともこのぐらいの力はあるのか…」
「逆にお前はこの程度か?拍子抜けだな」
アリエルがなんか言ってるが俺は気にせず戦力分析をする。
今の防御力から考えてステータスは最低でもクークラス、試すには絶好の機会だな。
「んじゃ、本気出すよー」
「…ほう、やってみろ」
アリエルは手をクイックイッとこまねいて見せた。そこまで言われちゃあしょうがないなぁ…
「Evolve」
俺はそう呟いた。因みに俺が発動したスキルは『社畜Evolve』、名前がダサいので『Evolve』と言ったら普通に発動した。
その効果だが…調べた限り、社畜のジョブ効果を一定時間全て、例えばスキルに強化状態で発動する。
つまり、全ての能力を超強化するのだ。
「ってちょい待って」
そんな説明を脳内でしている間に、俺の身体に劇的な変化が起きていた。
絶雪がなんというか、妖気っぽい何かを纏って、刀身が紫がかった白になる。何よりも変化したのは背中、おそらく魔改造スキルが超強化された事により背中のサタテンが数十本ドバーっと飛び出した。しかも一本一本感覚があるから何本あるか分かる。因みに、32本だ。
そして頭が痛い。本当に洒落にならないくらい痛いが、そもそも俺にとって頭への鈍痛は日常茶飯事であり、最早マッサージ程度の意味しか成していない。
「ははは…ちょっと化け物じみてきた…かな?」
見た訳では無いが、背後では嫁達が腰を抜かしている。まあ、リアルでこんなのされたら誰でもそうなるよな。
「取り敢えず時間制限あるし…どーん」
俺が左手を前に突き出すのに合わせて、大量の触手がアリエルに襲いかかる。因みに、鈍足とか脆弱(防御力低下)とか、結構属性付与してある。
「ッ!!なんだこれは!!」
一瞬たじろいだ隙に触手はアリエルに巻きついて磔にした。
「ぐっ、油断…した…ごはぁっ!!」
「うぇーい」
俺は触手を巧みに操り、磔状態のアリエルに30本の触手で波状攻撃を食らわせた。やべえ、絶雪使ってねぇ…
「んじゃ、そろそろフィニッシュな」
「まっ、待て!頼m」
「待ちませーん、壱の影!!」
絶雪が黒い靄に包まれ、俺はそれで左上から右下に袈裟斬りする。
しかしながら、その一撃はアリエルの目の前の空を切り、かすりもしなかった。
「ん?おっかしいなー?」
「…」
アリエルは呆れ顔だった。しかし、数秒後にその表情は驚愕へと変貌した。
「なん…だ……これ………は…」
「あ、そーいう?」
俺が袈裟斬りした通りに、アリエルは切れている。しかも結構深く。
おそらく、壱の影等、影の太刀は当たり判定を伸ばしてくれる効果があるのだろう。しかもその伸びた分の判定は見えない、と。
「うん、Evolveは結構使えるっぽいな」
俺は社畜Evolveを解除した。
「よし、帰るぞ」
俺はぽかんとしている嫁達を呼んで、帰路についた。
「終わりか?」
俺とクーはバッと振り返る。その時には俺の腹から腕が突き出ていた。
「生きてんのかよ…」
「お前の負けだ」
ズボッと腕が引き抜かれる。俺はゆっくりと地面に倒れ込んだ。うわぁいってえ…ちょっと正直洒落になんない…
「ご主人様!!」
「「ミキ!!」」
嫁達が駆け寄ってくる。うわぁ…死にたくないなぁ…ってか、アイツなんであんなステータス高いの?隠してたの?馬鹿なの?阿呆なの?死ぬの?
「次はお前達の番だ…」
アリエルの腕が一番近いミーナに向かって突き出された。




