37話 どっちかっつーと魔王
久しぶりに公園で運動したらその日から三日間全身の痛みに悶え苦しむことになり、投稿が遅れました(言い訳)
宙に舞った大理石の破片がパラパラと降り注ぎ、俺はバタッと倒れる。そして呟いた。
「ホットドッグも食べられないこの異世界で、社畜してたらハーレムフラグが建つ件について」
「美輝、俺から言える事はただ一つだ。地獄に堕ちろ」
颯太は親指を立てて、ビッと下に向けた。贅沢な悩みだと理解しつつ、人間は悩み、そしてよりよい未来を掴み取ろうと思ってしまうと痛感した。
「君なら…いやでもそんな…」
何故か乙女モードに入ってしまったクーを加えて、事態はさらに加速していく。
「ご主人様、私は気にしませんよ」
「魔王もミキに籠絡された?」
「美輝、お前は静かに命を落とせ」
「君がいいんなら僕は別に…ううん、是非そうして!!」
「ぬわぁぁぁぁ!!お前ら黙れ!!黙ってくれ!!脳が弾け飛びそうだ!!頼むから俺の発狂を促進させないでくれ!!」
俺は頭を抱えて蹲る。どうしてこうなった?俺は大下美輝、前世は16歳の不登校、激しくモテない可哀想なオタクだったはずだ。
現実を見よう。今、妻が三人に増えようとしている。成程、落ち着いてみればそこまで大した事でもないな、うん…落ち着…
「落ち着けるかァ!!」
「お、おいお前らの夫だろなんとかしろよ」
「無理です、ご主人様は壊れ方に定評があります」
「ミキ、何かから逃れようと苦しんでるようにも見える」
「え、ちょ、大丈夫なの?あれ」
俺は地面に何度も何度も頭を打ち付け、しばらくして立ち上がった。
「よし落ち着いた」
「「「「血がすごい!!」」」」
4人から同時に聞こえた。まあ大丈夫だろ、事実HPの方は…
「やべ、HP18しかないわ」
そう言って俺は倒れたのだった。
ふと気がつくと、ぷにぷにだった。なんとなーく、ぼんやりと感触だけが伝わってくる。体全体がぷにぷにしている。あー心がぷにぷにするんじゃぁ〜…
「そしてお前ら、言いたいことはあるか?」
「「ごめんなさい」」
「…ミキは優しいからどうせ許してくれる…」
「反省が足りないアルラウネ以外はもういいぞ」
「鬼ー!悪魔ー!」
簡潔に言おう、夢の中で俺が感じた感触は全てこいつらだった事が発覚した。
何だろう、叱っといてなんだが人生の目的の半分ぐらいがどうでもよくなった気がする。
だってさ、ここに3人の妻がおるじゃろ?手元に馬鹿みたいに金があるじゃろ?何だかんだ言って人間物欲も性欲もあるんだからさ、これが揃ってるともういいやってなりそう。
…駄目だ、思考が退廃的過ぎる…落ち着け俺、使命を思い出すんだ…そう、魔王と勇者が世界を滅ぼすのを俺は止めねばならない!!
…それって俺の仕事?
…いかんいかん、これじゃデカダンスとかいうアレに一直線だ。異世界に呼ばれてこれだけいい思いをしたんだ、神もいることだし、使命放棄とか天罰が下りかねない…真面目にやれ、真摯に生きるんだ俺。
「ミキー?どーした?」
エーデラが顔を覗き込んでくる。行動力があって優柔不断という、とんでもない組み合わせのミキさんが流されて娶ったアルラウネである。
「悪い、何というか、退廃的思考に陥ってた」
「ふーん」
あ、こいつ絶対理解してない。
とにかく、さっきの夢(?)の事は忘れて、とっとと次の行動を考えた方が良さそうだ。俺はどうも消極的解に向かう傾向があるからな、考える前に動こう。
「取り敢えず、次は距離的にテレミニンが適切かな」
「私はミキについてく」
「んー、まあありがと」
「私も、それでいいと思います」
ミーナとエーデラも俺に同意する。
「よし、じゃあ次の目的地はテレミニンだな!!」
「ちょっと待て、俺の意見は無視か?」
颯太がすかさず突っ込む。
「お前どうせ『知らんな』とか言うだろ」
「何故わかった!?」
驚いたようなふざけたような顔をする颯太を他所に、俺は手荷物を纏める。そして恒例のスキル確認である。
…そして俺は、社畜Evolveをなんやかんやで一度も使っていないことに気がついた。
「あー…なんだろう、そろそろ真面目に魔王対策を始めた方がいいかもな…」
俺はぼそりと呟き、苦笑いした。取り敢えず俺はポリシーの通りノリと勢いに任せ、武器と俺自身の能力を底上げすることに決めた。
自身の能力に関してはスキルを取ればいいが、武器に関しては…
「やっぱり、ロマンを求めるか」
俺の呟きに颯太が戦慄する。
「おいお前まさか…」
「最も、王道のロマンなんて俺は願い下げだけどな…もっとこう、神々しさとか醜怪さとか溢れる、魔王的な装備がいいな…となると、必然的に生物兵器?」
「ご主人様…?」
「ミキ、顔が既に魔王」
「美輝…俺は…知ってた。」
周りの事などお構い無しに、俺はスキルツリーを開き、SPを大量消費してスキル『魔改造』を習得した。
「取り敢えず…これでいいか」
と、俺は外に飛び出て適当な雑草を引き抜き、そして部屋に戻る。
「お前ら、ここに雑草があるじゃろ?」
「「「「うん」」」」
「それを…こうじゃ!!」
俺がネタに走った割には雑草は割とガチでグロテスクに進化し、臓器の様な色をした触手軍になった。
「お前…ここで下ネt」
「何言ってんのお前?」
俺は路上でバイクに轢かれてピクピクと痙攣している虫を見るような視線で颯太を射抜いた。
「魔王っぽいだろ?」
「ご主人様は勇者のはずじゃなかったんですか?」
「まあ、確かにミキは勇者より魔王っぽい」
「厨二病乙」
「ふぇっ!?魔王!?それって僕と…」
四者四様の反応に対して、俺は満足気で、困った様で、それでいて憤怒の表情を浮かべる。後半二人は後で問い詰めねばな。
とにかく、この植物を俺に寄生させて、武器として使う事を俺は決定した。
その理由は言わずもがな、敵対者に向けて、背から生えてきた大量の触手がザァっと襲いかかるあのシチュエーションに憧れただけである。まあ実戦配備する以上は性能については妥協しないし、絶雪も続けて使い続けるつもりだけど。
「所で、植物と一体化して魔王になって…美輝、次はお前竜が混ざったりするのか?」
「嫁に影響されまくる俺氏…」
「「「「クー(僕)がいつの間にか嫁として受け入れられている件」」」」
「……あっ」
無意識的発言だったため1拍子空いて、つい俺が零した言葉に笑いが起きた。




