23話 どう足掻いても社畜は社畜
そろそろ真面目にふざけます。
「仕方ないですね、ご主人様は社畜ですし」
「ごめんなさい、社畜で本当にごめんなさい」
俺はミーナに土下座していた。どれもこれもあの皐月のせいだ!!あの野郎には返さねばならない仮が幾つもある。しかもアイツ、王の権限で強引にボランティアで魔王退治押しつけやがった。魔王倒したら一週間の間毎食現れて暴食の魔法かけて、胃袋の容量オーバーするまで食わせてから魔法解除してやる。因みに、暴食魔法は金魚のように満腹中枢を麻痺させる恐怖の魔法だ。術者が加減しないと食べ過ぎで腹が破裂して死んでしまう。
それを途中までとはいえ毎食かけてやるのだ、俺の怒りもあいつはよく理解するだろう。
「つーか魔王退治と並行して仕事しないといけないよな…それって結局社畜と同じ…やっぱ殺すか」
俺は魔王…いや、国王を暗殺する決意をした。
「…なるほど、大村か…あいつならやりかねん…」
大輝は渋い顔をする。結構前から大輝と皐月の仲は険悪だ、皐月は大輝の事を顎顎言ってからかっているが、大輝は本気で嫌なようで、皐月はそれに気付かない。そういう恐ろしい悪循環によって大輝のフラストレーションはMAXを振り切っている。
大輝はそんなにしゃくれてないし、何より皐月の顔の平たさの方が問題ありだと思うが。因みに、大輝はトップクラスのイケメンである。
「そんでアイツにタダ働きを強制されたのか…災難だな」
うん、前世からの友達で俺の理解者は大輝しかいないな。
「という訳で俺はいいとして問題はミーナだ、下手に結婚なぞしたせいで魔王退治に連れて行かなきゃ行けなくなった。」
「…なんだ自慢か?」
「悪かったよ、反省している」
「絶対嘘だろ…」
「まあそれは置いといて、身代わり人形とか竜の法衣とか、防具をくれ」
「わかった、適当に見繕うわ」
大輝は店の奥へと消えていった。
「ご主人様、いいんですか?」
「寡夫とか、嫌だからな」
俺はミーナを撫でた。そしてそのタイミングで大輝が戻ってくる。
「…死ね」
「ストレートに来たね!?」
「…はいこれ、輝星の聖衣」
「おう、強いのか?」
「当たり前だろ?」
大輝はドヤ顔をする。今ドヤ顔する時か?
「分かった、幾らだ?」
「あ〜大金貨12枚だな」
「よし、買った」
俺はポケットから小銭(大金貨)を12枚取り出して大輝の手の上にチャリチャリと載せる。
「123…よし、12枚あるな」
「おう、ありがとな。ミーナ、これ持ってろ」
「はい、ご主人様」
妻にご主人様と呼ばれる系冒険者、大下美輝です。…思ったんだけどさ…どんなだよ!!
俺達は他にも色々と雑貨を買い、さりげなく置いてあった漆黒のマントという厨二心をくすぐるS級のレアアイテムを買って羽織った。あー…やっぱ落ち着く…前世で家に残してきたお気に入りの黒い上着が無いの、ちょっと気になってたんだよな…
因みに大輝には、「絶対それ買うと思ってた」って言われた。
さて、俺とミーナの防具も揃い、旅に出る準備が整ってしまった。皐月に俺の不在中の豪邸の管理を頼みに行こう。
「皐月〜?」
「おう、魔王退治の準備どう?」
「おかげさまで。でさ、俺達の留守中の俺んちの管理を頼みたいんだけどさ…」
「え、やだめんど」
「そーかそーか引き受けてくれるか!!流石王様だ懐深い」
と半ば強引に押し切った。俺らをタダで魔王退治に向かわせるんだ、このぐらい喜んでしろよ。と、これで旅に出る上での問題はもう無くなったかなと思った所でアイツが再び王城に現れる。
「そぉりゃぁぁぁ!!」
バッタァァァン!!謁見室の扉がこちらに向かって倒れてくる。そしてその向こうから、真っ白なヴォルーシャを纏った颯太が現れた。
「…弁償しろよ?」
「え?俺金ないよ?」
今度は皐月はこっちを見る。…って
「ふざけんな!?俺魔王退治ボランティアでやらされて城の修理代まで出さされるって何!?ねえこれなんて難易度!?社畜だからって扱いひどくね!?」
「そこは…まぁ…」
「美輝だから…」
「フォルルルァァァ!!テメェら二人ともそこに土下座しろォォォォ!!」
「ご主人様…大変ですね…」
ミーナからも同情された。ああホントに大変だ、コイツらが揃うと話が進まない。
「んで美輝、俺も魔王退治ついてくぞ」
「はい?」
んーと、颯太は何を言ってるんだ?誰が何について行くって?俺、旅先でどんな苦痛を…ちょっと待て、アイツがいるって事は俺魔王を倒すまで生殺しにならね?おそらく宿屋でも隣の部屋をあてがわれるし…わざと部屋を離そうとすればそれはそれで怪しまれる…どうしても颯太の隣の部屋…
「そこだけは解せない、頼むからついてくるな」
「ファッ!?戦力外通告かよ!?」
「まあまあ、連れてってやれよ」
「皐月!!お前は黙ってろ!!」
「(´・ω・`)」
脊髄反射で皐月をぶん殴る。君主の戦闘技術で颯太にも綺麗にかかと落としを決め、この件は終結した。結局ついてくるらしい。はぁ。
俺は今日は家に帰り、これからできない分を存分に楽しんだ。ご馳走様でした。
「…これでいいんだよな?」
皐月は夜の自室で独り呟いた。その言葉に応じて、月明かりの陰から何処からともなく女が現れる。
「…マレーズさんか…」
「ええ。安心しなさい、ルナ様は貴方の行動に十分満足しておられます。」
「そうか…はぁ。あの女神様、何と言うか俺達の扱いが酷すぎる気がするんだよなぁ…」
皐月は頭を垂れる。
「それも全てルナ様の目的の為よ、私達に推し量ることは出来ないけれど、ルナ様は世間一般で言われる様に悪い目的の為に動く女神じゃないわ。」
「おう、そうだと思うけどな」
皐月は窓の前まで歩いていき、外を見て呟く。
「悪いな、美輝」




