1話 オタクの夢、いや認めない。
眠い。最近それしか言ってない。
「いえ、最高ですごちそうさまでした。」
俺は反射的にそう答えてしまった。いやだってこんな可愛い美少女に突然キ、キキ、キス、とかされたら!
…ダメだ、童貞剥き出しの思考だったな。いやそれでも吃驚するわ。
「いや、そういう事じゃないんだけどね…まあそっちはサービスで。他のみんなには言っちゃダメだよ?」
美少女は人差し指を口に当ててウィンクして見せる。
「と、所でどちら様ですか?そして此処は一体…」
とそこまで聞いて気がついた。さっきの出来事、そして目の前の美少女、気づけば見知らぬ場所。周りを見渡すと真っ白だ。建物の中にいて、外の様子も見えるのだが何故かよく分からない。こんな不思議な場所にいたら、オタクならば嫌でもわかる。
「…俺、死んだのか。」
何と言うか、安心した。心残りはあるが、最後の瞬間の苦痛が無かったので俺は安堵する。
「うーん、冷静だね。さっきまでの事が嘘みたいだ。けど、ちょっと違う。」
ん?違うのか?
「これ、死んだ人を選別して此処に送ってくる装置なんだけど…」
そう言って美少女はストーブを取り出…ストーブ!?ストーブってあの世だとこんな使い方なのか!俺、生前八つ当たりで蹴り壊しちゃったよ。
「どうやら君は、死ぬ予定じゃないのに、此処に連れてこられちゃったらしいんだ。魂だけね。」
「あれ?じゃあ俺生きてんの?」
何だ、生き返れるのか。なんかもっかい死ぬのは怖いけど、未練があるので生き返れるなら生き返りたい。
「…言いにくいんだけど、君が魂だけ飛ばされた後、ここに到着するまでタイムラグがあったんだ。半日ほどね。君は水の中で体を動かすことが出来ず、溺死してしまった。」
おぉう、マジか。じゃあ俺はあのストーブのせいで死んだという事か。俺のストーブへのヘイトが最大値まで溜まった。
「まあ、君が死んだのはボク達の手違いだからね。君ならきっと、剣と魔法のファンタジー世界に転生したいとか言うでしょ?」
うお、お見通しですか。そして、ボクっ娘ですか。最高です。
「所で、そんな事が出来るって事は女神様ですか?」
「そうだけど…急に敬語はやめて欲しいかな…様付けもいいよ。」
うん、性格までどストライクだ。もう死んでもいいや。あ、死んでた。
「んー、じゃ、転生をお願いするか。元の世界に転生しても、妹とかにはもう関われないだろうし…」
っていうか、絶対怒ってるだろうな。
「分かったよ。女神からの贈り物は何がいい?」
「チート…んー…なんか、ゲームみたいにステータスウィンドウ弄ったりできたらいいな。これって結構チートだしさ。」
「んー、分かったよ。他は?」
ん?まだ頼めるのか?
「じゃあスキルポイント機能とか欲しいな…レベルが上がるとスキルポイントがゲットできて、普通ならゲットできないスキルを覚えれるとか…」
「うん、あと一つ。」
ランプの魔神か!とツッコミを入れそうになるがぐっと堪え、最後の一つをお願いする。
「そうだな…MPとかあるんだろ?MPとかのエネルギーと物質を相互互換できる能力がいいな。そうしたらMPを犠牲にあらゆる物質が手に入る。」
「え?ま、まあいいけど。ボーナスで能力の強化もしておいてあげるよ。」
うん、至れり尽くせりだ。今度こそ、今度の人生こそは楽しくやってやる。チートスキルでハーレム作るのもいいな。颯大を見返してやるんだ。もう会うことないけど。
くっ、悲しくなってきた。気が変わらないうちに転生してしまおう。
「じゃあ、転生お願いするわ。」
「分かった。頼んだよストーブ。」
あ、ここでもそう呼ぶんですね。
「ステータスの説明は要らないと思うけど、ジョブの説明はしておくよ。ファーストジョブは変更できない。こっちはその人の遺伝子から読み取られるジョブだからね。セカンド、サードジョブは自由だよ。基本はセカンドジョブがその人のジョブになる。」
成程、ホントの職業はセカンドジョブで、才能がファーストジョブなのか。サブ職業がサードジョブと。
「それじゃあ、また会う事があったらね。」
「あるかもしれないのか。神殿とかあったら訪ねてみるわ。」
俺の意識はそこで途切れる。
そして、やがて世界が色を取り戻す。1面の緑、気持ちいい風、俺は念願の異世界に来たんだ。
「ステータス、オン」
俺はステータスウィンドウを開く。何故か開き方が頭の中に浮かび上がり、分かった。
そこには簡易ステータスが書いてある。レベルは1、そりゃそうか。名前とかもそのまんまだ。さてと、ジョブは何なのだろう。
勇者?いやそれは無い。家の家系は基地外はいても勇者らしき人はいない。変人?そんな職業は無い。期待に胸を踊らせ、俺はファーストジョブを確認する。
【ファーストジョブ:社畜】
…。
眠い。