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働いた事なんて一度も無いのに異世界行ったら社畜だった俺の無双劇。  作者: 粉兎 / パンケーキ
第一章 異世界行ったら社畜になった
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9話 マーサとミーナ

 マーサ・リノユルドは、貴族であるリノユルド家の3女として生を受けた。リノユルド家はアーカルム王国スタリアの領主をしている家系で、3女のマーサにとっては領主とは手が届きそうで届かない物だった。

 

 長女のアイサは騎士の様に立派な人格者で、次期領主に最も近しい人物だった。彼女は多くの人々から支持を集め、自身で魔物の討伐に当たり、鍛錬を欠かさない、貴族の鏡だった。

 

 次女のリーシアは天才肌、あらゆる学問に才能を発揮し、武のアイサと文のリーシアと地元では呼ばれていた。リーシアは決して運動が出来ないわけではなく、何に対しても数日で家庭教師達を追い抜いた。彼女はする事を無くし、暇を見つけては庭で遊んでいた。

 

 無才のマーサには、それが許せなかった。自分がどれだけ苦労を重ねても出来ない事を、リーシアはあっさりと、何の苦労もせずして会得する。マーサにはそれが許せなかった。

 

 マーサが22歳の時、領主だった父が命を落とした。旅先で竜に襲われ、帰還はしたものの衰弱死してしまった。そこで領主としてリーシアが推薦される。推薦したのは母と、長女のアイサだった。

 

 マーサは激昴した。なぜリーシアなのか、自分が無才なのは仕方が無いが、何故アイサではないのか。それならば、あの努力を惜しまず民の為に鍛錬を繰り返すアイサならば諦めもついたというのに。

 

 やがてリーシアは結婚し、家庭を持った。自分の家を建て、そこから領主館に通う様になった。

 

 ある日の出来事だ、スタリア周辺の山間にて、ドラゴンが確認された。スタリアには、大きな戦力は多くない。事実上討伐には、スタリア最強と名高いアイサに頼むしかない状況だった。マーサは、リーシアにアイサに討伐を頼む様提案した。姉の勝利を疑わなかったからだ。

 

 勿論、領主の姉という立場上安全確保のために、大勢の護衛に囲まれ、何十人という大集団で討伐に向かった。冒険者や傭兵も多く雇われた。

 

 アイサ・リノユルドのドラゴン討伐隊は山に向かって出発する。その時はマーサもアイサの勝利を疑わず、姉を笑顔で送り出した。数日の遠征…

 

 帰ってきたのは、数人の冒険者だけだった。

 

 この時、マーサの怒りは頂点に達した。しかしその怒りは完全に八つ当たりであり、むしろ責められるべきはマーサであったのだが、彼女の嫉妬心と姉を失った悲しみは、理不尽にもう一人の姉へと向かった。

 

 何故止めなかったのかと。貴女ならこの結果は予測できただろうにと。結局自分の立場の為に、ドラゴンを利用してアイサを殺したのではないか、と。

 

 しかし、当然の事ながら責任問題となれば負けるのはマーサだ。彼女が提案したのだから。しかしマーサは納得しない、リーシアに謀られたと思い込み、リノユルド家を追放されながらもリーシアへの身勝手な復讐心を燃やし続けた。

 

 そしてミーナが7歳、マーサ・リノユルドは領主夫妻の殺害という凶行に及ぶ。この時ミーナはまだ知らない。両親を殺害したのが、叔母だということを。

 

 マーサの人格は、リーシアを殺害した時に崩壊した。彼女は人を殺す事に躊躇いがなくなり、リーシア夫妻から奪った金で専属の暗殺者まで雇って、あらゆる反逆者を殺して領主の座を勝ち取った。

 

 彼女は裏で、暗転のマーサと呼ばれる。

 

 

 

 ミーナ・シルバーリオは領主の娘として生まれた。ミーナは小さい頃から、一人でも生きていけるように厳しい教育を受けた。家事全般、剣術等のあらゆる武術、経済、経営、歴史…彼女には、リノユルド家のあらゆる知識が3歳の頃から詰め込まれた。

 

 母はよく、姉妹の話を聞かせてくれた。竜退治で戦死を遂げたアイサ、姉想いでやきもち焼きのマーサ、母は姉妹の事を楽しそうに語る。しかし、マーサの話をする時の母は、どこか悲しげだった。自分が浅慮だったせいでアイサが死に、マーサを悲しませてしまったと。お前のせいだと責められて当然だと。

 

 しかし、ミーナには分からなかった。話を聞く限り、提案したのはマーサであり、母はそれを受け入れただけだ。最終的な判断をしたとはいえ、マーサに責められる筋合いは無いように思えた。

 

 6歳になったミーナは理解する。叔母の異常なまでの嫉妬心に。そうだとすれば合点がいく。ミーナは誰よりも賢く、度を超えて優しい母を護らなければと思った。

 

 しかし、彼女は非力だった。7歳の少女に、逆賊を追い払う力は無かった。

 

 彼女は真っ先にマーサを疑ったが、それではマーサと同じ、マーサが母に迫ったのと同じだと、自分を抑え込んだ。彼女は唯一の肉親であるマーサに引き取られた。

 

 マーサは優しい叔母だった。もしかすると、マーサもははにあらぬ疑いをかけてしまったことを後悔しているのでは?と、ミーナは思った。彼女はまだ、幼かった。

 

 マーサの手帳を見つけたのは、10歳の時だ。ミーナはマーサの疑いを断ち切るため、その答えを見る事を恐れながらも手帳を開いた。

 

 

 

 その日、領主館は賊に襲われ、一人の少女が行方不明となった。その少女は死亡扱いとなった。

マーサのヘイトがどんどん溜まっていく…

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