7話 復讐というのは、復讐を生む不思議な循環的行為である
5000文字達成、日に日に執筆速度も上がってきてるのかな?
今回はちょっとシリアス回。
今回は後書きにキャラの性格をのっけておきました。読みたい人はドーゾ。
そんな木の実を食べつつ歩く事2時間。もうすぐ到着する。予定では俺は隠れ里には入らず、エミリアに聞いて来て貰う為だ。隠れ里には人間を良くは思わない奴らも大勢いる。そんな彼らとの衝突を避ける為の措置である。正直聞かせてもらえるかは期待はしていないが、藁にもすがる思いなのは事実だ。
俺がそんな事を考えながら歩いていると、急に前にいるエミリアが止まった。
「どうした?」
「・・・」
「おい、どうしたんだ?何か問題か?」
「・・・そんな」
と言って急に走り出した。ものすごい速さだ。
「エミリア!?おい!」
俺は慌てて追いかけたが、どんどん引き離される。こんなところで迷子はゴメンだ。俺は必死に追いかける。
しばらく走り、息も絶え絶えになったところで開けた場所に出た。エミリアが座り込んでいる。俺は息切れで、咳き込みながらエミリアに近づく。
「ハァ・・ゴホッゴホ・・ハァ・・おい・・ゴホッ・・エミリア・・ハァ・・置いて行くなって」
「・・・」
「ハァ・・エミリア?」
「・・・」
彼女は無言で前方に指をさす。息を整えそこを見た俺は、
「これは・・・一体?」
何か黒いオブジェがたくさん点在している。・・いや、オブジェじゃない。これは、
「焦げ臭い?・・焼け跡?まさか!?」
俺はエミリアの肩を掴んで揺らす。
「エミリア、エミリア!!まさかここか!?ここが隠れ里か!?」
「・・・ぁぁぁ、あああ、ああああああ!!!!」
「・・・そうなんだな」
エミリアの反応を見れば明らかだった。彼女は泣いていた。彼女の泣いた顔は初めて見るので少し戸惑う。
・・・一人にさせた方がいいか。
「少し調べてくる」
俺はそう言って、目を離さない位置にいるようにエミリアから離れた。
まずは周辺からだ。願わくば帰れる手がかりが見つかることを祈りつつ俺は捜索を始めた。
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結果的に言えば、手がかりなんぞ見つかりはしなかった。
焼け跡や周辺を調べて分かったことは、これは明らかに自然によるものではなく人災であるということだ。
まあ、ある意味予想通りであるが。
血だらけの死体がそこら中に転がっている。どれも男で、深い切り傷をつけられている。
そこまで観察した時、俺は自分が精神的に成長していることに気づいた。
「どういう事だ?普段なら吐き気が込み上げてくるはずなのに・・」
俺は基本的に血に耐性はない。人間の慣れ?精神的に図太くなった?なんでもいいが、この機会を逃すわけにはいかない。俺は更に周辺を調べて、分かった事をまとめる。
1、この事件は人災
この里の人たちは襲われたのだろう。馬の蹄の跡、人の足跡、それにおそらく車輪の跡も見つけた。逃げ出したとも考えられるが、あちこちに戦闘の痕跡がある。
2、死亡者は男性のみ
女性と思われる死体は1つもなかった。念のため里の近くの茂みなどを探したが、何もなかった。攫われたと考えて間違えないだろう。おそらく奴隷として。
3、この里を襲った人たちはただの物取りではない
いわゆる、賊などと呼ばれる者たちの犯行ではないということだ。規模が大きすぎるし、20人以上が等間隔で1列に並んだ痕跡も残っている。そして、パッと見ただけでも、足跡は50人以上の存在を示している。
こんなものか、エミリアのことが気になる。戻ろう。
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エミリアは別れた場所と同じところにいた。体育座りをして、顔を埋めており、泣き声は聞こえない。
彼女に近づいて声をかける。
「大丈夫か」
「・・・」
無言。無理もないか、自分以外全滅。ショックは大きいだろう。俺は再び辺りを調べようと背を向けようとすると、ズボンの裾に違和感があった。
「・・・(ギュ)」
「・・なあ、エミリア、離してくれないか?」
「・・・ぐすっ(ギュ)」
「・・わかったよ、そんな顔をするな」
と言って隣に座る。しばし、無言の時間が過ぎる。最初に口を開いたのはエミリアだった。
「・・・ゴメン、もう大丈夫」
「気にするな、もう平気なのか?」
「あんまり・・」
そう言った彼女の声にはいつもの覇気がなくとても弱々しかった。俺はふとあることを思いつく。
「エミリア、ちょっと失礼するぞ」
俺はブレザーのボタンを外すと有無を言わさず彼女の頭を胸元に引き寄せて肩を抱いた。妙に触り心地がいい頭をしている。
「・・え?ちょ!?」
「いいから、少し静かにしてろ」
これはいわゆる心臓の音による他者への鎮静効果、眉唾モノらしいがこの効果のミソは他者との接触による、安心感との相乗効果にある。これが意外と馬鹿にできない。動物は本能的に他者との接触を求める、安心感を得たいために、自分の中にある孤独を紛らせるために。いつだって人は孤独と戦う生き物だ。
俺の心臓はドクン、ドクンと音が響いている。しばらく、混乱したようにあたふたしてたエミリアも全体的に体を震わせてはいるが落ち着いてきた。おそらく泣いているのだろう、俺はぼんやりと目の前にある焼け跡を見ながら、これからのことを考えていた。無意識のうちに彼女の触り心地いい頭を撫でていたのに気付いたのは、彼女が顔を真っ赤にして慌てて俺から離れた時だった。
「もう、大丈夫!大丈夫だから!ちょっと聞いてるの!?」
「・・・ん?ああ、すまない」
考え事をしていると、周りが見えなくなってしまうのが俺の悪い癖だ。俺は彼女を解放する。
エミリアは慌てて俺から離れて近くの木に近づくと、
「しっかりしなさいエミリア・リンドバーグ。これは不可抗力、一瞬の気の迷いよ。大体、あんな人間のどこがいいの?出会ってまだ1日よ。ちょっと優しくされたからって、ありえない。ありえないんだからーーーー!!!」
そう言って木に頭を何度もぶつける。声が小さくて最後の部分しか聞き取れなかったが、ありえないと言っていた。何がありえないんだろうか?もしかして、まだ混乱しているのか?俺は慌てて、彼女を羽交い締めする。
「おいやめろ、そんなことをしたってこの惨状は変わらんぞ」
「いやーー!!こいつは全然何とも思ってないーー!!勘違いしているしーー!!」
「何が勘違いだ、お前はこの現実から目を背けようとしているんだろう?」
「あってるけど!!あってるけど、あってないーー!!」
「???」
結局彼女は数分そんな状態だった。一体何だったんだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
「落ち着いたか?」
「はい」
「で、そんな状態になったことに対する説明は?」
「ごめんなさい・・」
「どうしてもか?」
「勘弁して下さい・・」
どんどん小さくなっていくエミリア、これ以上は聞き出せないか・・
「とにかく、さっきのことはこの惨状が原因じゃないんだな?」
「はい、その通りです。その節はご迷惑をおかけしました。」
「・・・」
ついに、土下座までし始めた。
「・・なあ、元に戻ってくれないか?なんかやりづらい」
「は・・うん、わかった」
今、はい。って言いかけたよな。まあ良い、俺はエミリアにさっき調べた内容を話す。
最初は消沈していたエミリアの顔は怒りでどんどん歪んでいき、ついに爆発した。
「・・殺すわ」
「え?」
「全員皆殺しにしてやる!!」
言うが早いか、エミリアは駆け出そうとする。なんとなくそれを予想していた俺はそれをまた羽交い締めでしっかり捕まえる。こちらを振り向いた彼女の目は怒りで爛々と燃えている。空みたいな水色の瞳の中は復讐の炎で染まっていた。
「離しなさい!!」
「拒否する」
「邪魔するならあんたも殺す!!」
そう言ってエミリアはどこからともなく短刀を取り出す、ナイフといったほうがいいのか、刃渡り20センチぐらい。
少しドキリとしたが、俺は努めて冷静にエミリアに諭す。
「大体、どこへ連れ去られたのか分かるのか?」
「うるさい!!」
「それに敵の人数だって分からない」
「うるさい!」
「作戦なんてないんだろう?」
「うるさい・・」
「さらに言うならお前は1人で行くつもりなのか?」
「・・・」
「冷静に考えてみろ、お前がやろうとしていることは、ただの犬死にだ」
エミリアがナイフを力なく落とし座り込む。少し、言いすぎたか。と思ったら、急に立ち上がり。俺のネクタイを掴んで叫んだ。
「だったらどうするの!?私はどうすればいいの!?みんなを助けたいよ!教えてよ!!あんた頭いいじゃない!教えてよ。何かないの・・何かないの、龍一・・・」
「・・・」
彼女はまた俺の胸元で泣き始めてしまった。
激情・・
こんなに真直ぐ人に向かって物を言ってくる奴は現代日本において少ない。我慢することに慣れているから。
社会・政治・国民性、どれを取っても日本人は我慢という言葉がよく似合う。
何かあっても、頭を下げて誠心誠意謝れば大抵のことは許してくれる。そんな国だ。
だからこそだろう、こんなにも感情をあらわにしてぶつかってくる奴が気になるのは、仕方がない。
こんなにも頼み込んできているんだ少し頭を使って現状の戦力で救出できるか考えてみよう。考えるだけならタダだ。
1、敵はどんなに少なく見積もっても100以上
敵がどんな集団だろうが、本拠地を空にして攻めてくるなんぞありえない。必ず後方部隊がいるはずだ。そんなことをする連中は馬鹿だ、おそらくエルフたちも負けはしないだろう。
2、この場所を知っていた
一応隠れ里というぐらいだから、秘密の場所だったのだろう。だが、敵はこの場所を知っていた。こちらの情報はある程度バレている可能性が高い。
3、敵は訓練されている可能性が高い
等間隔で1列に並んだことから、敵には誰か命令する立場の存在がいた可能性がある。しかも、等間隔で並んでいることは偶然ではなく日頃から並ぶ機会が多いということ。さらに言えば、弓や魔法が使えるエルフたちを真っ向からねじ伏せる技量を持っている。以上の点から推察すると、
軍隊
そう結論付けて問題ないだろう。
そこまで考えて俺は首を振った。どう考えても無謀、攫われた人たちを救出する手立てはない。武器もない、武術の心得もない、魔法も使えない、情報もない。八方塞がりだ。
(くそっ、何かないのか、考えろ考えるんだ。
エルフ、
魔法、
奴隷、
軍隊、
精霊、・・・・・精霊?)
精霊!そうだ!なぜ精霊はなぜ見逃した?彼らは気に入った相手に危害を加えられた場合容赦しないはずだ。
なのになぜ襲撃者たちを見逃した?昨日の話は嘘?
「おい、エミリア!」
「・・・何よ、話しかけないで」
少し考えている間にすっかりへそを曲げている。だが、気にせず俺は聞く。
「昨日の精霊の話に嘘はあるか?」
「・・・」
「エミリア、大事なことなんだ正直に答えてくれ」
「・・・」
「・・・頼む」
「・・・嘘なんてないわよ」
「本当か?」
「本当よ!」
こちらの目をまっすぐ見るエミリアの目は嘘をついてないように見える。
となると・・・昨日話してくれた精霊の災いの話はエミリアが知らない ”何か” がある可能性がある。
例えば、精霊の苦手なものとか。
あるいは、精霊には天敵のようなものがいるとか。
それか、精霊が災いを起こせない何かがあるとか。
このカラクリが解ければ、突破口が見える気がする。
「エミリア」
「・・・(プイッ)」
「・・エミリアさーん」
「・・・(プイッ!)」
面倒臭いな、ならば戦法を変えて・・
「実はいい作戦が浮かんだんだよなー」
「・・・ピクッ」
耳が動いた。興味があるらしい。
「この作戦が成功すれば、攫われた人たちが助かるかもしれないなー」
「・・・ピクピクッ」
強情だな。少しからかってやろう。
「エミリアの協力がなければ絶対に不可能だなー」
「・・・」
「まー、俺はエルフたちがどうなろうと知ったことじゃないし」
「・・・(バッ!)」
こっちを向いたエミリアの顔はまさに絶望した顔だった。
「え?・・嘘だよね、龍一?」
「いや本当」
そういった次の瞬間にはエミリアは腰にしがみついていた。
「ご、ご、ごめんなさい。お願い、教えて。みんなを助けたいの!無視したの謝るから!ごめんなさい、お願いします!」
「・・・・フフッ、ハハ、必死すぎる」
「ふぇ?」
こんなにうまくいくとは思わずつい笑ってしまった。からかわれているのに気付き、エミリアの顔が赤くなっていく。
「エミリアって本当に真っ直ぐだよな」
「・・・」
顔を真っ赤にして睨みつけているが、全く怖くない。
「それで?話を聞くか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・聞く」
たっぷりの沈黙の後エミリアはそう答えた。
葛城 龍一
主人公
理性的、慎重な行動を第一としています。
感情に流されることはせず、自分が不利だと分かれば即座に逃げます。
ただし、追い詰められ逃げるのが困難な時は、その状況で最も早く解決する選択肢を選びます。
考えるのが趣味という変わった人間です。
エミリア・リンドバーグ
基本的に感情で動く奴です(笑)。
だから、笑いたい時には笑うし、泣きたい時には泣きます。
基本的に素直ですが、時々強情な部分もあり。
あと少し、頭が足りません。いわゆる、おバカキャラ。