6話 世界について勉強することは意外と役に立つことが多い
今回は4000文字ぐらい。
エルフの里の人数を明記していなかったので修正しました。
エミリアと情報交換をした俺は疲労困憊だった。今日は色々散々な目にあった。今すぐ横になりたい。だが、まだ寝るわけにはいかない。ちなみに彼女は地球のことを根堀り葉掘り聞いて、へーとか、ほーとか、ふーんとかリアクションをし、
「凄いわね異世界、私も行ってみたいなー」
などと呑気なことを言って、「私は眠いから寝るね」といって寝てしまった。
見張りは精霊がいるから必要ないらしい、便利なものだ。俺には精霊とやらは見えないが。
隣でグッスリ寝ている彼女を尻目に分かったことをメモしていく。
1、100%ここは異世界だということ
世界観は現実世界にあるファンタジー作品に近い、こんなことになるぐらいなら真面目に読んでおけばよかった。
ちなみに俺が殺した生物はゴブリンというらしい。つくづくファンタジーな世界だ。
2、話す言葉は日本語
信じられないが、日本語が母国語らしい。この世界の共通語だ。これには助かった。
3、現在位置はリンガ王国の外れネブの森
王制度。現代の先進国では少なくなったが、ここでは現役だ。帝国とやらもあるらしい。
王国と帝国は仲が悪い。ずっと開戦間際の状態だ。
そして、この鬱蒼とした森の中を更に進むと隠れ里があるらしい。およそ、50名ほどのエルフたちが暮らす隠れ里だ。エルフたちは基本的に人間から隠れて暮らしている。
隠れる理由は迫害の対象だから、どこの世界の人間達も自分たちと違う種族と仲良くする気はないらしい。
ご苦労なことで。
4、エルフやその他の種族は亜人と呼ばれている。
ドワーフや獣人などもいるらしい。彼らも迫害の対象だ。奴隷みたいな扱いを受けている。特にエルフは綺麗、弓の名手、精霊と会話できる、三拍子とあって人気らしい。後述するが精霊は彼らにとっての神の使いであり力の象徴だ、精霊を持っていれば持っているほどその家は繁栄すると言われているらしい。
5、神様がいる
正確にはそう信じられている。宗教が存在しており、詳しく聞くとキリスト教に近い。
唯一神がおり、神の使いは天使ではなく精霊。精霊は万能であり、絶対。
嘘はつかず、力は強大で、気に入った奴の前にしか姿を現さない。
そして、気に入った相手を仇なす存在には容赦しない。その存在に対して災いを起こし他の精霊たちも怒り狂う。
そして、攻撃してきた存在を、叩きのめす。ひどい時には国が滅ぶことなどあったらしい。
エルフは特に精霊に好かれやすい。
彼女が俺という人間を信用しているわけは、精霊が俺が悪意のある人間ではないとわかるからだそうだ。信じられないだろうが、精霊は人の善悪がわかるらしい。
つまり、俺は大丈夫な存在だということだ。
6、文明レベルは中世クラス
電気はない、化石燃料もない、ましてや科学という概念すら怪しい。移動手段は徒歩か馬。
科学技術が発達していないのは、必要ないからだ。彼らには魔法がある。
ガスと点火装置がなくても火を出せるし、水道がなくても水を出せる。
現代で科学技術が発達したのは、世の中を便利にするため。つまり、それ以上に便利なものがあれば、みんなそっちを使う。科学など発展するはずがない。
7、魔法が存在する
アニメや創作の物語でよく見かける、手から火を出したり、水を出したりするアレだ。そんなのありえないと言ったら、エミリアは知らない言葉をつぶやき、次の瞬間にはエミリアの手には握りこぶしくらいの水の塊が浮いていた。目を点にしていると、それが顔面に飛んできた。
「信じた?」といって笑うエミリア。信じる証拠にはなったが、俺の顔はびしょ濡れだ。
「貴重な経験をどうも」と皮肉を言っておいた。
そして、俺はエミリアに魔法のことについて聞いた時ふとこう思った、
世界を移動する
こんなことを起こせるのは、もはや超常現象ぐらいだ。現代科学では太刀打ちできない。
だが、魔法ならどうか?とエミリアに聞く。
しかし、エミリアの答えは芳しくない。そんな魔法見たことも聞いたこともないという。
絶望に打ちひしがれている俺に、エミリアが思いついたように言う。
「そういえば、古い魔法に世界渡航の魔法があったような・・・」
「なんだと!?知っているのか!?」
あるらしい。やった、やったぞ!これで帰れる!俺はエミリアの肩を掴み揺らす。
「教えてくれ、頼む!」
「ちょちょ、ちょっと待って!私は知らないの、里にいる長老が知ってるの!」
「長老?」
「里で一番の賢者で長生き、900年以上生きてるすごい人よ」
「900・・・その人に会えば教えてくれるのか?」
「わからない、少し頑固だし人間嫌いだから」
「じゃあ無理だな」
「なんで?」
年をとった人は自分の中に確固たる信念を持っている人が多い、それを変えるというのは至難の技だし、変えようとすると大体怒る。
「年寄りは頭が固い」
「それだけ?」
「そうだ、それだけ」
ふと、エミリアに今の会話で気になったことを聞く。
「そういえば、エルフってどれくらい生きるんだ?」
「そうねー、うーん。800・・900ぐらい?一番の長寿のエルフは1068歳だったみたい」
「1世紀も生きれるのかよ・・・エミリアは?」
「何が?」
「年齢だよ。俺は17だ」
「女性に年齢を聞くなんて失礼ね。」
「ダメか?」
「・・161よ。もう子供じゃないわ」
「え?・・あ、そうか人間ならありえないはずの高齢だが、エルフ的に見れば10代なのか」
エルフの平均寿命は人間の平均寿命の10倍なんだから161歳というのはエルフ的に見れば16歳ということだ。
・・・本題に戻ろう。
「とにかく、おまえが里で世界渡航の魔法の詳細を聞いてくれないか?」
「・・ま、困っているみたいだし。一応助けてくれたしね、やるだけやってみるわ。」
「感謝する」
思い出しながら書いたメモを書き終える。
「・・・俺は帰れるのか・・」
不安は尽きない、だが進むこと止めればその時点で死ぬ。こんな文明レベルが中世の世界だ。正直何が起こるかわからない、治安、医療機関、警察組織。様々なことが現代日本と違う、俺はここで一人で生きていける気はしない。
「寝よう」
草が生えているが硬い地面に横になる。リュックは枕代わりだ。
俺は今日のことを考えていた。俺は幸運だ。エミリアと出会い、会話し、情報を手に入れられることができた。
彼女は友好的に接してくれし、昼間の件ではこちらを見捨てることもできたが、助けてくれた。いくらエミリアが魔法が使えるとしてもだ。
彼女は優しいのだろう。でなければこんな面倒な性格の俺と一緒に行動するなんて、ストレスになるに違いない。
他人は基本信用しないと決めているが、少しだけ歩み寄ってもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、俺の異世界生活最初の夜は更けていった。
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翌日は雲ひとつない快晴だった。野宿なんて経験したこない俺は身体中が痛かった。対してエミリアは元気そうだ。
「今日もいい天気ねー」と伸びまでしている。
「よく眠っていたな」
「どこでも寝られるのが、私の特技なの」
と、ニコニコしながら彼女は言う。相変わらず非常に均整のとれた顔だ。美人はそれだけで得などと言われているが、まさしくその通りだと思う。
「さあ、今日のうちに里に行くわよ!」
エミリアは気合を入れる。俺はふと気になったことを聞いて見る。
「里までどれくらいなんだ?」
「うーん。私の足で日が上になるぐらい?」
腕時計を確認する、現在時刻7時。
「・・・ハァ5時間も歩くのかよ」
思わずため息が漏れる。革靴だからか歩きづらい、汚れた靴下は昨日燃やしてしまい片方は裸足なのもあるのかもしれない。
「さあ、行くわよ」
「ああ」
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歩き始めてから、3時間。森は続いている。さすがに限界がきた。エミリアは遥か先を歩いている、彼女のペースは想像以上だった。
「ハァ・・ハァ・・」
「だいじょうぶーー?」
「少し・・休憩・・・・させてくれ」
「わかったーー」
俺はその場に座り込む、彼女は小走りで戻ってきた。俺は水筒の水を飲む。この水はエミリアの魔法で作られた水だ。
「川の水じゃダメなの?」と彼女は聞いてきたが、俺は断固拒否した。エミリアは苦笑いしていたが、感染症になるよりよっぽどマシだ。
喉が潤った後、腹がなった。
「何?お腹減ってるの?」
「昨日の昼から、何も食べていないからな」
また腹がなる。一度空腹と認識すると、さらに体が訴えてくる。
「これ食べる?」と言ってエミリアはポーチから赤い木の実を数個取り出した。
「これは?」
「リーの実、おいしいよ」と言って1個食べる。
これはありがたい。たとえ木の実だろうがなんだろうが、今は何か腹に入れておきたい。
礼を言って俺も木の実を1個食べる。が、
「・・・味がしない」
食感はサクランボに近い、中に種も1つ入っている。が、味がしない。何もしない。
「そう?甘くて美味しいじゃない」
彼女は美味しそうに食べている。これの味が分かるらしい。俺はもう1個食べるが、
「・・・やっぱり分からない」
「・・人間には分かんないのかな?」
「そうだ、お前エルフじゃねーか!」
うっかり忘れていたが、こいつはエルフ。つまり人間である俺と感覚器官が違う可能性がある。さらには人間にも普通の人より味覚が鋭いスーパーテイスターなる人たちもいる。分からなくて当然だ。それにしても、
「木の実のくせに味がなくていいのか・・・?」
俺はそうぼやきながら木の実をもう1個食べた。やっぱり味はしなかった。