4話 エルフというのは北欧神話に登場する空想上の生物だ
書きたいことはいっぱいあるのに執筆速度が遅すぎて1日使っても1話書き終わらない。
「だ、大丈夫?」
と、目の前の弓持ち女に心配されている。喋ってる言葉はちゃんと日本語で少し嬉しくなったが、吐き気がおさまらない。草むらで吐くこと、1分。口をゆすぐのに水筒の水を使ったため水筒は空になった。まだ、気分が悪い。
「こ、これ使う?」
と言って皮の袋を差し出してきた。
「・・・・・これは?」
「え?、水だけど。」
「・・・・どう使う?」
「えーと?ここをこうして・・・」
と、丁寧に教えてくれた。水は危険かと思ったが、この不快感を取り除くには背に腹はかえられなかった。
皮の袋の水を半分使い口をゆすぎ終わり、ありがとう、と言って袋を返す。
「どういたしまして」
弓持ち女は笑いながら、袋を受け取った。よく見ると鼻が少し赤い、泣いていたのか?
「私はエミリア、エミリア・リンドバーグよ、あなたは?」
「俺は・・・」
エミリア・・・やはり、外人か。自分の名前を喋ろうとして、少し考える。ここは素直に答えてもいいのか?こいつは信用に足る奴か?ましてや日本人は外交に弱い、誘拐されたら終わりだ。最悪国に見捨てられる・・・
「ちょっと!!聞いてるの!?」
「!!ああ、聞いている。」
「名前は?」
「葛城・・・龍一」
「カツラギ?変な名前ね。」
大きな声に思考がブッた切られて思わず、本当のことを言ってしまった。
一度言ったことは覆すのは難しい。諦めるしかないか。
「龍一が俺の名前だ。」
「え?・・・ああ、東方の人間なのか、こんな遠くまで大変だったわね。」
「東方?あ、いや、それよりもここはどこなんだ?」
色々気になる単語が出てきたが、まずは現状確認を優先することにした。
「ここ?ここはリンガ王国の外れ、アグーダの街へ続く道よ。」
やはり外国、しかも知らない国だ。少なくとも地理の授業では出てきてない。ここがどこだか見当もつかない。俺は溜息をつく。
「ねえ、本当に大丈夫?」
エミリアと名乗った女がこちらを覗き込む、俺がじっと見返すと頬が赤くなり、視線が右往左往し始める。
気にせず彼女の顔を確認する。
パッと見た限り人形みたいな非常に均整のとれた顔をしている。
顔・・小顔。少し頬が赤い。
目・・空みたいな水色、二重。目が泳いでいる。目元は少し、腫れている。
鼻・・スッとして女優みたいな綺麗な鼻。少し赤い。
口・・小さい。
耳・・細長い、先が尖っている。・・・・・・細長い?尖っている??
この時点で、俺はある1人のクラスメートのことを思い出していた。
「・・・1つ聞いてもいいか。」
「な、何よ?」
なぜ目を逸らす。まあいい。この質問は馬鹿げているが、重要なことだ。
「この国の人間は耳が長いのが特徴なのか?」
え?と、言葉を発した数秒の後エミリアという女は笑いだした。
「プッ、アハ、アハハハハ!なんだそうか、そういうことね。あんたエルフを見たの初めてでしょう。アハハハハ!!あーおかしい!アハハ!」
俺は耳を疑った。こいつ、今なんといった?エルフ?確か北欧神話に出てくる妖精?バカな!そんなバカな!!
あいつが言っていたことが、事実だと!?荒唐無稽すぎる!
・・・だがつけ耳には見えない。動いている。しかも、彼女は笑っていて興奮しているのだろう、その耳が赤くなってきた。
ありえない。だが、現実に彼女は実在している。さっきの謎の生物を殴打した感触も残っている。そばに転がっている靴下も血で赤黒く染まっている。それに見たこともない植物。
すべて現実だ。ここらにあるものが、そう主張していた。
気が遠くなる。倒れそうだ。だが、まだ聞かなくてはならないことがある。わずかな望みをかけて、目の前でまだ笑っている。エミリアに疑問を投げかける。
「・・・・日本を知っているか?」
「ヒー、ヒー。え?何?クフフ。」
「日本国という国を知っているか?」
「んー?ニホンコク?何それ?知らない。どこにあるの?」
詰み、完璧な詰みだ。俺の理性はついに限界をむかえて、倒れた。
エミリアがびっくりしたように駆け寄ってくる。俺の記憶はここまでだった。
ーーーーーーーー
目の前で、急に彼が倒れた。
「ちょっと!?しっかりしなさい!」
慌てて、彼の元に駆け寄る。もしかしたら、敵の攻撃で毒などの遅延効果のある何かを受けた可能性がある。
嘔吐もしていたし、顔色も悪そうに見えた。私は脈を確認する。エルフ族は森で暮らしているためほとんどの者は耳が良い。たまに人間社会の音に慣れすぎて耳が悪くなっている者もいるが、それは稀だ。とにかく、毒などで呼吸が荒くなればすぐにわかる。
「毒じゃないか・・」
幸い、毒ではなかった。もし、毒だった場合残念ながら彼は助からなかっただろう。それだけ毒は危険だ。解毒剤はあるが、個々で使い分けなくてはいけない。最悪の場合、薬の副作用で死に至る。それに彼は路肩の草むらに入っていた、そこにはどんな植物があるかわからない。毒に侵されていた場合、毒の特定は困難だっただろう。
ふと、彼の服装に目を向ける、長袖に長ズボン。これが、草の切り傷から保護したらしい。どちらも見たことがない。触ってみると肌触りが良く、かなり頑丈に作られていることがわかる。
彼は貴族なのか?そうも考えたが、それにしてはエルフを見ていないのが不思議だ。貴族には奴隷として扱われることも多いはずなのに。
それに、精霊は彼を無害な存在だと伝えている。精霊は嘘はつかない、そして嘘をつく者には決して懐かない。
まあ、悪気がない場合も無害と判断するから、さっきの商人のようなこともある。
・・・何か忘れているような?まあいいか。
『ノルン、彼は貴族?』
私は精霊語で傍にいる精霊に語りかける。
精霊ノルン、里からの付き合いで私の一番の相棒だ。羊みたいにモコモコしている。
しばらくすると、
『違うと思う、でも彼は気になる』と、ノルンから返事が来た。
珍しい、精霊が人間を気にするなんて。
『じゃあ、彼は何なの?』
『・・分からない、多分すごく遠いところから来たと思う』
『東方でしょ』
『違う、もっともっと遠いところから』
『・・・どこなの?』
『・・・』
『ノルン?』
「うぅ」と、声が聞こえた。思わず体がビクリとするヤバイ、これは彼の声じゃない、私が殴って気絶させた商人の声だ。サッと血の気が失せる。完全に忘れてた、無意識の内に殴ってしまったせいだ。慌てている間に商人が目を覚ます。
体を起こして辺りを見渡し、私を見るとみるみる内に憤怒の表情になる。
「貴様っ!?よくも私の顔を・・」
「やばっ」
私は素早く逃げようとし、彼を見た。
精霊が気になった人間、
精霊がわからない人間、
何より私を見ても蔑まなかった人間。
私は素早く彼と荷物を持つと魔法を唱える。
『・・風よ!』
「何だと貴様!精霊魔法が・・・」
商人の声は最後まで聞こえなかった。私たちは地面を滑るように滑走し、商人の姿はあっという間に見えなくなった。